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シンプルな色と形を見て 「アートとは何か」について考える

  • 2026.3.19
© 2026 Judd Foundation/ARS, NY/JASPAR, Tokyo.

<写真>15点の無題の作品 1980–1984年コンクリート チナティ財団、テキサス州マーファ Permanent collection, The Chinati Foundation, Marfa, Texas. Photo by Florian Holzherr, courtesy The Chinati Foundation. Donald Judd Art

小崎哲哉さん、山口桂さん、河内タカさんが交代で担当している『婦人画報』のアートコーナー「アートの杜 賢者の深掘り」では、開催中の注目の美術展をピックアップ。

『REALKYOTO FORUM』編集長の小崎哲哉さんが今回ご紹介するのは、『ジャッド|マーファ展』と、『福田尚代 あわいのほとり』です。

素材と形に徹するジャッド、言葉と記憶を彫刻する福田

優れたアーティストは──いや、どんな領域であれ優れた人物は──物事を原理的・論理的・徹底的に考え抜きます。マルセル・デュシャンは「アートとは何か」について思いを凝らし、既製品をほぼそのまま提示する「レディメイド」を考案しました。男性用小便器に日付と偽の署名を施しただけの《ファウンテン》(1917年)などによって、アートの概念を根本的に変革したのです。

1960年代前半に興隆したミニマリズムを代表するのがドナルド・ジャッド(1928〜1994年)。デュシャンと同じく「アートとは何か」を考え抜いたアーティストです。伝統的な絵画や彫刻は、具体的な何かを、それとは別の絵具、粘土、木、石、金属、樹脂などの素材で表象します。絵画の場合、形は四角形のキャンバスに制限され、彫刻では、素材が何であるかは強調されずにむしろ隠される。ジャッドはそうではなく素材を明示し、色は最小限、形はシンプルにとどめ、遠近法などの絵画的イリュージョンを用いず、記憶や物語に依らない純粋な知覚対象としての物質=作品を追求しました。

たどり着いたのは、工業製品に使用される合板、ステンレス・スチール、アルミ、プレキシグラス、コンクリートなどで出来た幾何学的立体です。設計図を書くだけで、制作は職人や工業メーカーに委ね、多くの作品名を《無題》としました。表現に伴う作家の個性表出を極力排し、観客に物質=作品の特性と形態を直接認識させようと努めたのです。

40代になって、ニューヨークから、メキシコ国境に近いテキサス州マーファに移住します。砂漠の真ん中にある軍施設の跡地に自作や他の作家の作品を展示し、自分が理想的と考える広大な鑑賞空間を築きました。建築も家具も自ら手がけています。

本展はジャッドのアート観を捉えようとする試みです。どんな作品をつくり、どのように見せたかったかを、マーファの写真や図面やドローイングによって、現地に足を運ばずして見て取る機会となるでしょう。

2003~2022年 頁を折り込まれた書物 作家蔵 撮影=髙橋健治

福田尚代の作風はジャッドと正反対です。文房具や言葉を偏愛し、主題は記憶と物語。でも、消しゴムを彫ったり本を削りおろしたり(!)した作品から受ける印象は非常に近い。両展を見比べて「アートとは何か」について考えてみてください。

ジャッド|マーファ展

ドナルド・ジャッドの思想と制作・空間の関係を再考する展覧会。初期絵画から立体作品、マーファでの空間構想を写真やドローイングなどで紹介し、彼の包括的な芸術観に迫る。

会期/~6月7日(日)
時間/11時~19時
休館日/月曜(5月4日は開館)
料金/一般1,500円ほか
tel.03-3402-3001
会場/ワタリウム美術館[東京・外苑前]
Google mapで確認
東京都渋谷区神宮前3-7-6

ワタリウム美術館 公式サイト

福田尚代 あわいのほとり

本や手紙、鉛筆や消しゴムなど、言葉に関わり人の記憶を宿す物に彫刻を施す作品で、生と死の「あわい」を表現。初期から新作までの作品やインスタレーションを通じ、「世界は言葉でできている」という独自の創作世界を体感できる。

会期/~5月17日(日)
時間/9時30分~17時 ※入場は閉館の30分前まで
休館日/月曜(5月4日は開館)
料金/一般700円ほか
tel.0467-22-5000
会場/神奈川県立近代美術館 鎌倉別館[神奈川・鎌倉]
Google mapで確認
神奈川県鎌倉市雪ノ下2-8-1

神奈川県立近代美術館 鎌倉別館 公式サイト

文=小崎哲哉 編集=吉岡尚美(婦人画報編集部)

『婦人画報』2026年4月号より

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