1. トップ
  2. カルチャー・教養
  3. 【HERALBONY Art Prize 2026】異彩を放つ作家のアート展が開催。グローバルなアートの架け橋へと拡大中!

【HERALBONY Art Prize 2026】異彩を放つ作家のアート展が開催。グローバルなアートの架け橋へと拡大中!

  • 2026.5.11
ヘラルボニー

JR東北本線・釜石線を走る電車から商業施設を飾るバナー、アパレルブランド「アンリアレイジ」のコレクションピースまで、さまざまな空間やアイテムなどに彩られるヘラルボニーのアート作品を、一度は見かけたことがあるかもしれない。ヘラルボニーとは、作家たちとともに新たな文化の創造を目指すクリエイティブカンパニーのこと。アート作品を手がけているのは、主に知的障害がある作家たちだ。障害は欠落ではなく、人それぞれに違った個性や異なった彩りだという考えから、障害は「異彩」 だというメッセージを発信し続けている。

障害のイメージ変容を目指すヘラルボニー主催の「HERALBONY Art Prize 2026 Presented by 東京建物|Brillia」は、今年で3回目。この障害がある作家たちの輝かしい才能を称える国際アートアワードの受賞者とファイナリストの作品62点が並ぶ展覧会が、2026年5月30日(土)から都内で開催される。

ヘラルボニーを創業した双子の兄弟 松田文登(マツダ・フミト)さんと松田崇弥(タカヤ)さんが目指しているのは、“出口のある”アワードだ。その出口とは。そして、なぜアートなのか。アワードの審査員を務める東京藝術大学長 日比野克彦(ヒビノ・カツヒコ)さんにもお話を聞いた。

スケールアップするアワード

2,943点。この数字は、今年の「HERALBONY Art Prize」のために世界各国から送られてきた作品の数だ。第1回目はヘラルボニー側から福祉施設などに声をかけ、集まった作品数は28カ国から合計1,973点。今年は海外の福祉施設から自発的に応募があるほど認知度が広がり、最終的に77の国と地域から1,342名のアーティスト、総数2,943点の作品が集まった。応募数は過去最多だ。

審査員には、2025年3月まで金沢21世紀美術館のチーフキュレーターを務めた黒澤浩美さんや、サンフランシスコのアート団体Creativity Exploredのディレクター ハリエット・サーモンさん、EUWARDアーカイブおよびアトリエ・アウグスティヌム(アウグスティヌム財団)ディレクター兼キュレーター クラウス・メッヘラインさん、そして日比野克彦さんなどアート界の有識者が一堂に会し、数々の作品の中から、グランプリ受賞作品、審査員賞を選出した。賞には、アワードのパートナー企業より授与される企業賞もある。

グランプリ作品。カー・ハン・ムイ(オランダ) 《Zonder titel(無題)》制作年:2023 / 画材:色鉛筆、紙 / サイズ:704×1030mm ヘラルボニー

本アワードの第1回目から審査員を務め、多くの作品を見つめてきた日比野さん。「作品には“個性”がとても重要」と語るその目には、今回の応募作品はどのように映ったのだろうか。

「今年のグランプリ受賞作品は、構図や色と形の強弱・密度のバランスといった全体の構成力がとても特徴的で、目に留まりました。一般的な美術の教育を受けていると既存の価値基準で制作してしまいがちですが、そのような基準とはまったく違うところで表現されている点が一番の魅力。どのようにしてこの構成の発想に至ったのだろうと魅了されるのです」

審査員特別賞。鳥山シュウ(日本)《つみかさなる》制作年:2025 / 画材:アクリル、マーカー、画用紙/ サイズ:1091×767mm ヘラルボニー

「私が選んだ審査員特別賞の作品にも、作家自身の自分らしさがしっかりと表れています。作品から感じられる透明感や清涼感は偶然の産物ではなく、作家自身の意思で導き出したものに思え、その点が評価できます。誰にも変えることができない、信じ続けている強いこだわりを、ちゃんと自分で認識して描いた作品といえるでしょう」

3回目を迎え、世界各国から多様な作品が集まるアワードに成長させてきたヘラルボニー。その近年の活動を見て「躍進が止まらない」と表現する人も多いのではないだろうか。2024年5月にルイ・ヴィトンなどのメゾンを傘下に持つLVMHが設立した「LVMH Innovation Award 2024」にて「Employee Experience, Diversity & Inclusion」のカテゴリー賞を受賞。 世界各国の革新的なスタートアップを評価する本アワードで、日本企業がファイナリスト入りしたのは彼らが初。その年の7月には、パリに子会社HERALBONY EUROPEを設立するなど、海外展開を本格化している。

2018年に松田文登さんと崇弥さんの一番上の兄で、「自閉症で重度の知的障害のある翔太さんへの向けられる冷たい視線を変えたい」という思いから岩手県盛岡市で誕生した企業はいまや、アートを共通言語に国内外で共創の舞台を創り出そうとしている。

つなぐ、アートの架け橋

障害のイメージを変えたいとスタートしたヘラルボニーの存在は、アワードの認知度が徐々に上がっていくなかで、社会にどのようなインパクトを残しているのだろうか。

2022年時点のある調査によると、日本では80%以上の人が「障害」に対してネガティブな印象を持っているという。そもそも日本では「障害のある人と関わったことがない」という人の割合が多い。日本を含む7カ国(スウェーデン、アメリカ、イギリス、中国、台湾、インド)を対象に実施された調査の結果、他の国では「関わったことがない」と答えた割合がいずれも30%未満であったのに対して、日本では51.9%と2人に1人が関わりがないという数字に。日常で障害のある人と出会う場面といえば、福祉施設か、そこに通う間の公共交通機関がほとんど、というのが日本での現状だ。

本アワードの過去の受賞作家。左から内山.Kさん、鳥山シュウさん、澁田大輔さん、水上詩楽さん、古城貴博さん、大家美咲さん ヘラルボニー

だからこそ、「HERALBONY Art Prize」が“出口のある”アワードであることが重要なのだ。“出口のある”アワードとは作家たちが受賞して終わりではなく、そのあとに企業と協創したり、社会のなかで作品の発表の場を広げたりなど、一人の作家としてのさらなる活動につなげることを意味している。そうすることで、作家と社会との接点を増やし、作家と他者との出会い方を多様にする。アワードはあくまでも、作家の異彩を発信する“きっかけ”という位置づけなのだ。そして、この出口へ向かう道筋で、アートこそが人と人をつなぐ架け橋になっているのではないだろうか。

「今、社会のなかでアートの役割がもっと必要になってきています。アートの本来の役割は、“物”そのものではなく、人と人が交流して生まれる“心の揺らぎ”を得るきっかけになることです。アートは、心が動くための手段であり、その感動を共有できることが人間の生きる力になり、心の豊かさになるのだと思います」と、日比野さん。

2025年グランプリを受賞したエヴリン・ポスティックさん。2026年4月には、パリのヴェルサイユ宮殿で共創アートプロジェクトを実施した Kangal

崇弥さんも、ヘラルボニーのアート作品の価値を改めて再定義する。「これからの時代において、AIにはない人間性が、今後より一層価値を帯びていくと確信しています。『HERALBONY Art Prize』に集まる作品には、知的障害があるがゆえのこだわりから生まれる美しさが見受けられます。一つの行動や対象に対する強い執着、そこから派生するルーティンや規則的な動き——。そうした一見、非効率とも思え、AIが省いてしまうプロセスが独自の美を形作っているのです。本アワードをきっかけに、この価値をより強く打ち出していきたいです」

世界へ広がる、異彩の輪

2024年に「HERALBONY Art Prize」をスタートして以降、文登さんと崇弥さんが描いてきた出口が、今確かな輪郭を持って私たちの前に現れはじめている。 しかも、その出口の形は、とても多様だ。

2024年にグランプリに輝いた浅野春香さんは、自身のグランプリ作品を国連アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)の国際会議で披露 ヘラルボニー

2024年にグランプリに輝いた浅野春香さんは、タイの国連アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)の国際会議に出席し、ヘラルボニーの取り組みを発表する場に参加。タイの障害福祉の状況や、障害のある人がおかれている状況も視察した。彼女にとって人生初めての海外となったこの渡航では、現地の人々との交流の最中に絵を描きはじめる場面もあったそう。

パリ・ファッションウィークで発表された「アンリアレイジ」の2026年春夏コレクションピース Koji HIRANO

出口は、2026年春夏のパリ・ファッションウィークにも開かれていた。「アンリアレイジ」のコレクションピースにヘラルボニー契約作家18名による21点のアート作品が起用されたのだ。そのうち受賞者6名の生命力のあるアートがランウェイを彩った。

これまでの道のりを振り返りながら、文登さんは視線を未来に向けて話す。「原画で勝負する作家もいれば、服を通じて活動を広げていく作家もいるように、ヘラルボニーでは、作家一人ひとりに寄り添ったキャリアの出口を提供できるようにしています。多様な切り口や視点から障害のイメージを変えていく運動体として、ヘラルボニーはこれからもチャレンジしていきます」

ランウェイショー鑑賞する受賞作家の鳥山シュウさん(左から3番目) CANINE

他業種とのコラボレーションをはかりながら、着々と多くの人の心を魅了し、異彩の輪を広げているヘラルボニー 。私たちを惹きつける異彩とは何なのか、今一度見つめてみたい。作品からにじみ出る、表現することの根源的な喜びなのだろうか。「これを描きたい」「これが好き」という純粋な衝動なのだろうか。異彩の正体は、必ずしも一つではないかもしれない。だからこそ、作品を観るたくさんの人の心を震わせることができるのだろう。ぜひ、世界中から届いた無数の異彩が集まる空間に、足を運んでみてほしい。


会期/2026年5月30日(土)〜6月27日(土)※会期中無休
会場/
三井住友銀行東館 1階アース・ガーデン(東京都千代田区丸の内1-3-2)
開館時間/10:00~18:00
観覧料/無料

ヘラルボニー

松田文登:ゼネコンにて被災地の再建に従事、その後双子の弟・松田崇弥とともにへラルボニーを設立。4歳上の兄・翔太が小学校時代に記していた謎の言葉「ヘラルボニー」を社名に、福祉を起点に新たな文化の創造に挑む。ヘラルボニーの国内事業、主に岩手での事業を統括。第75回芸術選奨(芸術振興部門)文部科学大臣新人賞 受賞。

ヘラルボニー

松田崇弥:双子の兄・松田文登とともにヘラルボニーを設立。「異彩を、放て。」をミッションに掲げ、福祉を起点に新たな文化の創造に挑む。ヘラルボニーのクリエイティブを統括。第75回芸術選奨(芸術振興部門)文部科学大臣新人賞 受賞。

Hearst Owned

日比野克彦:1958年岐阜県生まれ。東京藝術大学に在学していた80年代前半より作家活動を開始し、社会メディアとアート活動を融合する表現領域の拡大に大きな注目が集まる。1995年ヴェネチア・ビエンナーレ出品。2015年文化庁芸術選奨芸術振興部門文部科学大臣賞受賞。2022年より東京藝術大学長。

元記事で読む
次の記事
の記事をもっとみる