1. トップ
  2. エピソード
  3. 「これ、勝手に触っていいの?」現金をレジに置いたまま離れた常連客。他の客まで待たせた気まずい時間

「これ、勝手に触っていいの?」現金をレジに置いたまま離れた常連客。他の客まで待たせた気まずい時間

  • 2026.9.10
「これ、勝手に触っていいの?」現金をレジに置いたまま離れた常連客。他の客まで待たせた気まずい時間

何も言わず、お金だけを置いていった

この店で働き始めて半年ほどたったころ、顔を覚えた常連のお客様がいました。

いつも一人で来店し、注文も会計も必要最低限のやり取りだけ。

こちらが声をかけても、小さくうなずく程度で、ほとんど話さない方でした。

その日も食事を終えると、伝票を持ってレジへ来ました。

私が伝票を読み取り、画面に表示された金額を確認します。

「ありがとうございます。お会計はこちらで」

そう案内しようとしたとき、お客様がお札と小銭をレジ台の上に置きました。

この店では、スタッフが伝票を読み取ったあと、お客様自身が横の精算機へ現金を入れる仕組みです。

てっきり、そのまま支払いをするのだと思いました。

ところが、お客様は何も言わずに背を向け、店の奥へ歩き始めたのです。

「あ、お客様。お会計、まだなんですが…」

思わず声をかけましたが、振り返りません。

少しすると、化粧室の戸が閉まる音が聞こえました。

私は台の上に残された伝票と現金を見つめました。

「……え、これどうしたらいいんだろう」

厨房にいた先輩が、私の声に気づいて顔を出しました。

「どうしたの?」

「今のお客様、お金を置いたまま化粧室に行っちゃって」

「え?会計は終わってないの?」

「まだです。何も言われてなくて…」

先輩もレジ台を見て、少し困った顔をしました。

「うーん、それは勝手に触りづらいね」

「ですよね。こっちで入れちゃっていいのかなって…」

「頼まれてないなら、戻ってくるまで待とうか」

5分が、妙に長く感じた

操作に困っているお客様から「お願いしてもいい?」と頼まれれば、スタッフが精算を手伝うことはあります。

でも今回は、何も言われていません。

目の前に置いてあるとはいえ、お客様のお金です。

本人に確認せず、こちらの判断で機械へ入れるのはためらわれました。

そのうち、次のお客様が伝票を持ってレジへ来ました。

「すみません、今ちょっと前のお客様のお会計が途中で……少しお待ちいただけますか?」

「ああ、はい。大丈夫ですよ」

「申し訳ありません」

待ってもらえることにはなりましたが、私はだんだん焦ってきました。

先輩も厨房から様子を見に来ます。

「まだ戻ってこない?」

「まだです。けっこうたちましたよね」

「そうだね。困ったなあ」

「化粧室に声をかけるのも変ですよね…」

「うん。もう少し待とう」

時計を見ると、5分ほどたっていました。

ようやく化粧室から戻ってきたお客様は、特に慌てた様子もありません。

「お客様、こちらのお会計を…」

私が声をかけると、その方はレジ台に置いていたお金を取り、そのまま精算機へ入れ始めました。

会計を終えると釣り銭を受け取り、何も言わずに出口へ向かいます。

「ありがとうございました」

返事はありませんでした。

引き戸が閉まったあと、先輩が小さく息を吐きました。

「せめて『ちょっと離れるね』って言ってくれたらよかったのにね」

「ほんとですよ。お金だけ残されたから、どうしていいのか分からなくて」

「次の人も待ってたし、焦るよね」

私は次のお客様に「お待たせしました」と頭を下げ、ようやく伝票を受け取りました。

ほんのひと言あれば、何も困らなかったはずです。あの日の5分間は、今でも妙に長く感じた時間として覚えています。


※本記事は、GLAMが独自に実施したアンケートで寄せられた20代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています

※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

元記事で読む
の記事をもっとみる

注目コンテンツ