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直腸がんは「人工肛門」が必要に?“肉の食べ過ぎ&便秘”に潜む誤解と本当のリスク【専門医解説】

  • 2026.9.28
直腸がんになった際に人工肛門が必要になる目安とは?(画像はイメージ)
直腸がんになった際に人工肛門が必要になる目安とは?(画像はイメージ)

40歳以降は「大腸がん」にかかりやすいといわれていますが、近年は20代から30代の若年層の患者も増えており、世代を問わず注意が必要です。

ところで、「直腸がん」という言葉をよく耳にしますが、大腸がんと何が違うのでしょうか。直腸がんになった際に人工肛門が必要になる目安や治療法などについて、天王寺やすえ消化器内科・内視鏡クリニック(大阪市天王寺区)院長で総合内科専門医、消化器病専門医、内視鏡専門医の安江千尋さんが解説します。

直腸がんと大腸がんは何が違う?

最初に知っていただきたいのは、直腸がんは「大腸がんとは別のがん」ではなく、大腸がんの一種であるということです。

大腸は大きく「結腸」と「直腸」に分けられ、結腸にできるものを「結腸がん」、肛門に近い直腸にできるものを「直腸がん」と呼びます。この2つを合わせた総称が「大腸がん」です。

従って、正確には「直腸がんと大腸がんの違い」というより、「大腸がんの中で、直腸がんと結腸がんでは何が違うのか」という話になります。

同じ大腸がんでも直腸がんが特別に扱われる最大の理由は、がんができる場所の解剖学的な特徴によって、治療がより複雑になるからです。

直腸は骨盤の奥深い狭い空間にあり、その周囲には膀胱(ぼうこう)、前立腺、精嚢(せいのう)、子宮、膣などの臓器があります。さらに、排尿や性機能を調節する神経が走っており、出口には便を我慢するために重要な肛門括約筋があります。

そのため直腸がんの手術では、「がんを取り残さないこと」「局所再発をできるだけ防ぐこと」「可能であれば肛門を残すこと」「排便・排尿・性機能をできるだけ保つこと」を同時に考える必要があります。

これが、結腸がんと比べたときの直腸がん治療の大きな特徴です。

直腸がんは人工肛門が必要に?

患者さんが特に心配されるのが、「直腸がんになると人工肛門になるのか」という点だと思います。

結論から言うと、直腸がんだからといって、必ず人工肛門になるわけではありません。人工肛門が必要かどうかは、単純に「がんが肛門に近いか」だけでは決まりません。がんが肛門括約筋に及んでいるか、がんを残さず安全に切除できるか、患者さんにもともと十分な肛門機能があるかなどを総合して判断します。

がんを十分に取り切りながら肛門を残せる場合には、肛門を温存する手術が選択されます。一方、がんが肛門括約筋まで及んでいるなど、肛門を残すことでがんを十分に取り切れなくなる場合には、肛門を切除して永久的な人工肛門を造る必要があります。

また、肛門を残せる場合でも、腸をつないだ部分の縫合不全などを防ぐため、一時的な人工肛門を造ることがあります。この場合は永久的な人工肛門とは異なり、術後の状態が安定した後に閉鎖することを前提としています。

そして、ここには一般の人にぜひ知っていただきたい重要な点があります。「肛門を残せた=手術前と同じように排便できる」とは限りません。

直腸には、便を一時的にためておく重要な役割があります。そのため直腸を大きく切除すると、肛門が残っていても「便の回数が増える」「急に強い便意が来る」「便やガスを我慢しにくい」「一度で出し切れず短時間に何度もトイレに行く」といった排便障害が起こることがあります。これを「低位前方切除後症候群(LARS)」と呼びます。

つまり、直腸がん治療では「人工肛門を避けることだけ」がゴールではありません。がんを確実に治療できることを最優先にしながら、肛門を残した場合にどの程度の排便機能が期待できるのか、排尿・性機能への影響はどうか、患者さんが治療後にどのような生活を送るのかまで考えて治療法を選択することが重要です。

さらに、進行した直腸がんは手術だけではなく、病変の位置や進行度、再発リスクなどによって、抗がん剤や放射線治療を手術前後に組み合わせる場合があります。また、下部直腸がんでは骨盤の側方にあるリンパ節への転移を考慮した治療が必要になることもあります。

このように直腸がんは、「がんを取り切る根治性」と「肛門・排便・排尿・性機能をできるだけ守る機能温存」をどう両立するかが治療の大きなテーマになるがんだと考えると分かりやすいでしょう。

直腸がんのリスクを高める生活習慣とは?

直腸がんのリスクを高めてしまう生活習慣について、気になる人は多いと思います。まず前提として、直腸がんを含む大腸がんは、「一つの生活習慣が原因で発症する病気」ではありません。

年齢や家族歴、遺伝的な背景、炎症性腸疾患など自分では変えられない要因と、飲酒、喫煙、肥満、身体活動、食生活などの要因が複雑に関係しています。

従って、「肉を食べたから直腸がんになった」「便秘だから直腸がんになった」というように、特定の一つの原因に結びつけるのは医学的には正確ではありません。

生活習慣の中で、まず注意したいのは飲酒です。日本人を対象とした研究でも、飲酒は大腸がんのリスク上昇との関連が確認されています。がん予防という観点では、「健康のために飲酒を始める」という考え方はなく、飲酒する人は量をできるだけ控えることが大切です。

喫煙についても、大腸がんのリスクとの関連が示されています。禁煙は大腸がんだけでなく、肺がんをはじめとする多くのがんや心血管疾患の予防にもつながります。

食生活でよく質問されるのが肉です。牛肉や豚肉などの赤肉や、ハム、ソーセージ、ベーコンなどの加工肉を多く摂取することは、大腸がんのリスク上昇との関連が指摘されています。

ただし、「肉を食べると大腸がんになる」と考えるのは行き過ぎです。肉はたんぱく質や鉄、亜鉛、ビタミンB群などの栄養源でもあります。また、日本人は欧米とは肉類の摂取量など食生活の背景が異なり、日本人の研究では赤肉・加工肉と大腸がんとの関連が一様に認められているわけではありません。

従って現実的には、肉を完全に避けるのではなく、赤肉や加工肉に偏りすぎず、魚、大豆製品なども含めてバランスのよい食生活を心掛けることが大切です。

また、肥満を避けること、日常的に体を動かすことも重要です。運動というと激しいスポーツを想像する必要はありません。「歩く時間を増やす」「階段を使う」「座っている時間を減らす」など、日常生活の中で身体活動を増やすことから始めてもよいでしょう。

では、「便秘」はどうでしょうか。

「便秘になると便の中の有害物質が長時間大腸に触れるため、大腸がんになりやすい」と説明されることがあります。

一見もっともらしく聞こえますが、通常の便秘そのものが大腸がんの明確な原因であるとは、現在の医学的エビデンスからは言い切れません。

日本人約6万人を追跡した研究でも、週2~3回程度の排便頻度の人が、毎日排便する人より大腸がん(結腸がん、直腸がん)になりやすいという結果は認められませんでした。ですから、「便秘だから将来大腸がんになる」と必要以上に心配する必要はありません。

しかし、ここには非常に重要な違いがあります。「便秘が大腸がんを起こす」ことと、「大腸がんによって便秘になる」ことは別です。

大腸がんによって腸管が狭くなると、それまで便秘ではなかった人が急に便秘になる、便が細くなる、便秘と下痢を繰り返す、おなかが張る、といった変化が起こることがあります。

従って注意すべきなのは、便秘そのものよりも、「これまでと違う便通の変化が新しく出て、それが続いている」場合です。

また、生活習慣だけを考えていると、大腸がんの重要なリスクを見落とします。大腸がんの家族歴がある人、家族性大腸腺腫症やリンチ症候群など遺伝的に大腸がんリスクが高い人、潰瘍性大腸炎など長期間にわたって大腸に炎症を起こす病気がある人などは、生活習慣とは別に、それぞれのリスクに応じた検査や経過観察が重要になります。

大腸がんを予防するには?

そして、大腸がんの「予防」を考える際には、私は2つに分けて考えることが大切だと思います。

1つ目は、がんが発生する確率そのものを下げることです。

「禁煙する」「飲酒を控える」「肥満を避ける」「体を動かす」「赤肉や加工肉に偏らないバランスのよい食生活を送る」といった生活習慣は大切です。

しかし、どれだけ健康的な生活をしていても、大腸がんになる可能性をゼロにすることはできません。

そこで2つ目に重要になるのが、「がんになる前、あるいは治りやすい段階で見つける」ことです。

大腸がんの多くは、正常な粘膜から突然進行がんになるのではなく、「腺腫」と呼ばれる前がん病変などを経て発生します。そのため、大腸内視鏡検査には、がんを見つけるだけではなく、腺腫などを発見して適切に切除することで、将来の大腸がん発症を減らせるという大きな特徴があります。

ただし、ここで「だから全員が毎年大腸カメラを受ければよい」という結論にはなりません。症状のない一般の人に対する日本の大腸がん検診では、便潜血検査が基本です。対象となる年齢になれば定期的に検診を受け、便潜血検査が陽性になった場合には精密検査を受けることが重要です。

一方、血便などの症状がある人は検診を待たずに受診する。家族歴や遺伝性疾患、炎症性腸疾患などリスクが高い人は、一般の検診とは別に主治医と検査方法を相談することが大切です。

つまり大腸がんから身を守るためには、次の複数の対策を組み合わせることが大切です。

・生活習慣を整える・症状がなくても検診を受ける・便潜血陽性を放置しない・血便や新しい便通変化を痔や便秘と決めつけない・自分自身の家族歴や病歴によるリスクを知る

特に今回最もお伝えしたいのは、「痔があるから大丈夫」「便秘だから仕方がない」という自己判断で、血便や便通の変化を放置しないでほしいということです。

大腸がんは、症状だけでは早期発見できないことがあります。だからこそ、症状がないときの検診と、症状が出たときの適切な受診、その両方が重要なのです。

オトナンサー編集部

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