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「敬愛する東野圭吾さんの背中に追いつきたい」「ドーパミンドパドパ系とは違った面白さを」『#真相をお話しします』結城真一郎の新境地【インタビュー】

  • 2026.8.26

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映画化も果たした『#真相をお話しします』(新潮社)の衝撃から約4年、結城真一郎さんが新たなステージへと踏み出した。『少年ABCの完璧な選択』(新潮社)は、中2の少年たちによる完全犯罪、その15年後の誘拐事件を描いた長編ミステリー。友情をまっすぐに信じ、何だって乗り越えられたあの夏と、守るべき家族ができた現在。切なさとヒリヒリするような緊迫感に満ちた本作について、結城さんに語っていただいた。

家族や友情をテーマに、人間を掘り下げたミステリーを書きたい

──結城さんは、作品ごとにテーマやターゲットを変えているそうですね。今回の『少年ABCの完璧な選択』は、どのような作品を目指して執筆されたのでしょうか。

結城真一郎さん(以下、結城):今回の目標は、「結城真一郎=『#真相をお話しします』」というイメージを覆すことでした。『#真相~』は、現代的なガジェットを使ったアイデア勝負の5編。そういうドーパミンドパドパ系のネタとは、また違った面白さを前面に押し出したいと思いました。

登場人物が、物語の最後にどんな結末を迎えるのか、問題に対してどう落とし前をつけるのか。チープな表現ですが、人間を描くことで読者の気持ちが動かせたらと思って。

もちろんアイデア一発勝負の作品もそれはそれで面白いのですが、敬愛する東野圭吾さん、宮部みゆきさん、伊坂幸太郎さんの背中に少しでも追いつくためにも、普遍的なテーマを中心に据えたうえでしっかり面白いものを書きたい。そんな誓いを立てて、始めた連載でした。

──実際、東野圭吾さんにおける『白夜行』のような、作家を一段上のステージへと引き上げる作品になりましたね。

結城:本当ですか? 実は連載が始まる前に、担当編集の方と「東野圭吾における『白夜行』のような話にしましょう」と話していたんです。内容的な話ではなく、「そういう位置づけの作品にしたいよね」と。もしそう感じていただけたのなら、とてもうれしいです。

──青春ミステリーであり、ヒューマンドラマのような読みごたえもありました。その点も意識したのでしょうか。

結城:そうですね。友情や家族といったテーマを中心に起き、登場人物の内面をどれだけ掘り下げられるか。主要人物だけでなく、彼らを取り巻く家族についても奥行きを持たせるように書くというのが、自分に課したミッションでした。

仲間と一緒なら何でもできる、14歳の無敵感

――『少年ABCの完璧な選択』では、中学2年生の少年3人が、幼なじみの乃愛を虐待から救うため、母親と交際相手を殺害します。警察に捕まりながらも法の死角を突き、無罪放免を勝ち取りますが、15年後に起きた乃愛の誘拐事件によってふたたび窮地に陥っていく。この作品が生まれた、最初の出発点を教えてください。

結城:ネタバレになるので詳しく言えませんが、完全犯罪となりうる、ある法律関係のネタを思いついたことが出発点でした。法律について調べたり、法律家に話を聞いたりしたところ、「この方法を押し通せば逃げ切れる」とわかって。そこから、このネタを一番ドラマチックに見せるストーリーを考えていきました。

失うものが何もなく、怖いもの知らずだった少年時代ならその方法を押し通せるけれど、時を経て取り巻く環境が変わった時、果たして同じ主張ができるのか。そんな物語になっていきました。

──鉄平、翔吾、大樹という3人の少年、そして彼らが守ろうとした乃愛の人物像も魅力的に描かれています。この4人はどのようにして生まれたのでしょうか。

結城:まず、あまり人数が多すぎると、ひとつの主張を全員で貫くという作戦を完遂することはできないと思い、3人グループにしました。そのうえで、この作戦を立案できるブレーン、その提案に対して「やるしかねぇ!」と乗っかる男気キャラ、どっちつかずで尻込みしがちなヤツというメンバー構成に。乃愛は、そんな彼らが守りたいと思うような女子になりました。

──3人の少年たちが完全犯罪を成し遂げるのは、中2の夏です。中2という年代について、結城さんはどんな印象をお持ちですか?

結城:狭い視野、閉ざされた世界の中での無敵感を持っていますよね。井の中の蛙だけれど、そのことを自覚せずに無敵でいられるのがこの年齢。それに、刑事罰に問える下限の年齢が14歳なんです。14歳未満の少年は刑事責任を問われないので、そもそもこの物語が成立しえないという事情もありました。

──結城さんは中2の頃、どんな少年でしたか?

結城:サッカー部の練習に明け暮れ、友達と遊びまくっていましたね。鉄平たちのような悪い遊びはしませんでしたが、やっぱり世界で最強なのは自分たちだと思っていました。自習時間に仲間と学校を抜け出してカラオケに行って、「俺たち、自習中に歌ってるぜ。こんなことしちゃってるぜ!」と興奮したりして。大人になって振り返ると、その無邪気さが痛くもあり、恥ずかしくもあり。そういうこそばゆい年齢でしたね。

──結城さんは開成中学という有名進学校に通っていましたよね。真面目に勉強に励む生徒が多いのかと思っていました。

結城:蓋を開ければ、そんなもんです(笑)。部活終わりに、校則で禁止されていた買い食いをしたり、近所のつけ麺屋に寄ったりすることに、かっこよさを見出していた年頃でした。鉄平たち3人の描写には、当時の自分の感覚や心情を反映させています。

かつての友達との約束か、今の家族との幸せか。ふたつの狭間で揺れる心情

──彼らが完全犯罪を成し遂げられたのは、仲間を信じる強い思いがあったからです。作中では「日本の法律には『友達』の定義が存在しないんだ」「だから、強い」と語る一方で、「友情というのは、いわば焚き火みたいなものだ。(中略)その火は薪をくべ続けなければ、やがて消えてしまう」という一文もあります。結城さんは友情の強さ、脆さについて、どのようにとらえていますか?

結城:それこそ中2の頃は、友情が最強だと疑いもなく信じていました。ですが、年を経れば、友達であるという事実は変わらなくても、友情のウェイトは下がってくる。友達よりも、自分の家族を優先することも当然あると思います。それが大人になるということですが、そこに一抹の寂しさを感じる自分もいます。

最近も、学生時代の友達が起業することになり、仲間に「一緒にやらないか」と声をかけていたんです。中2の頃なら、きっと全員迷わず「おっしゃ、やろうぜ!」となったと思います。でも、今は環境が変わりましたから、乗るやつもいれば乗れないやつもいる。実際、会社を辞めて乗った独身者、家族に反対された人、妻の反対を押し切って乗った人と、対応は人それぞれでした。乗れないやつを誰も責めたりはしないし、友達であることには変わりはないけれど、当時のような熱量で全員が同じ方向に突き進むことはもうできない。「大人になったなぁ」という実感、「あの頃には戻れない」という断絶を感じた寂しさなど、いろいろな感情が入り乱れました。

──あの頃には戻れないからこそ、当時がキラキラ眩しく見えるのかもしれません。逆に、年齢を重ねても変わらないものはあると思いますか?

結城:変わってしまうものばかりだなと思いますね。僕は、永遠不滅の友情は絵空事だと思っています。友情は不滅かもしれないけれど、それを上回るくらい大切なものもある。だからこそ、この小説の第2部のような状況が生まれるわけです。

──中2の頃に完全犯罪を成し遂げた3人ですが、15年後に乃愛が何者かに誘拐されます。誘拐犯は「15年前の事件の真犯人が名乗りでなければ、乃愛を殺す」と宣言し、SNSで3人の個人情報を少しずつ暴露していく。それでも3人は、中2の頃のように一致団結できるのか。家族を守るために、かつての事件について語るのか。揺れ動く彼らの心情が描かれていきます。

結城:第2部の展開をどう読むかは、読者の皆さんの自由です。ただ、彼らにとって家族のほうが大切なのは間違いなくて。でも、自分がすべてを明かせば友達がとてつもない不利益を被ってしまう。その告発者にはなりたくないという気持ちが強いんですよね。もちろん不変の友情を描いた物語として読んでいただいてかまいませんが、僕としては家族の前では友情は勝てないことのほうが多いのではないかと思っています。

「続け独楽(ゴマ)」のように次々に謎や事件を提示し、読者の興味を継続

──第2部では、乃愛誘拐事件、そして15年前の事件の真相が明かされていきます。誘拐事件を担当する刑事の中には、15年前の事件捜査に関わった人物も。刑事たちの人物像は、どのように作り上げていったのでしょうか。

結城:刑事をただの交通整理役、謎解き係にしたくなかったんです。そこで、15年前の事件を担当し、現在は中2の息子がいる善塔という刑事をまず考えました。他にも、15年前に煮え湯を飲まされ、今回の捜査で雪辱を果たしたいと考える熱い男、冷静に事件に向き合う刑事を登場させました。

──15年前、3人の少年たちにまんまと逃げ切られた刑事は、相当悔しかったでしょうね。

結城:悔しくて、絶対に忘れませんよね。であるがゆえに、当時事件を捜査した刑事はどうしても視野が狭くなってしまいます。そこで、当時を知らない若手刑事が、客観的に事件を見て「ここがおかしいんじゃないか」と指摘するような構図にしました。

善塔が謎を解いてもよかったかもしれませんが、「15年後に謎を解けるなら、15年前にも解けたはずでは?」と思ってしまって(笑)。当時を知らない人間が看破するほうが自然だと思ったんですよね。

──鉄平たち3人は、乃愛を誘拐した犯人に個人情報を握られています。夜10時までにかつての事件の真犯人が名乗り出なければ、3人の個人情報がSNSに公開されていく。個人情報をばら撒かれることが、命の危機に匹敵するほどの脅威として描かれているのも興味深かったです。

結城:3人は、司法では裁くことができずに完全犯罪を成立させました。そんな彼らを一般人が裁くには、私刑に頼るしかありません。友情と家族を天秤にかけ、「家族の情報をばら撒くぞ」と脅すにはSNSを使うのが一番手っ取り早い。そこで、彼らに鉄槌を下す手段として、SNSでの情報拡散を思いつきました。

──犯人の要求に対して3人はどう対応するのか、スリリングなタイムリミットサスペンスが展開されていきます。今回のような長編では、読者を惹き込むリーダビリティを短編以上に強く意識する必要があるのではないかと思いますが、いかがでしょうか。

結城:そうですね。ただ、第2部に関しては、そこまで工夫しなくても読み進めたくなる要素が多いんですよね。乃愛が誘拐され、15年前の事件の真相も謎のままで、しかもタイムリミットがある。自然にページをめくりたくなるのではないかと思います。

逆に、問題なのは第1部です。核心となる事件が起こるまでの展開を、いかにして読ませるかに心を砕きました。

──第1部では、3人の少年たちの生い立ち、彼らの結びつきなどが描かれます。確かに、この描写が丁寧だからこそ、第2部で彼らに感情移入してハラハラしました。

結城:第2部では切羽詰まった状況下での人間模様を描きましたが、3人がどんなキャラクターで、どういう過去があって、どのような関係性か読者が腹落ちしていなければ、よくわからないやつがタイムリミットのある中であたふたしているだけで終わってしまいます。第1部で、彼らの人となりをわかってもらい、どれだけ彼らを近しい人間だと思ってもらえるか。そこに気を遣いました。

──具体的には、どのようにして引きを作っていったのでしょうか。

結城:それで言うと、第1部の前にあるプロローグがミソだと思っています。プロローグの段階で、何かとんでもないことが起きていると思わせ、なおかつ当時中2だった彼らが完全犯罪を成し遂げ、煮え湯を飲まされた刑事がいることがわかる。「この3人が何かしらの完全犯罪を起こすんだ」と、最初の引きを用意しました。

ただ、それだけで第1部を引っ張りきるのも難しい。そこで、「乃愛が最近姿を見せない」「様子を見に行ってみよう」「虐待を受けて、ひどい状態で監禁されている」「乃愛を助けるにはどうしよう」と次々に事件が起き、ひとつ解決したら、また次のことが……と仕掛けを入れていきました。

僕がイメージするのは、“続け独楽(ゴマ)”です。ひとりが独楽(コマ)を投げ、倒れる前に次の人が独楽(コマ)を投げる。そうやって、常にコマが回っている状態を保つ遊びです。ある謎や出来事を提示し、それだけではページをめくる力が弱いようなら、倒れる前にまた次の謎を投入する。ただ、矢継ぎ早に独楽(コマ)を投げ続けてもダメなんです。しっかり丁寧に紐を巻かなければ、独楽(コマ)はすぐに倒れてしまいますから。

過去の後悔を消すための、たったひとつの方法

──タイトルにも「選択」という言葉が入っていますが、この小説は人生の岐路でどんな選択をするかについて書かれた作品だと感じました。鉄平は「なかりせば」、つまり「もしなかったなら」という言葉で人生における選択を表現しています。この言葉に込めた思いを聞かせてください。

結城:選択に対する後悔は、テーマのひとつでもありました。僕は「なかりせば」という言葉には、プラスとマイナス、どちらの意味もあると思っています。「あそこであんなことしなければ、こうはならなかったのに」という意味もあれば、「もしあれがなければ今の自分はなかった。あの出来事があってよかった」というとらえ方もあると思うんですね。

よく「過去は変えられない」と言いますが、僕はそうは思いません。過去に起きた事実は変わらなくても、その意味合いを変えることはできます。例えば、僕は一浪して大学に入学したのですが、当時は現役で合格できなかったことがすごく悔しかった。でも、そのおかげで大学の同級生の辻堂ゆめさんが在学中に作家としてデビューしたのを目の当たりにして、「自分も本気にならねば」とスイッチが入りました。大事な友達もできましたし、今振り返ると「あそこで浪人しておいてよかったな」と思います。

大学受験に失敗したという事実は変わらないけれど、その意味合いをプラスに転じることはできる。そういう意味で、「過去は変えられる」と僕は思っています。

──起きた出来事を失敗で終わらせないためには、その後の生き方が大事だということでしょうか。

結城:むしろ、それしか改善の方法はありませんよね。今が最高だと心から思えれば「あの失敗があってよかった」となりますし、現状に納得できないなら過去に起きたこともいつまでも不幸な出来事でしかありません。

今が最高だと思うには、その状況まで自分を引き上げなければならないので、相当な覚悟が必要です。それでも、後悔を消すにはこの方法しかないと思いますね。

──そういった思いが滲んでいるためか、希望にあふれた読後感になっています。この作品を書き上げた今、結城さんはどんな手ごたえを感じていますか?

結城:家族や友情といった普遍的なテーマを据え、登場人物の描写を掘り下げるという目標に対し、自分なりに納得のいくものを書けたという自負があります。

数日前に受けたインタビューで、「結城真一郎がまた別次元に到達しましたね」と大口を叩いてしまったのですが(笑)、今までとは違うステージに踏み込んだ手ごたえを感じているのは事実です。「結城真一郎フェーズ2」の幸先のいいスタートを切れたのではないかと思います。

──結城さんは毎回作風が異なり、作品ごとに違った楽しさを味わわせてくれます。今後は、人物描写を深めた作品が増えていくのでしょうか。

結城:今回のようなテイストの作品は、今後も書いていきたいですね。ただ、それ一辺倒になると「次もこういう作品だろうな」と予想されやすくなるので、違うことにもチャレンジしたいです。「次にどんなことをするのかわからない」という期待感のある作家になりたいので、手数を増やしていきたいと思います。

取材・文=野本由起 撮影=後藤利江

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