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【インタビュー】ミシャ式が浸透する名古屋グランパス!WBで躍動する甲田英將の進化 「1対1で負けているようでは話にならない」

  • 2026.5.5

明治安田J1リーグで昨季16位に低迷した名古屋グランパス。

J2降格の危機と直面した以上に深刻だったのが、不明瞭なプレースタイル…。これを打破するために招聘されたのが、2006年の初来日以降、Jリーグで通算20年目の指揮を執るミハイロ・ペトロヴィッチ監督だ。

“ミシャ式”と称される独自の哲学を反映させた攻撃サッカーは早くもチームに浸透。明治安田J1百年構想リーグの地域リーグラウンドWESTでは第14節終了時点で暫定2位と躍進するチームの中で、下部組織出身の若手がブレイクの兆しを見せている。

約2年半に及んだ武者修行から復帰した22歳のMF甲田英將。2021年には高校在学中ながらパリ五輪出場を狙うU-22日本代表にも飛び招集された逸材ドリブラーは、強い覚悟を胸に新境地を切り開いている。

取材・文/新垣博之(取材日:2026年4月22日)

「グランパスの試合を初めて観に行ったのは幼稚園の時で、アカデミーに入ってからもよくアカデミー生同士で観に行っていました。当時は玉田さん(圭司、現トップチームコーチ)や、今はチームメイトでもある(永井)謙佑くん、(和泉)竜司くんのプレーをよく観ていたので、今年グランパスに帰って来た頃に玉田さんから指導を受けるのは少し緊張していたというか、不思議な気持ちでしたね(笑)。

2年半で得意料理できたかな…あっ、僕は三重県の四日市市出身なので、四日市名物のトンテキ(※ウスターソースなどを使って作った黒いソースが特徴な豚肉のステーキ)をよく作って食べています!」

画像: WBで新境地を切り開く名古屋MF甲田英將。(写真提供:名古屋グランパス)
WBで新境地を切り開く名古屋MF甲田英將。(写真提供:名古屋グランパス)

「時間」と「スペース」が提供される名古屋のWB

今季開幕当初の甲田はシャドーとウイングバック(WB)で併用され、出場機会も少なかったが、第7節からは5試合連続で先発に抜擢。定着したのは〔3-4-2-1〕の右WBだった。経験はあったものの、自身初の本格的なコンバートとなった。

そんな中、3月22日に行われた百年構想リーグの地域リーグラウンドWEST第8節、敵地での京都サンガ戦の前半19分、プロ5年目を迎えた甲田はJ1カテゴリーでの初ゴールを決める。その流れには早くも浸透し始めた“ミシャ式”による新生グランパスのサッカーが表現されており、甲田の個性あってこそ生まれたゴールでもあった。

「ミシャさんのサッカーにおいてのWBはすごく攻撃的に感じています。逆サイドで展開が進んでいる時もサイドチェンジが飛んでくるので、常に大外に張って“幅”をとっています。スペースが広いので、自分のようなドリブルを武器にする選手にとっては仕掛けやすいポジションだと感じてプレーしています」

この初ゴールの場面、右ワイドの高い位置に張った甲田がボールを受けるまでに、3バック中央の藤井陽也が相手のプレスを外して自らボールを持ち上がり、森島司を経由し、右センターバックの野上結貴は相手DFを引き付け、甲田へパスを捌くと同時にインサイドを駆け上がっていく。

守備の要を担う選手たちがリスクを冒すことで、ボールと共に「時間」と「スペース」も得た甲田は得意のドリブルで内側へ悠然とカットイン。「クロスとシュートが半々の割合で蹴った」と話すように、複数の側面からゴールの可能性が高いプレーを選択してゴールが生まれていた。

スタッツに表れる守備意識の高さ、ドリブラーの変化

新生グランパスはボール保持時に〔3-4-2-1〕のWBとシャドーを前線に加えた5トップ気味の超攻撃的な布陣を採用している。甲田が担うWBのポジションには守備時に5バックを形成する際、サイドバックとしての守備能力や運動量も求められる。

実際に守備面や走力面での甲田の各スタッツはチームで2番目か3番目相当に多い。第12節終了時点でのプレータイムが501分間(6試合未満)とは思えない数値に相当な覚悟を感じさせる。

「シーズンが始まる前の段階では自分がスタメンに入るのはかなり厳しいと考えていました。その中で試合に出るためには球際やセカンドボールへの意識は強くなりますし、そういう局面で勝つことはJ2での経験が生きていると思います。

特に相手が3バックの時はマンツーマンで自分がマッチアップする相手選手がハッキリするので、その1対1で負けているようでは話にならないですし、自分が試合に出る意味がないと思います。攻撃の面で勝つのはもちろんですが、守備面でも自分がスイッチになる気持ちでやっています」

画像: 「名古屋MF甲田英將 スタッツに見る変化と成長(第12節終了時)」筆者作成(参照:Jリーグ公式)
「名古屋MF甲田英將 スタッツに見る変化と成長(第12節終了時)」筆者作成(参照:Jリーグ公式)

アタッカーとしてもドリブルやクロスがチームで2位の数値を記録しながらも、そこには変化がある。スルーパスなど鋭いパスが多くなり、左右両足から繰り出す豊富な種類のクロスにも工夫を加えている。

「常にゴールから逆算したドリブルやパス、シュートを考えています。今のポジションだとクロスが多くなるんですけど、縦に突破して相手が戻りきる前にGKとDFの間に鋭く入れる低く速いクロスや、点で合わせられるピンポイントなクロス、ふわっと浮かせるクロスなど、中で合わせる選手とコミュニケーションをとりながら工夫して取り組んでいます」

両利きの優位性とその原点『特訓部屋』

自他ともに認める両利きであることも甲田が右WBに抜擢される大きな要素。右サイドから左足を使ってボールを隠しながらカットインし、相手DFの間を通すパスを繰り出せる点をミシャ監督も高く評価しているはずだ。

画像: 左利きと間違われるほど、甲田英將は本物の両利きである。(写真提供:名古屋グランパス)
左利きと間違われるほど、甲田英將は本物の両利きである。(写真提供:名古屋グランパス)

日本人選手には右利きで遜色なく左足でもキックができる選手が多いが、ワンタッチコントロールやボールの持ち方、運び方から左利きに見間違われるほど、的確に“後天的な左利き”の優位性を活かせる選手は数少ない。

「よく左利きと間違われます。むしろ、『右足のシュートの方がインパクト弱いんじゃない?』、と言われるぐらいです(笑)。自分ではドリブルやパス、シュート、それぞれでどちらの足が得意とかはないんですけどね。ちなみに手は完全に右利きで、投げたり、箸を使うのも右ですね」

幼少の頃から体が小さかった甲田は、キックをしてもなかなかボールが飛ばず。そんな息子の状況を鑑みた父親が自宅2階に工事現場で使うパイプなどを駆使して「特訓部屋」を設置。そこで毎日のようにドリブルを中心にしたメニューを1時間半以上かけて繰り返し練習した。

「ドリブルがなくなったらサッカーを辞める」と宣言していたほど、磨いたドリブルのテクニックは100種類以上。その中には“ヒデラシコ”なるフェイントもある。

「実はサッカーを始めた頃からチームでの練習とは別にお父さんに教えてもらっていて、その頃から両足で均等に蹴ることを自然とやっていました。左利きのように見えるのは憧れていたメッシ(インテル・マイアミ)や玉田さんを真似するように練習していたからだと思います。

ヒデラシコですか?…なつかしい。100種類以上の中で、プロになった今も使っている“1軍”と呼べるようなものは10種類ぐらいだと思いますけどね(笑)

でも自分の意見を聞いて寄り添って教えてくれたり、練習場まで1時間半かかる道程を車で送り迎えしてくれたお父さんやお母さん、家族には感謝しかないですね」

2年半に渡った武者修行で取り戻した自信

2023年の夏から2年半に渡る育成型期限付き移籍をした経験も、甲田の成長を促したに違いない。それはプロ1年目で左膝外側半月板損傷の重傷を負った彼にとって、失っていた自信を取り戻す旅だったのかもしれない。

2023年6月に当時J2の東京ヴェルディへの加入を決める直前には、FIFA U-20ワールドカップ アルゼンチン2023のメンバーから落選していた。

「今思えば、U-20W杯でメンバー外になったこともあり、焦りもあったのかもしれません。

ただ、自分としてはクラブでなかなか出場機会が掴めず、U20アジアカップ(※2023年大会。ベスト4で終えたU-20日本代表として甲田は4試合に出場)でも良いパフォーマンスが出せなかったことで自信が揺らいでしまっていました。その自信を取り戻すためにも1度外に出て気持ちを入れ替えてやりたいと考えて、レンタル移籍を決断しました」

ヴェルディでの甲田は加入直後から勝負所での攻撃の切り札として活躍し始めたが、8月に右第五中足骨を疲労骨折。16年ぶりのJ1復帰で歓喜に沸くピッチには立てずに、翌年は当時J2の水戸ホーリーホックでプレーすることに。

「まだ自信が取り戻せていない自分を熱心に誘っていただきましたし、水戸はのちに日本代表にも選出されるような選手を多く輩出しています。自分が成長するためにはこのチームだと考えて水戸への移籍を決めました。

監督交代が起きた時は試合に出ている選手として不甲斐なさを感じましたし、『自分は結果で判断される厳しい世界で生きているんだ』と、もっと強い覚悟をもって取り組まなければいけないと改めて考え直すキッカケになりました」

水戸ではピッチ外での活動も多く、新たな気付きもあった。当時の西村卓朗ゼネラルマネージャー(現RB大宮アルディージャ・スポーツダイレクター)発案で選手の価値を作り出すための『MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)』プロジェクトでは何度も面談を重ねた。

「データの面からも自分のどういうところが足りていないのか?をプレー面のオン・ザ・ボールとオフ・ザ・ボール、ピッチ外での活動や準備など、いろんな角度から指摘してもらえるので、すごく良い機会だったと思います。前年からサッカー日記をつけていたこともあって、ピッチ内外で成長を感じることができた時間でした」

ただ、水戸ではJ2リーグ29試合(先発21)に出場したものの、1度もフル出場はできず。武者修行は2025年当時J2・愛媛FCで継続されることになった。

「このタイミングでグランパスへ戻る選択肢もあったのですが、まだまだ成長しないと戻れない想いがあった中、熱心に誘っていただきました。スタイル的にもパスを繋いでいくサッカーの中で自分の特徴を出しやすいと考えて、愛媛FCへの加入を決断しました」

愛媛での甲田は開幕から第12節までは全試合に先発し、2ゴール4アシスト。個人として数字に残る結果を出した。

一方で、チームとしては開幕9戦未勝利。試合内容は良くとも勝ち切れないチームは、前年から続いていた未勝利も「20」まで伸びるなど最下位が定位置となり、年間通して僅か3勝。早々とJ3降格が決まった。

「開幕当初の〔4-4-2〕で右サイドハーフとして出ていた頃はゴールにも絡めていたんですけど、チームとして結果が出ない中でフォーメーションが変わり、自分のポジションもシャドーになりました。そのタイミングで少し怪我もあって自分のプレーが出しにくくなり、結果も出せない悔しさを感じました。

ポジションの変更でそうなってしまうことは改善しないといけないと考えたことは、WBでプレーしている今に生きているのかもしれません」

「1試合1試合を大事に、毎日の練習でアピールを!」

2年半に渡った武者修行でJ2通算69試合4ゴール5アシストという実績を積み上げた甲田は名古屋への復帰を決断。第7節以降に右WBとして定着したかに思われたが、第12節からは先発を外れている。

第13節のファジアーノ岡山戦で途中出場から今季2ゴール目を挙げたものの、今季は90分間のフル出場は1度も記録しておらず。本人もその現状をしっかりと認識したうえで、日々のトレーニングでの鍛錬を継続している。

「愛媛で自分のドリブルに自信を取り戻せた感覚があったことと、この百年構想リーグというハーフシーズンは自分をアピールする良い機会だと考え、グランパスに復帰することを決めました。

ただ、今はまず目の前の試合に出て結果を残したい、という気持ちが第一にあります。連戦もあるので、あまり先のことは考えても意味がないと思っています。1試合1試合を大事にしたいですし、今の自分は毎日の練習でしっかりとアピールをして、怪我をしないで試合に出続けることだけしか考えていないですね」

GWの連戦には普段よりも子供たちの来場が多く予想される。名古屋はクラブとしても子供たちを多く招待し、キッズ用のオリジナルTシャツの配布も予定している。人懐っこく、プレー面でも魅せられるドリブラーの甲田は子供たちにも愛されるキャラクターだ。

「子供たちにはサイドで1対1になった時のドリブル突破や、そこからのクロス、シュートという部分を観て欲しいです。特に最近はアシストが多くできそうな雰囲気やイメージが湧いて来ているので、この百年構想リーグではゴールとアシストを足して5点を個人の目標にプレーしていきたいと思います(※第14節終了時点で2ゴール)」

日本代表と新生グランパス、WBの可能性

現在の日本代表のWBにも多士済々なアタッカーが揃っている。

縦への推進力あるドリブル突破を武器とする伊東純也(ゲンク)、“逆足ウイング”から内側でもプレーできる万能型へと進化した三苫薫(ブライトン)、圧倒的なスピードと走力で攻守に“違い”を作る前田大然(セルティック)、どこからでもゴールを狙うフィニッシャーの中村敬斗(スタッド・ランス)、プレーメイカー色が濃い堂安律(フランクフルト)らは、クラブとは異なるポジションで起用されながらも、それぞれの個性を発揮している。

WBというポジションはプロ入り前から本職である選手はほとんどいない。プロになって以降に様々な個性をもった選手がコンバートされるからこそ、選手それぞれの多彩な資質が出るのだろう。

“ミシャ式”が浸透する新生グランパスは、日本代表に近いエッセンスが窺える。

攻撃時と守備時でフォーメーションを変える「可変システム」はミシャ監督がサンフレッチェ広島を指揮していた2008年5月頃にその原型が完成したとされる。当時は現代サッカーのベースとなった偉大な“ペップ・バルサ”は誕生しておらず。「可変システム」においては欧州から先行していた。

そんな前衛的な戦術をJリーグに持ち込み、1年間の充電期間でアップデートを感じさせるミシャ監督の下で、甲田英將は今日も走り続け、日進月歩の成長を続けている。

愛する名古屋グランパスのために!

画像: 百年構想リーグWEST第13節・岡山戦で今季2ゴール目を挙げた甲田。(写真提供:名古屋グランパス)
百年構想リーグWEST第13節・岡山戦で今季2ゴール目を挙げた甲田。(写真提供:名古屋グランパス)

【プロフィール】甲田英將(こうだ ひでまさ)

2003年10月2日生まれ(22歳)
三重県四日市市出身
168cm/65kg
ポジション:MF

地元・三重県四日市市の「川島サッカー少年団」でサッカーを始め、小学6年時に名古屋グランパスU-12に加入。以後、同U-15、U-18へと昇格を果たし、2022年からトップチームに昇格。世代別日本代表でも飛び級招集されるほど将来を嘱望されていたものの、中学時代から怪我に泣くことが多く、プロ契約後も長期離脱を経験。2023年6月からは出場機会を求めて東京ヴェルディ、2024年には水戸ホーリーホック、2025年には愛媛FC、当時のJ2所属3クラブへと育成型期限付き移籍。合計2年半に渡る武者修行を経て、今季から名古屋へ復帰。明治安田J1百年構想リーグWESTでは第14節終了時点で12試合出場(先発6)2ゴール。

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