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イギリスの著名人8人が語る「私が影響を受けた、ある作品のこと」

  • 2026.8.9

エヴァ・ロスチャイルド/アーティスト

フィリップ・ライの作品《Drunken Sailor》(2021)とともに、ギャラリー「ModerArt」(ロンドン)にて。 Hair & makeup: Natalie stokes at carol hayes management

「フィリップ・ライの作品をもう長年、ずっと愛してきました。じつは1996年、ロンドンの『ガスワークス』で開かれた、私のキャリア初期のグループ展で彼と一緒に展示をしたこともあるんです。この作品は初めて目にした瞬間から強烈なインスピレーションをくれました。というのも、作品を床にじかに置いてこれほどのインパクトを持たせることがいかに難しいか、私も身をもって知っているからです。ほかのアーティストが重力や配置、空間との関係といった実践的な問題にどのように向き合っているのか。それを読み解くのがとても好き。《Drunken Sailor(ドランクン・セイラー)》には、気候変動や、過剰さ、無責任さといったさまざまなイメージが重なり合っていて、見るたびに新しい驚きを与えてくれるんです」

リンダー・スターリング/アーティスト

ソロモン・ジョセフ・ソロモン《サムソン》(1887頃)とともに、ウォーカー・アート・ギャラリー(リバプール)にて。 HAIR & MAKEUP: FRANCESCA ORME AT CAROL HAYES MANAGEMENT

「1963年、9歳のときに両親に連れられて、リバプールのウォーカー・アート・ギャラリーを訪れました。家族で美術館に行ったのはそれが初めてのこと。そこで出合った、ソロモン・ジョセフ・ソロモン(1860-1927)が描いた壮麗な絵画《サムソン》に心を奪われ、とりわけ挑発的なデリラ(注:旧約聖書に登場する女性。英雄サムソンの力の源が髪にあることを見抜き、その力を奪うことで彼の運命を決定づけた。本作では豊かな髪を持つ姿で描かれる)の姿に釘づけになったのです。その日の午後、リバプールの街を闊歩していたビートニクたちの見事なロングヘアを目にしたことも重なって、それ以来、私の関心はずっと”髪”に向けられてきました。2011年に父が亡くなってからは自分の髪を切るのもやめた。父を心から愛していました。その頃すでに私はナード・ヨガの修行を始めていて、指導者からも髪を伸ばし続けるよう勧められていたんです。父の死と精神的な学びを経て、私は再びあのサムソンの苦境とデリラの豊かな髪へと引き戻されました。自らの力を知り、運命を選択するデリラの姿──私たち女性は自分が何を求めているのか、本当はちゃんとわかっているものなんですよ」

マロ・イトジェ/ラグビー イングランド代表

サラ・ナイツ《Three B’s》(2019)とともに、ノース・ロンドンのスタジオにて。 SPECIAL THANKS: PHASE ZERO STUDIO

「この10年ほどで、アフリカン・アートへの愛着がますます深まってきました。イギリス国内での可能性を探り始めた私は、現在のビジネスパートナーであり、『Akoje Gallery(アコジェ・ギャラリー)』を一緒に立ち上げたカリル・アカルとともに、ブラック・ヒストリーをテーマにした展覧会を企画しました。それがきっかけで、このギャラリーは生まれたんです。私たちの使命は、アフリカン・アートがいま描き出している上昇の軌道を後押しし、その見られ方そのものをアップデートしていくこと。ギャラリーには商業部門と非営利部門の両方があり、これまでにキングズ・ファウンデーションと協力してレジデンシー・プログラムなども行ってきました。サラの絵画は、エレガントでありながらとてもシンプルです。彼女はアーティストになる前、教師として働いていました。私自身の本業はラグビー選手ですが、彼女の歩んできた道には強く心を打たれます。本当に情熱を注げるものがあるなら、人はいつからだって、まったく別の世界へ飛び込んでいける。そう思い出させてくれるんです」

アルヴァロ・バリントン/アーティスト

アリソン・カッツ《 The Big ASK》、《Cabbage(and Philip)no 40》、《Backbone》(すべて2025)とともに、 アリソン・カッツのスタジオにて。 Hearst Owned

「アリソンも僕もニューヨークでアートを学んでいました。僕がロンドンに来たとき、彼女は真っ先に連絡を取り合った仲間のひとりなんです。自分が企画した『Artists | Steal From(私が盗んでいるアーティストたち)』という展覧会にもアリソンに参加してもらいました。彼女がそこで展示したのは、雄鶏をモチーフに描いた『Cock Painting(コック・ペインティング)』シリーズの1点です(注:雄鶏を意味する“cock”にはスラングで“男性器”の意もあり、男性性や権力への皮肉が重ねられている)。今、僕のうしろにもその作品がひとつあります。一見すると際どいユーモアに目を奪われますが、よく見てみると米粒を使って線や形をつくり出していることに気づくはず。彼女の作品はいつも、絵の具という素材で何ができるのかを、より広い視野で考えさせてくれます。ときどき自分にこう言い聞かせることがあるんです。“大丈夫、やれる。だってアリソンがもうやってのけているんだから”って」

オリヴィア・ラング/文筆家

パオロ・ウッチェロ《サン・ロマーノの戦い》(1440)とともに、ナショナル・ギャラリー(ロンドン)にて。 HAIR & MAKEUP: NATAUE STOKES AT CAROL HAYES MANAGEMENT

「パオロ・ウッチェロ(1397-1475)の描く戦闘シーンは、形や色が極限までデザインされ、驚くほどスタイリッシュ。私は細部を眺めるのが大好きで、あの発光 するようなオレンジや、馬たちの見事な青い馬具には いつも目を奪われます。ちょうどイタリア映画が題材の小説を書き終えたところなのですが、パゾリーニやフェリーニといった映画監督たちがなぜこうした絵画に取り憑かれたのかがよくわかります。ひとつの画面に無数の出来事を同時に存在させられるという点で、絵画は映画を凌駕しているとさえ思うのです。ウッチェロはまだ遠近法を完全には把握していなかった時代の画家。だからこそ、倒れた人物が奥へいくほど逆に大きくなっていくような狂気じみたディテールが生まれています。その歪みが見る者を絵の奥深くへと引きずり込んでいく。その感覚がたまらなく好きなのです」

ショーン・マクギアー/アレキサンダー・マックイーン クリエイティブ・ディレクター

トレイシー・エミン&サラ・ルーカス《The Last Night of the Shop 3.7.93》(1993)とともに、テート・ブリテン(ロンドン)にて。 © 2026 TRACEY EMIN. ALL RIGHTS RESERVED, DACS.

「2000年代後半にロンドンへ移って以来、サラ・ルーカスとトレイシー・エミンにはずっと魅了されっぱなしです。YBA(ヤング・ブリティッシュ・アーティスト)の存在は、常に私のクリエイションの源でした。なかでもこの作品は特別。きわめてストレートで、とてもロンドンらしいと感じるんです。少し雑なのに、どこか温かい。そこが好きですね。『ザ・サン』紙のダイアナ妃の写真や、フィッシュ&チップスといったありふれたモチーフを使い、意味を転倒させながらユーモアのなかを巧みに行き来している。すべてのイメージが共鳴し合って、美しい化学反応が生まれています。悪趣味とされがちな黄緑がかった茶色のコーデュロイも、多くを物語っています。叔母の家のカーテンや、子どもの頃に母親に着せられたオーバーオールを思い出すような、あの“冴えない”感じ。それは偶然ではなく、きわめて意図的な演出なのです」

チャーリー・ポーター/文筆家

パット・ポーター《自画像》(1977頃)と《静物画》(2019)とともに、パット・ポーターのスタジオにて。 Hearst Owned

「私の母、バット・ポーターはアーティストでした。2022年に77歳で急逝するまで、生涯ずっと絵を描き続けていたんです。ここにある2点は、40年以上もの歳月を隔てて制作されました。ひとつは1970年代後半の自画像、もうひとつは2019年の静物画です。いま、彼女の作品とともにいるということは、彼女の思考や厳密さ、存在感、そして注がれていたケアと向き合うことでもあります。母は、自分の作品をふさわしい形で展示する機会に恵まれなかったことを、ずっと悔しく思っていました。でも先日、アッピンガムのゴールドマーク・ギャラリーで、彼女にとって初めての個展を開くことができたんです。いま、ようやく──。彼女の作品は、あるべき場所で、人々の目に触れています」

グウェンドリン・クリスティー/俳優

ルイーズ・ブルジョワ《ママン》(1999)とともに、テート・モダン(ロンドン)にて。 © THE EASTON FOUNDATION/VAGA AT ARS, NY/JASPAR, TOKYO 2026. HAIR: CLAIRE MOORE, USING OLAPLEX. MAKEUP: ANDREW GALLIMORE. DRESS: GILES DEACON, COMMISSIONED FOR TATE 25

「2000年、テート・モダンがオープンしました。使われなくなった発電所を現代アートの大聖堂へと変えるというその発想は、衝撃的でした。テートのディレクター、マリア・バルショウから、開館25周年を記念してルイーズ・ブルジョワの《ママン》の下でパフォーマンスをしないかと打診されたとき、長年の願いがようやく叶ったと感じました。実物を目にする前から、私はこの彫刻の写真を何度も見つめてきたのです。編み込まれた鉄の身体を前にすると、思考は闇に酔わされる。武器のような脚、その威容は恐ろしく、同時に崇高です。この圧倒的なスケールに私は惹きつけられているのでしょう。《ママン》の真下に立つと、網状の腹部に抱えられた26個の大理石の卵が今にも頭上に降り注ぐのではないかという恐怖すらよぎる。アートからこれほどまでの力を突きつけられる瞬間が、果たして人生にどれほどあるでしょうか」

From Harper's BAZAAR art no.5

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