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火星の重力は人体にどんな影響を与えるのか

  • 2026.4.30
Credit:Generated by OpenAI’s DALL·E,ナゾロジー編集部

人類が火星へ向かう計画は、もはや夢物語ではありません。

NASAや中国・国家航天局(CNSA)は、2030年代にも宇宙飛行士を火星へ送り込む構想を掲げています。

しかし、その実現を左右するのはロケット技術だけではありません。

むしろ最大の課題は「人間の体が火星で耐えられるのか」という問題です。

とくに注目されているのが、地球の約38%しかない火星の重力です。

この“軽すぎる世界”で、私たちの体はどう変化してしまうのでしょうか。

研究の詳細は2026年3月13日付で学術誌『Science Advances』に掲載されています。

目次

  • 火星では筋肉が弱くなる?「軽い重力」がもたらす異変
  • 「0.67G」がカギになる――火星では足りない重力

火星では筋肉が弱くなる?「軽い重力」がもたらす異変

人間の体の中で、もっとも重力の影響を受ける組織のひとつが「骨格筋」です。

骨格筋は体重の40%以上を占め、歩く・立つといった基本的な動作だけでなく、代謝の維持にも重要な役割を担っています。

この骨格筋は、重力が弱くなると急速に衰えることが知られています。

宇宙飛行士が無重力環境で筋力低下を起こすのはよく知られた現象です。

しかし問題は、火星のような「中途半端な重力」でも同じことが起きるのかどうかでした。

この疑問に答えるため、筑波大学などの研究チームは、国際宇宙ステーションの「きぼう」実験棟でマウスを使った実験を行いました。

マウスは28日間にわたり、微小重力、0.33G(火星の環境に近い、Gは重力加速度)、0.67G(火星と地球の中間)、1G(地球環境と同じ)という異なる重力環境で飼育されました。

その結果、興味深い事実が明らかになります。

火星に近い0.33Gでは、筋肉の量そのものはある程度保たれるものの、筋力や機能は低下していたのです。

つまり、見た目の筋肉はあっても、「力が弱くなる」という状態が起きていました。

さらに筋肉の性質も変化していました。

本来、長時間の活動を支える持久力型の筋肉(遅筋)が減り、瞬発力型の筋肉(速筋)が増える傾向が見られたのです。

これは、長く動き続ける能力が低下することを意味します。

「0.67G」がカギになる――火星では足りない重力

では、どの程度の重力があれば筋肉は維持できるのでしょうか。

実験のもうひとつの重要な結果は、「0.67G」という値でした。

この重力環境では、筋肉量だけでなく筋力や機能もほぼ完全に維持されていたのです。

つまり、筋肉を守るためには「地球の約3分の2程度の重力」が必要である可能性が示されました。

これは火星探査にとって重大な意味を持ちます。

火星の重力は約0.38Gであり、このしきい値を大きく下回っています。

つまり、火星に長期間滞在すると、筋肉の機能低下が避けられない可能性が高いのです。

こうした結果は「どうやって人間を健康なまま火星に送り、そして帰還させるか」という課題に直結しています。

たとえば、宇宙船内部で回転によって人工的に重力を生み出す構造――NAUTILUS-Xのような設計――が、現実的な解決策として再び注目されています。

火星は遠い世界ですが、その環境は決して人間に優しくありません。

今回の研究は、「火星に行けるか」ではなく、「火星で健康を保てるか」という、より本質的な問題を浮き彫りにしました。

軽すぎる重力の中で人間の体は確実に変わっていきます。

その変化にどう対抗するかこそが、未来の火星探査の成否を分ける鍵になるのです。

参考文献

How Will Gravity on Mars Affect Humans? A New Study Reveals a Clue.
https://www.sciencealert.com/how-will-gravity-on-mars-affect-humans-a-new-study-reveals-a-clue

元論文

0.33g mitigates muscle atrophy while 0.67g preserves muscle function and myofiber type composition in mice during spaceflight
https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.aed2258

ライター

千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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