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江戸絵画のかわいい【子犬】が大集合!伊藤若冲・円山応挙・長沢芦雪人気絵師の子犬を専門家が紐解く

  • 2025.9.4

近年、注目を集める江戸絵画の中でもとりわけ人気の、伊藤若冲、円山応挙、長沢芦雪。この3人の巨匠が描いた子犬たち。
“かわいい子犬”ブームだったという江戸時代、3人が追求したそれぞれの “かわいさ” について、専門家にうかがいました。

教えてくれたのは……
金子信久さん
府中市美術館学芸員。慶應義塾大学卒業。専門は江戸時代絵画史。『ねこと国芳』(パイインターナショナル)、『もっと知りたい長沢蘆雪』(東京美術)など著書多数。府中市美術館では来年3月に東京初の長沢芦雪展を開催予定。

『子犬の絵画史 たのしい日本美術』(講談社)¥2,860

人気絵師が”かわいい子犬”をこぞって描いていた江戸時代

舌をぺろりと出したり、仲間とじゃれ合ったり……。
もふもふの子犬たちを描いた、”かわいい江戸絵画”に心を掴まれた人は多いのでは?
 
『子犬の絵画史 たのしい日本美術』の著者、金子信久さんによると、江戸時代の京都では、子犬の絵が流行しており、伊藤若冲や円山応挙、長沢芦雪といった人気の画家たちは、こぞって〝かわいい子犬〟を描いていたそう。
 
「江戸時代になると、かつては武家や公家、寺社のものだった美術というものを町人も楽しむように。そうした背景のもと、かわいい子犬も描かれるようになったのでしょう」。
 
同じ子犬でも、その描き方や魅力は画家によって異なるのも面白いところ。
 
「一般的な江戸絵画のイメージとは異なる、現代のマンガやイラストにも通じる画風が若冲の特徴。彼の子犬画も、マンガ的にデフォルメしたフォルムや色柄で、遊び心が感じられます」

江戸時代の巨匠の相関図

若冲と応挙はともに18世紀の京都で活躍した人気絵師。ふたりの交流を示すものは今までなかったが、近年ふたりの競作となる屏風が発見されて話題に。
芦雪は応挙の弟子のひとり。応挙の代わりに襖絵を揮毫(きごう)したことも。

1. 加藤頴泉『伊藤若冲肖像』(京都国立博物館)
2. 伝谷文晁筆『近世名家肖像図巻』(東京国立博物館)
3. 加藤頴泉『芦雪肖像』(京都国立博物館)
出典:ColBase (https://colbase.nich.go.jp)

マンガ的な表現で独自の”かわいい”を追求 伊藤若冲

犬を見て描くのではなく模倣が当時の常識
目のまわりの白や、頭から鼻にかけて白い直線を入れるのは中国や朝鮮の犬の描き方の特徴で、その絵を模倣するのが、当時日本の常識。
「作者は中国風の絵を看板に掲げる狩野派の画家だけに、より特徴が表れています」

『仔犬図』(福田美術館)

朝鮮時代の画家・李イアム巌に影響を受けたと思われる若冲の子犬は、平たい頭や横についた耳、まん丸の黒目が特徴。「本物の子犬に近づけるというより、絵としての面白さに重きを置いた描き方がいかにも若冲らしい」

『百犬図』(京都国立博物館)

さまざまな色柄と表情の子犬を描いた、若冲晩年の大作。
「江戸時代には実際にこういう『ぶち犬』がいたそう。独特のフォルムや模様の描き方、平面を埋め尽くすような構成の仕方は、どこか現代のマンガにも通じます」

狩野探信『遊狗図』〈部分〉 (摘水軒記念文化振興財団)

今も昔も、日本人は”かわいいもの”が好き

一方、若冲と同時期に京都一の売れっ子として活躍し、多くの弟子を育てたのが応挙。
「人物から花、鳥、山水まで幅広い題材を手がけた応挙ですが、実は子犬の絵も多いのです。本当に子犬が遊んでいるような、リアルな動きが切り取られています。江戸時代の動
物画の多くは、中国・朝鮮の絵画の影響を受け、ポーズのパターンが決まっているのですが、応挙の場合は無限にバリエーションがあるんですよね」
 
その応挙の一番弟子が、多くの動物画を描いた芦雪。
「初めは応挙そっくりの絵を描いていましたが、あるときから独特の筆づかいで〝ゆるい〟子犬を描き始めます。このラフに崩した描き方はなぜか継承する人が現れませんでし
たが、3人とも、当時の一流画家がそれぞれに子犬の愛らしい仕草や表情を追求している。昔も今も日本人は〝かわいいもの〟が好きで、それを絵に描いて楽しんできたことがわかります」

愛に満ちた視点でリアルなかわいさを追求 円山応挙

『雪中狗子図』 (個人蔵)

雪の中でじゃれあう子犬たちがかわいらしい一作。
「応挙46歳の作。仲間に噛まれながら笑っているような表情は、見ている側も脱力してしまう愛らしさ。絵になるポーズや仕草を一瞬でつかみ取れるのも応挙のすごさです」

”ゆるい子犬”という新たなスタイルを確立 長沢芦雪

『狗児図扇面』(本間美術館)

ペロリと舌を出してお腹を見せているポーズと、筆を寝かせて描いた線は、現代の“ヘタウママンガ”にも通じるゆるさ。
「子犬というよりも酔っ払ったおじさんのよう。これが扇子に描かれているのも面白いところです」

『狗子図』(個人蔵)

リラックスしたポーズと描線は、芦雪の“ゆるい子犬”の集大成とも言えそう。
「師匠である応挙そっくりの絵も描くことができる芦雪が、あるときからゆるいタッチで描くようになった。その変遷も興味深いところです」

応挙と芦雪の”かわいい”はここが違う!

ともに“かわいいもの好き” であったであろう応挙と芦雪ですが、それぞれの印象は大きく異なります。
「応挙は目の輪郭を薄い墨を重ねて描くことで、うるうるしたけなげな表情になっています。芦雪は濃い墨で描くことで、やんちゃでユーモラスな印象に」

1. 円山応挙『雪中狗子図』〈部分〉(個人蔵)
2. 長沢芦雪『狗子図』〈部分〉
(摘水軒記念文化振興財団)


文・工藤花衣
 
大人のおしゃれ手帖2025年8月号より抜粋
※画像・文章の無断転載はご遠慮ください

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