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街の“推され度”がランキングに!街に対する誇り“シビックプライド”から読み解く街と人の関係を専門家にインタビュー

  • 2026.2.27

あなたは、自分の街にどれくらい愛着を持って過ごしているだろう?

人口10万人以上の都市を対象に、住民が自分の街にどれだけ愛着や誇りを感じているのかを明らかにする全国調査「シビックプライド」の調査結果が、2026年1月21日に発表された。

「街を好きだと思うだけで終わらず、もう少しよくできたらいいなと、つい関わりたくなる感覚」。今回の調査を手がけた、読売広告社 都市生活研究所 所長の山下雅洋さんは、シビックプライドをそんなふうに表現する。この街が好きという気持ちから一歩先に進み、街に関わりたいという気持ちになる。その感覚を指している言葉が、シビックプライドだ。

読売広告社 都市生活研究所が実施する「シビックプライド調査」
読売広告社 都市生活研究所が実施する「シビックプライド調査」

結果はランキングとして発表されているが、山下さんが重視しているのは順位そのものではない。「総合順位だけを見ても、その街らしさはわからないんです」。数字の向こう側に、どんな街の姿や人の気配が見えてくるのか。そんな話を伺いながら、数字の向こう側にある街の姿を見ていく。

【写真】読売広告社 都市生活研究所 所長の山下雅洋さん 【撮影】三佐和隆士
【写真】読売広告社 都市生活研究所 所長の山下雅洋さん 【撮影】三佐和隆士

シビックプライドは「街のファン」という当事者意識

――シビックプライドとは、どういう考え方なのでしょうか?

【山下雅洋】正確に言うと、市民が街や地域に対して持つ愛情や誇りを表す言葉です。ただ、いわゆる郷土愛よりも一歩先にあって、自分が住んでいる街をもっといい場所にしていくために、自分自身も関わっていきたいという当事者意識に基づいた自負心だと考えています。プライドが高い人が多い、という意味ではありません。

「街を好きだと思うだけで終わらず、関わりたくなる感覚」。シビックプライドについて、そう語る山下雅洋さん 【撮影】三佐和隆士
「街を好きだと思うだけで終わらず、関わりたくなる感覚」。シビックプライドについて、そう語る山下雅洋さん 【撮影】三佐和隆士

――住民だけに限った話ではないんですね。

【山下雅洋】そうですね。住民はもちろんですが、通って働いている街にも生まれますし、企業にもあります。たとえばトヨタさんなら、豊田市のために何かしようという気持ちがある。それもシビックプライドです。さらに言えば、一度遊びに行ってすごく好きになって、住むわけではないけれど何かしたくて、ふるさと納税をしてしまう。そういう行動も含まれると思っています。平たく言うと、街を推す、街のファンという感覚に近いですね。

――県民性とは違うものですか?

【山下雅洋】全然違います。ただ、住民が答える調査なので、少しだけ影響されることはあります。西のほうが高くて東北が低いといった傾向が出ることがあって、東北に仕事で行くと「こんな遠いところまで何もないところによく来たね」と自分たちの街を控えめに言う声が出やすい。控えめで、誇りを前に出すのが気恥ずかしい。その空気が数値に影響する場合はありますね。京都が意外と低いと言われるのも、あえて誇りを口にしない美意識が影響している部分はあるかもしれません。

言葉が広がった背景にある、街づくりの転換点

――シビックプライドという考え方は、どこから来たのでしょうか?

【山下雅洋】その考え方が広がったのはイギリスだと言われています。1800年代中盤、産業革命によって農村から都市に人口が流れ込み、市民が工場で働き、お金を持つようになった。その中で、自分たちの街を自分たちでつくろうという気持ちが生まれ、公会堂や公園を寄付で整備していった。そうすることで、自分たちが誇りを持って街をよくしていっているんだ、という自負が育ってきたのです。その考え方を日本で研究・発展させてきたのが読売広告社で、現在「シビックプライド」は当社が商標を持っています。

――日本では、いつ頃から広がったのでしょうか?

【山下雅洋】私たちが研究を始めたのは2006年頃です。2006年あたりの1年間でシビックプライドという言葉の記事件数を調べたら、ゼロでした。それが2025年で調べると年間550件ほどになっています。ここ2、3年で一気に広がった印象があります。

――なぜ、ここまで注目されるようになったのでしょう。

【山下雅洋】人口減少や消滅可能性自治体の議論で、自治体が強い危機感を持つようになったことは大きいです。その中で、人口増を目標にするのは現実的ではない。では何を目指すのかというときに、街としてのあり方や誇りを軸にする考え方が出てきました。

調査結果の背景や、数字の見方についても話してくれた 【撮影】三佐和隆士
調査結果の背景や、数字の見方についても話してくれた 【撮影】三佐和隆士

――政策の文脈でも変化があったと。

【山下雅洋】2017、18年頃から、エビデンスに基づいて政策を考えようという流れが強まりました。KPI(政策や取り組みがうまく進んでいるかを確認するための、具体的な目標指標)を設定してPDCA(計画を立て、実行し、振り返って改善につなげる一連の流れ)を回すことが自治体にも求められるようになった。ただ、街づくりの現場では、経験・勘・思い込み、いわゆるKKOで決まってしまうことも多かった。やったけれど効果を測っていない、というケースも少なくありませんでした。

――調査は、そこへの問題意識から始まった。

【山下雅洋】目に見えないプライドを、どれくらい上がったのか、何をすれば上がるのか、データで捉えられる状態にしたかったんです。それは自治体だけでなく、地域貢献に取り組む企業にとっても意味があります。企業側も、やったことだけでなく、どんな変化があったのかを確認する必要がありますから。

総合よりも差分を見る。数字の裏にあるリアル

人口10万人以上の都市を対象にした、シビックプライド総合ランキング(上位30位)のコピー
人口10万人以上の都市を対象にした、シビックプライド総合ランキング(上位30位)のコピー

――今回のランキング、まず総合順位が注目されがちですが、どのような感想ですか?

【山下雅洋】そうですね。正直に言うと総合だけを見るのは、もったいないと思っています。総合は入口としてはわかりやすいですが、街の性格の違いは個別のランキングに表れています。

――もう少し具体的に教えてください。

【山下雅洋】例えば総合上位に並ぶ中央区、港区、高槻市、千代田区、鎌倉市も、中身は全然違います。愛着ランキングでは中央区や高槻市、西宮市が強い。一方で誇りランキングになると港区や千代田区が上に来る。エンゲージメントランキングでは高槻市が1位で、継続居住意向ランキングでは鎌倉市がトップです。同じ上位でも、評価されている理由はバラバラなんです。

総合順位と、5つの指標それぞれの上位都市を比較
総合順位と、5つの指標それぞれの上位都市を比較

――例えば千代田区は、エンゲージメントの項目と誇りの項目が高いですね。

【山下雅洋】エンゲージメントは、好きとか誇りというより、自分の人生と街が結びついている感覚のことです。たとえば、仕事や暮らしの中で街の名前を名乗ることに自然と意味を感じたり、来訪者にこの街のことを少し誇らしく説明したくなったりする。その積み重ねが、エンゲージメントにつながっていきます。皇居や国の中枢機能がある千代田区は、「ここに住んでいる自分」という意識を持ちやすい。外から見たイメージと、自分自身が感じている価値が重なりやすい街だと言えます。

――他者評価がそこまで影響するのは意外でした。

【山下雅洋】分析途中ですが、シビックプライドに強く関係しているのは、他の人から「いい街だね」と言われることです。港区や鎌倉市が高いのも、その影響が大きい。日本特有の傾向かもしれません。ただ、本当はそこから一歩進んで、自分自身がその街をどう感じているかに意識が向けられるほうが自然な形だと思っています。

――性別や年代で見ると、かなり結果が違います。

【山下雅洋】男性では文京区、女性では港区が1位です。20〜30代では高槻市が1位で、50〜60代では中央区が1位。若年層は地域とのつながりや、主体的に関われる感覚を重視する。一方で年配層は、自分の生活に合っているか、快適に過ごせるかを重視する。一般的なイメージとは逆ですよね。

性別・年代別に見るシビックプライドランキング(各上位10位)のコピー
性別・年代別に見るシビックプライドランキング(各上位10位)のコピー

――若い世代が地域に関心を持っているのは、希望にも見えます。

【山下雅洋】そう思います。若年層は地域と関わりたくないと言われがちですが、実際には関わり方を選びたいだけ。無理に消防団に入れ、という話ではなく、もっと気軽に関われる入り口があるといい。そうした関わり方の積み重ねが、住み続けたい、将来戻りたいという気持ちにつながっていきます。

――大都市は、さらに細かく見る必要がありそうですね。

【山下雅洋】横浜市や川崎市、名古屋市、福岡市のような大きな都市は、エリアごとに全然違います。川崎市は独自に毎年シビックプライド調査をしていて、市全体ではなく、もっと細かい単位で見る重要性を示しています。

調査結果から見えてきた、自治体のあり方の傾向

――調査を進める中で、いくつかの共通した視点が見えてきたそうですね。

【山下雅洋】地域の満足度やシビックプライドを高める要素として、「主人公体験」「自己更新性」「ストーリー性」「他者承認」「誠実性」の5指標が重要だという結果が出ています。それぞれの指標をもとにレーダーチャートで可視化してみると、自治体ごとに形がまったく違うことが見えてきます。

――なぜ、この5つだったのでしょうか?

【山下雅洋】成功事例を横展開してもうまくいかない理由が、そこにあります。自治体ごとに課題もニーズも全然違うのに、「あそこがアニメの聖地巡礼で当たったからうちもアニメでなにかを」という形でまねしてしまう。でも、重視しているものと現状が違えば、ズレが生まれる。そこで僕たちは、エリアインサイトの5指標をレーダーチャートで可視化しました。その街の理想と現状をチャート上で表現することで、理想としているのに現実では足りていない部分、逆に過剰になっている部分が一目でわかる。まず自分の街の形を知る必要があります。

シビックプライドの傾向で自治体をタイプ別に分類することで、自治体同士の横展開が取り組みやすくなるという 【撮影】三佐和隆士
シビックプライドの傾向で自治体をタイプ別に分類することで、自治体同士の横展開が取り組みやすくなるという 【撮影】三佐和隆士

――自治体はタイプ分けできると。

【山下雅洋】話を整理すると、分析途中ではありますが、全国の自治体は大きく5タイプに分けられそうです。ひとつは港区や渋谷区、地方の中枢都市に見られるような、経済力や他者評価が高い憧れの高ステータス先進都市。もうひとつは京都市や金沢市、鎌倉市、函館市、別府市のように、歴史や観光イメージが強く、名前を聞くだけで情景が浮かぶ観光歴史ブランド都市です。

ほかにも、暮らしやすさや生活利便性が評価される生活満足型都市、地域との関わりや主体的活動が強い参加型都市、そして小規模でも独自の物語や誇りを軸に評価されるストーリー起点型都市など、指標の形が似た自治体同士がグループをつくっていく。全然違うタイプをまねしてもうまくいかない。同じタイプの自治体から学ぶほうが、結果として、取り組みがかみ合いやすくなると思います。

――小さな都市でも、十分に可能性がある。

【山下雅洋】伊勢市や浦添市のように、歴史や成り立ちを掘り起こすことで、街を誇る理由がはっきりする場合があります。富士宮市は焼きそば、高松市はうどん。別府市も温泉だけでなく、アートという新しいストーリーを重ねてきました。規模の大小は、必ずしも関係ありません。

指標はヒント。街の現場でどう生きるか

――自治体からの反応も大きそうですね。

【山下雅洋】かなりあります。実際に最近は、問い合わせをいただいた自治体に対して、先ほどの5指標をもとにした簡易的な分析レポートを返す取り組みも始めています。これからはAIも活用しながら、自治体名を入れると、その街の5指標の傾向や、次に考えたいテーマが見えてくる。そんな使い方ができる仕組みを整えていきたいですね。政策を考える際に、まず現状を整理するための材料として使ってもらえたらと思っています。

――街の特徴が把握できる指標やタイプ分けは自治体だけでなく企業も活用できそうです。

【山下雅洋】はい。エリアマーケティングや地域連携を考えている企業にも有効です。地域ごとに何が満たされていて、何が足りていないのかが見えるので、「この課題なら自社の技術やサービスが活かせる」という形で参画しやすくなります。外食や小売、エンタメなど、土地ごとに反応が違う業種ほど、相性はいいと思います。

スポーツやエンタメも同じです。野球を例にとると、広島にカープがある、福岡にホークスがあるというのは、その街の文脈と結びついているからこそ、強いシビックプライドにつながっている。データを見たうえで「この街には何が合うのか」を判断できるようになるのが、この指標の価値だと思っています。

ランキングは入口。街の違いを読み解く

――ランキングの下位については、どう捉えればいいでしょう。

【山下雅洋】ランキングは例えると健康診断のようなものです。数値が悪かったからといって、その街が悪い街だという話にはなりません。ただ、順位が出る以上、その数字が気になるのは自然だと思います。

大事なのは、順位そのものよりも「なぜこの位置なのか」を考えることです。ランキングが低い中にも強みがある街はありますし、逆に総合順位は上位に入ってなくても、「この街をよくしたい」という気持ちを示す項目だけを見ると低いケースもある。ある都市では、暮らしやすさは高いけれど、街づくりへの当事者意識は低い、といった結果も見受けられました。

ランキングは優劣を決めるためのものではなく、自分の街のあり方に興味や疑問を持つための入口です。今回の調査では、総合30位までが目に入りやすい形で紹介されていますが、31位以下も含めた全自治体の結果は、専用のポータルサイトで公開されています。上位だけを切り取ったものではなく、全体像を見たうえで考えられるようになっている。数字は、街の姿に気づくための材料なんです。

山下さんが大事にしているのは、順位そのものよりも、どう読み取るかという視点だそう 【撮影】三佐和隆士
山下さんが大事にしているのは、順位そのものよりも、どう読み取るかという視点だそう 【撮影】三佐和隆士

――全国調査に広げたことで、見えてきたことはありますか?

【山下雅洋】これまでは関東や関西が中心でしたが、全国に広げたことで、日本全体のシビックプライドの状況がようやく見えるようになりました。関東や関西だけだと、どうしても大都市の話に見えてしまう。今回、人口10万人以上という条件はありますが、全国を対象にしたことで、「どの街にもシビックプライドは大事だ」と、はっきり言えるようになったのは大きいです。

規模が小さくても、高い評価を得ている都市があることもわかりました。たとえば那須塩原市のように、総合順位は上位に入っていなくても「この街をよくしたい」という意識が非常に高い都市もあります。順位だけでは見えない街の勢いが、差分を見ることで浮かび上がってきます。

ランキングは、順位を決めるためのものというよりも、自分の街を相対的に見るための材料だと考えています。「なぜこの街が上にいるんだろう」「自分の街はなぜこの位置なんだろう」と考えることで、他の街の取り組みを知るきっかけにもなる。そのプロセス自体が大事だと思っています。

――このランキングは、読者の皆さんにはどのように見てもらえるといいでしょうか?

【山下雅洋】順位だけを見て終わるのではなく、自分の街はどんな形をしているのかを考えるきっかけにしてもらえたらと思います。どこが強みで、どこが少し足りていないのか。その違いに気づくだけでも、街との距離は少し変わります。シビックプライドは、誰かと競うためのものではなく、自分の街を理解するための視点だと思っています。

ランキングは、街のよし悪しを決めるためのものではない。順位を眺めていると、「なぜこの位置なんだろう」と、ふと気になる瞬間がある。その引っかかりが、この調査の入口だ。専用のポータルサイトでは、総合順位だけでなく、愛着や誇り、関わり意識といった項目ごとの結果も並んでいる。上か下かを気にする前に、自分の街がどんな形をしているのかを知るところから。気になったら、最後はポータルサイトをチェックしてみてほしい。

取材・文=北村康行

撮影=三佐和隆士

編集=澤田麻依

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