1. トップ
  2. エピソード
  3. 「土地の価値が下がっちゃう」伯父の無事を願う車内。だが、車の後ろから聞こえた伯母の一言

「土地の価値が下がっちゃう」伯父の無事を願う車内。だが、車の後ろから聞こえた伯母の一言

  • 2026.9.7
「土地の価値が下がっちゃう」伯父の無事を願う車内。だが、車の後ろから聞こえた伯母の一言

昼になっても、伯父は畑から戻ってこなかった

小学校の低学年のころ、夏休みになると伯父の家へ泊まりに行っていた。伯父夫婦は農家をしていて、家の周りには畑が広がっていた。

その日も、伯父は朝早くから畑へ出ていた。

ところが昼になっても戻ってこない。台所の時計を何度か見ていた母が、エプロンを外した。

「ちょっと見てくるね」

「ぼくも行く」

母は少し迷ったものの、私を連れて畑へ向かった。

畦道を歩いていくと、畑の中に伯父の姿が見えた。近づいてみると、地面に倒れていた。

母が名前を呼ぶと、伯父は返事をした。

「大丈夫。聞こえてるよ」

受け答えはできていたが、自分では起き上がれないようだった。

当時は今のように誰もが携帯電話を持っている時代ではなかった。

母は伯父に「すぐ戻るから」と声をかけ、私を連れて急いで家へ戻った。

家の電話から救急へ連絡し、畑の場所を説明する。そのあと、家にいた伯母にも伯父が倒れていることを伝えた。

畑へ戻る車の中で、聞こえてきた一言

母は車を出し、伯母を乗せてもう一度畑へ向かった。

私は助手席に座り、伯母は後ろの席にいた。

車の中では、ほとんど誰も話さなかった。

母は前を見たまま運転している。窓の外には、見慣れた畑が流れていった。

しばらくして、後ろから伯母の声が聞こえた。

誰かに話しかけたというより、本当に独り言のような小さな声だった。

「土地の価値が下がっちゃう」

私は一瞬、何の話をしているのか分からなかった。

伯父が畑で倒れている。これから救急車も来る。そんなときに、なぜ土地の話をしているのだろう。

子どもの私には、その言葉の意味を考えることすらできなかった。

母が何か返事をした記憶もない。

ただ、静かな車の中で聞こえたその一言だけが、妙にはっきり耳に残った。

伯父は骨折で済んだ。それでも言葉だけが残った

その後、伯父は病院へ運ばれた。

幸い、大きな事故にはならず、骨折で済んだと聞いた。子どもだった私は、それを聞いてようやく安心した。

何日かしてから、私は車の中で伯母が言っていたことを母に話した。

母は少し黙った。

「そう…。今度、伯父ちゃんと話してくるね」

返ってきたのは、それだけだった。

私は「土地の価値」という言葉が何を意味していたのか聞きたかったが、母はそれ以上説明しなかった。

翌年の夏に伯父の家へ行ったとき、伯母の姿はなかった。

理由を尋ねても、母は「農家のことで、いろいろ大変だったみたいよ」とだけ言った。

その後、私は伯母に会っていない。

だからといって、あの日の言葉とその後のことに関係があったのかは分からない。

伯母に何か嫌なことをされた記憶もない。夏に遊びに行けば、いつも冷たい麦茶を出してくれる人だった。

それでも大人になった今も、あの日の車内を思い出すことがある。

伯父が倒れていた畑へ向かう途中、後ろの席から聞こえた、小さな声。

「土地の価値が下がっちゃう…」

あのとき伯母が何を考えていたのか、今も私には分からない。


※本記事は、GLAMが独自に実施したアンケートで寄せられた30代男性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています

※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

元記事で読む
の記事をもっとみる

注目コンテンツ