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SUPER BEAVER渋谷龍太のエッセイ連載「吹けば飛ぶよな男だが」/第62回「レモンかけますね」

  • 2026.8.27

擦りに擦られ続けた話題、議題というのがある。もう聞いた、もう考えた、もう話した、という顔をされるのが怖くて、私から提示することは殆どない。

『吹けば飛ぶよな男だが』を読む

が、しかし。

今日は勇猛果敢にも、タブーと自認しているそこに踏み込んでみようかななんて思っている。

と、いうのも、現在これを書いているのは新幹線。今日は読みたかった小説を読もうとワクワクして乗り込んだのだがそれを中断し、たった今弾かれたようにパソコンを取り出して、記している。お察しの通り、きっかけがあったわけだ。

現在の私の状況を説明すると、至って普通。最低限の荷物以外は荷棚にあげ、乗り込む前に買ったホットコーヒーを傍に腰掛けている。だから、前に座るおじさんがシートを全倒ししてこなければ、別段いつもと変わらない旅情を味わっていたことと思う。

はい。ということで、「乗り物におけるリクライニング問題」いってみよう。

当然のことだが、シートがここまで倒れる仕様になっている即ち、与えられた権利であり、おじさんは権利を行使したに過ぎない。定められた規格に従い、それを最大限に活用するのは至極当たり前のことだろう。文句を垂れる方が筋が違うのはわかっている。

ただやっぱり思うのだ、新幹線のリクライニングわんぱく過ぎやしませんか、と。もう体感だけでいったら、私の胸にくっついてる気がするもん。少しでも、腰を浮かせればおじさんのパヤパヤとしか毛の生えてない頭頂部を眼下に拝めるなんてちょっとどうかしてる。おじさんの頭抱いてる感覚にすらなってくる。

これを無理矢理回避するには私もある程度のところまでシートを倒す必要があるのだが、そうすると後ろの座席の人に今の自分と同じ気持ちを抱かせてしまうことになる。頭頂部に毛があるかないかの違いはあるが、この「あア、そうかア、まじかア」を二時間以上抱かせたくない。誰かの不快を伴う可能性のある権利を行使する気概は、私には無い。

まア、こんな風にややこしい気持ちになることが特殊なのだとすれば、話はこれまでだ。しかしきっとこのどうしようもないモヤモヤを抱えている同志が他にもいると信じて話を続けさせてもらえるのなら、そもそもリクライニングの可動域がもう少しせまければいいのではないか、と私は思ったりしている、と言いたい。座席の間隔がもっと広ければ180度、いや、もっといってもらったって全然構わないが、当然の権利だと理解していながらも、この間隔において後ろの人間にストレスを感じさせてしまうリクライニングの可動域は、やはりわんぱく過ぎる気がするのだ。

付随して、「シート倒していいですか」問題も避けられないだろう。

権利なのだからわざわざ訊く必要がない、マナーというよりモラルとして訊くべきだ、駄目と言われたらどうするんだ、それは権利の迫害に当たるのではないか、だったらそもそも訊くことが無駄だろう、だから最初からモラルと言ってるじゃないか、気持ちよく「はい」と言ってもらえると思う自らの理想を押し付ける人間がモラルとか言うな、なんだと、なんだよ、やるか、おう表出ろや。

この流れ、不可避。個人的にはどちらの言い分も理解出来るので、表に出て腕っぷしの強さで是非が決まるのはいかがなものかと思ってしまう。

なので個人的最適解は、すみません、と前置きを入れてからの、「シート倒しますね」宣言。

まア、完全に無駄発言であり、若手ミュージシャンからごく稀に言われることがある「俺、絶対にあなた越えるんで」発言くらい「うん、で?」なのは重々承知はしているのだが、権利の行使と、モラルとのちょうど良いところに着地しているんじゃないかと思っている。クローズドクエスチョンという形でもなければ、モラルという点においてカバーできている気がするし、何より議論にすら発展しない。

そんな無駄なことわざわざ言う必要がない、知ってる分かって言ってる、…、…、表出ないよね、うん表出ない。

この流れ、すんなり。

あくまで個人的な感覚だが、シート全倒しをされたとしても、その前にこの一言があれば容認出来ると思うのだ。「いやだからあなたがどう思おうがそもそも権利が」とかまた引っ張り出さないでくださいね。私今忙しいんで。

互いが互いを受け入れつつ、気持ちが良いか悪いか、を軸に物事を考えられてたら良いのにな、なんてことを、時たまエアコンの風で揺れるおじさんの少ない毛髪をチラチラと覗きながら考えました。

ちなみに唐揚げに「レモンかけていいですか」問題も、「シート倒していいですか」問題の応用が効くと思っていて、「レモンかけますね」宣言に変えれば、あの全員が回答しなきゃいけないような変な時間は回避出来ると思っている。

ただ付随して「苦手な人言ってくださいね」を付け加えると尚よし。レモン肯定派は黙ってても「はーい」とか「ありがとー」とかだけで済むし、否定派は「あ、自分いらないです」と言う自らの意見の主張だけで済むため、「No」と否定をする必要がなくなる(もじもじしちゃう人にとってみれば否定より、主張のがまだ幾らかマシ)。レモン否定派が現れたら、その人の分だけ先に取り分けてあげようね。

擦りに擦られた話題が乱立する結果となった今回。「乗り物におけるリクライニング問題」延いては「シート倒していいですか問題」。そして掠るように触れた「レモンかけていいですか問題」。

タブーと思しきこれらに、自らの意志で触れようと思った勇気、見事なもんです。私は私に拍手を送りたい。拍手しますね。

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