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「私は被害者だ!必ず同じ車を用意しろ」10対0の追突事故→代車手配を“こだわった”50代男性の末路

  • 2026.9.16
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出典:PhotoAC ※画像はイメージです

「私は被害者だ!必ず同じ車を用意しろ」」

ある連休前、私が損害保険会社の事案担当者として対応していたのは、契約者Aさん(30代・男性)による10:0の追突事故です。電話の相手は、被害者であるBさん(50代・男性)でした。

Bさんが怒っていたのは、事故で使えなくなった車の代わりとなる「代車」の手配についてでした。連休前という時期が、この件を難しくしていたのです。

同一車種にこだわったBさん

事故は、信号待ちで停止していたBさんの車に、Aさんが後ろから追突する形で起きました。Bさんの車は後部が大きく損傷し、修理には時間がかかる状態です。

修理期間中の代車は、加害者側の保険会社が手配するのが一般的です。私はレンタカー会社に連絡を取り、Bさんに用意できる代車を探すことになりました。

「必ず同じ車を用意するように。それ以外は受けつけない」

Bさんはそう言いました。私は、連休前は多くの代車がすでに出払いつつあること、用意できるのは同等車(大きさや形状、排気量などが近い車種)が精一杯であることを伝えましたが、Bさんは納得しません。

「私は被害者だから、自分で代車は探さないし、好きな車種を希望する権利がある」

そう言われ、私が状況を重ねて説明しようとしたところで、電話を切られてしまいました。

一晩で消えたセダンタイプ

私はすぐにレンタカー会社に片っ端から連絡し始めました。

連休2日前、時刻はすでに16時を過ぎています。他の保険会社の担当者も同じように代車を探しているため、この時期のレンタカーは実質的に早い者勝ちです。

多くの会社にあたった結果、Bさんの車と同じセダンタイプ、同等の排気量の車を1台押さえることができました。すぐにBさんへ連絡します。

しかし、電話に出たBさんの返答は、次のものでした。

「その車は好きじゃない」

なぜ同じ車種を用意しないのかと重ねて問われ、私は連休前でレンタカーが出払いつつある状況を改めて説明しました。

「もう時間も遅くなるから、明日また連絡してこい」

Bさんはそう言って、電話を一方的に切ってしまいました。

レンタカー会社からは、その日のうちにBさんから了承を取ることが条件だと言われています。Bさんには折り返しても出てもらえず、メールへの返信もありません。押さえていた代車は、いったんキャンセルするほかありませんでした。

翌朝、私は再びレンタカー会社へ連絡を入れました。しかし前日見つけた代車はすでに予約済みで、それどころか、条件に合うセダンタイプそのものが1台も残っていません。半日ほどのあいだに、在庫の状況はすっかり変わっていたのです。

消えた代車

私はBさんに連絡し、事情を説明しました。

「こっちは何も悪くないのに、勘弁してくれよ」

Bさんはそう漏らしましたが、ない車を用意することはできません。

「そんなに大変な話なのか。何軒か電話すればいいだけだろう」

Bさんはそう言い返しました。私は改めて、連休前は他の担当者も同時に代車を探していること、レンタカー会社の在庫そのものに限りがあることを伝えましたが、話は噛み合わないままでした。

私からBさん自身のつても当たってほしいと伝えると、「自分で探したほうが早い」と言って電話を切られました。

しかし、結果からいえば、Bさんも代車を見つけることはできませんでした。知り合いの修理工場や、自分で連絡したレンタカー会社にも、条件に合う車は残っていなかったとのことです。

連休前のレンタカー不足という状況は、過失の有無に関わらず影響を及ぼします。Bさんは結局、連休のあいだを車のない状態で過ごすことになりました。

被害者であるから好きな車に乗っていいわけではない

損害保険の基本的な考え方に「原状回復」があります。これは事故によって生じた損害を、事故前の状態に戻すという原則です。修理費用や代車費用も、この原則に基づいて算定されます。

この原則に基づくなら、代車は事故車とまったく同じ車種である必要はありません。大きさや形状、排気量などが近い「同等車」であれば足りるとされています。また、希少な車種になると、そもそも配車できないケースも出てきます。

もし自分で好きなレンタカーを借りて費用を保険会社へ請求した場合も、認められるのは同等車の料金までが原則です。それを超えた分は、自己負担になります。

突然の事故に遭ったBさんにとって、ご自身の希望が通らないのは納得がいかない状況です。しかし、被害者であることと、希望どおりの代車が用意できることは、別の問題なのです。

“連休前の代車”で覚えておくべきこと

代車の需要が集中する連休前は、条件に合う車を探しているあいだにも、選べるものがどんどん減っていきます。

今回のケースでは、1台が消えるまでにかかった時間は、半日ほどでした。車種にこだわりすぎず、まず1台を押さえることを優先したいところです。

また、自分で代車を手配する場合は、認められる金額の基準をあらかじめ保険会社に確認しておくと、後々の請求で揉めずに済みます。

事故に遭えば、腹も立ちます。それが自分に過失のない被害事故であれば、なおさらのことです。しかし、感情のままに要求を続けているあいだにも、自分の選択肢は減っていきます。

被害者として正当な主張をすることと、自分にとって損のない判断をすることは、別の話です。

被害者だからこそ、「感情」と「判断」を分けて考えることが、結果的に自分を守ることにつながります。


ライター:スライカズヤ
保険・自動車分野を専門とするライター。損害保険会社で事案担当者として10年間、示談交渉・損害査定・自動車修理の協定業務に携わり、数多くの事故対応の現場に立ってきた。初級技術アジャスター、3級ファイナンシャル・プランニング技能士、損害保険事業総合研究所 本科講座修了。専門性の高い知識を、正確に、分かりやすく伝えることを信条とし、「当事者にならないとわからない」事故と保険のリアルを読者に届ける。


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