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「男の友情は浅い」心理学の定説、実は白人男性だけだったと判明

  • 2026.5.10
Credit:canva

心理学のコラムなどで「女性は男性よりマルチタスクが得意だ」「SNSをよく使う人ほど共感力が低い」といった解説を目にしたとき、あまり周囲を見ても当てはまらないと感じることがあるかもしれません。

心理学の世界には「WEIRD問題」と呼ばれる課題があります。

これは研究データの多くが、西洋の(Western)、教育水準が高く(Educated)、工業化された(Industrialized)、裕福な(Rich)、民主的な(Democratic)社会の人々に偏りがちだという問題です。

実際、心理学の研究では、調査された対象の偏りが専門家の間で指摘されることはよくあります。

しかし広く知られた定説になると、その心理傾向がどういう対象を調査した結果なのかという重要な部分は抜け落ちて伝わることが珍しくありません。

カリフォルニア大学サンタバーバラ校(University of California, Santa Barbara:UCSB)の社会学者、エミリー・C・フォックス(Emily C. Fox)博士は、長年「定説」とされてきた「男性の友情は女性よりも親密度が低い」という心理学の定説が、実はこの「WEIRD問題」に当てはまる現象ではないかと疑問を持ちました。

そして博士の新たな分析から、これまで「男性全般の傾向」と見なされてきた友情の親密さの低さは、主にアメリカの白人男性特有の傾向だった可能性が示されたのです。

この研究の詳細は、2026年3月23日付けで科学雑誌『Sex Roles』に掲載されています。

目次

  • 「男の友情は浅い」という定説
  • なぜ白人男性だけ「友情が浅い」のか

「男の友情は浅い」という定説

これまで心理学の分野では、男女の友情には明確なスタイルの違いがあると考えられてきました。

例えば、女性は向き合って悩みや感情を分かち合う「向き合う友情(Face-to-Face)」、男性はスポーツや趣味を一緒に楽しむ「肩を並べる友情(Side-by-Side)」といった傾向です。

この違いから、男性の友情は女性に比べて情緒的な結びつきが弱く、親密度も低いとする「男女の友情格差(Gender Friendship Gap)」が、1970年代から長らく心理学では定説となってきました。

しかし、「男の友情は女性より浅い」と言われて、そんなことないんじゃない? と疑問を感じる人は多いでしょう。

今回の研究を報告したフォックス博士も同様の疑問を抱き、この定説の根拠となった過去の研究が、「WEIRD問題」と呼ばれるデータの偏りを起こしていたのではないかと考えました。

もし「男の友情は浅い」という現象が、男性特有の傾向ではなく、調査の偏りから生まれた傾向なのであれば、人種や社会階層が変われば結果も変わるはずです。

この疑問を検証するため、彼女はアメリカの若者を長期間追跡した「全米青年縦断調査(National Longitudinal Survey of Youth 1997:NLSY97)」という大規模なデータを用い、1,765名の若者を対象に再分析を行いました。

調査では18歳から21歳の男女に対して、自分の「親友」を一人思い浮かべてもらい、その相手との関係について詳しく回答してもらっています。

親密さの測定では、0(全く親しくない)から10(非常に親密)までの11段階で、本人がその親友をどれくらい親しいと感じているかを回答してもらいました。

そしてこの調査を、「黒人」「ラテン系」「白人」という3つのグループに分け、さらに家庭の社会経済的背景なども考慮して分析した結果、意外な事実が浮かび上がりました。

全米規模のデータを詳細に分析した結果、黒人では友情の親密さに男女間で目立った差はなく、ラテン系でもその差はわずかなものであることが判明したのです。

一方で、白人グループにおいてのみ、男性が女性よりも明らかに親密さが低いという顕著な格差が見られたのです。

そのためこれまで心理学が「男性全般の傾向」と考えてきた「男性の友情の希薄さ」は、実は主にアメリカの白人男性という特定の層で見られる現象を、全人類に当てはめてしまった結果であった可能性が示されたのです。

なぜ白人男性だけ「友情が浅い」のか

なぜアメリカの白人男性だけが、他のグループに比べて友人と心理的な距離を感じやすいのでしょうか。

そこには、彼らが置かれているコミュニケーションの質や、特有の社会的な立場といった要因が影響している可能性があります。

心理学において、親密さを高めるための鍵とされているのが、自分の悩みや弱みを打ち明ける「自己開示(Self-disclosure)」という行為です。

今回の調査でラテン系男性の友情を詳しく見ると、当初は女性よりも親密度が低いように見えましたが、統計的に「人間関係について相談する頻度」などを揃えて比較すると、その男女差はほとんど消失しました。

彼らは単にコミュニケーションの頻度が女性と違うだけで、質的な親密さ自体は女性と同等だったのです。

しかし白人男性では、連絡頻度や相談頻度の違いを統計的に考慮しても、友人を「それほど親密ではない」と感じる傾向が残っていました。

この背景には、アメリカ社会における「社会的立場」と「男らしさの規範」の影響があると考えられます。

アメリカの主流派である白人文化において、「男は他人に頼らず、常に状況をコントロールして自立しているべきだ」という規範が非常に強く機能しています。

彼らにとって誰かに心を開くことは、自らの「強さ」や「優位性」を損なうリスクであり、無意識のうちに感情的な距離を置いてしまうのです。

また今回の分析では、白人回答者に限って、家庭の社会経済的背景が高いほど、親友との親密さをやや低く報告する傾向も見られました。

これは、社会的に有利な立場にあるほど、深い友情を築く機会が失われやすいことを示唆しています。

対照的に、黒人やラテン系のコミュニティ、あるいは女性たちは、不利な状況や、社会的に困難な立場に置かれることが少なくありません。

こうした環境では、仲間と深くつながり、感情的に支え合うことが、日々を乗り切るための大切な戦略になりやすいと考えられます。

そのため彼らにとって、友人に弱みを見せ結束を固めることは、決して「男らしくない」選択とはならないのかもしれません。

こうした解釈は、「男は弱みを見せず、自立しているべきだ」という支配的な男性規範が、男性同士の親密な関係を妨げるという既存の議論とも重なります。

もちろん、この研究は2002年時点のアメリカの18〜21歳を対象にした分析であり、すべての年代や国にそのまま当てはめられるわけではありません。

また、調査は「親友」一人との関係を尋ねたもので、友人関係全体の広がりまでは分からず、白人男性が実際に友人との親密さを感じにくかったのか、それとも親密だと答えること自体にためらいがあったのかも、今回の調査では区別できません。

しかし、これは定説に対して再考を迫る興味深い報告なのは確かです。

心理学の研究解説では、どの様な人たちを調査したのか? という点に注意を払う人は多いですが、定説となってしまうとその情報が見えづらくなってしまいます。

今回の研究はそうした疑う視点の重要性を改めて示すものかもしれません。

元論文

Are White Men Missing Out?: Differences in Friendship Closeness by Gender and Ethnoracial Identity
https://doi.org/10.1007/s11199-025-01638-7

ライター

相川 葵: 工学出身のライター。歴史やSF作品と絡めた科学の話が好き。イメージしやすい科学の解説をしていくことを目指す。

編集者

ナゾロジー 編集部

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