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忘れられないおもちゃの話。「小さなパズルから潜った、もう一つの世界」作家、哲学研究者・永井玲衣

  • 2026.8.2
織山朋 イラスト

今振り返れば、幼い頃は大人に囲まれて時間を過ごすことが多かったように思います。兄弟はおらず、両親は休日といえども積極的に子供向けの場所に連れていくタイプではなかったので、たびたび大人たちの用事が終わるのを“待つ”時間が発生しました。

その時に没頭していたのが、15並べという手のひらサイズのパズルゲームです。たしか、父が海外出張のお土産で買ってきてくれたものだったと思います。家の中ではもちろん、出かける時には必ず持っていって、大人たちが難しい本を選ぶ洋書店の隅っこなどで、カチャカチャと音を立てながら一人で何時間でも遊んでいました。

遊び方はごく単純で、4×4の16マスのボードの中に1から15までの数字が書かれたコマと空白のコマが1つ格納されており、それらを縦か横にスライドさせながら番号順に並べていくというもの。揃ったらぐちゃぐちゃにして、また一から並べていく。

誰でもある程度の時間をかければ完遂できる簡単なゲームですが、慣れるにつれてタイムアタックにも挑戦していって(笑)。破壊と創造を何千回、何万回と繰り返す過程で、小さな手の中に、現実とは別の広い世界が広がっていることに、孤独が和らぐような、不思議な安心感を覚えていたように思います。

織山朋 イラスト

大学院生だった25歳頃まではたびたび取り出して遊んでいました。わからないこと、ギスギスした社会、噛み合わない人間関係に悩んだり疲れたりするたびに、15並べを通じて別の世界に潜り込んでいましたね。次第に触れる機会が減ったのは、哲学対話の場を開くようになったから。

対話を通じていろんな他者が新しい視点やそれぞれの宇宙を開示してくれるようになったことで、自然と頼る必要がなくなっていきました。でもやっぱり、冷たくなった金属製のパズルを少しずつ手で温めていく感じや、スライドさせるたびにカチャカチャと鳴る音、数字部分がポコっと浮き上がったコマの手触りは、時々懐かしくなりますね。

profile

永井玲衣(作家、哲学研究者)

ながい・れい/1991年東京都生まれ。全国各地で哲学対話の場を開く。写真家・八木咲とともに、戦争について考える〈せんそうってプロジェクト〉も主宰。著書に『水中の哲学者たち』(晶文社)、『さみしくてごめん』(大和書房)など。

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