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忘れられないおもちゃの話。「石鹸箱のマシンロボ」〈中野ロープウェイ〉店主・イトウ

  • 2026.7.20
織山朋 イラスト

我が家は決して貧乏ではなかったが、母が「元祖節約主婦」の権化だったせいで、異常な倹約生活を強いられていた。冬でも暖房はつけず、ジャンパーを着込んでごはんを食べる。割り箸は洗って再利用、砂糖は喫茶店やファミレスのスティックの寄せ集め。お風呂のお湯は衣装ケースに汲んで太陽光で温めて沸かす。今となっては笑い話だが、当時の母は数円の節約にも全力を注ぐ筋金入りの倹約家だった。のちにNHKの家計簿コンテストで日本一になる(それはまた別のお話)。

そんな家でおもちゃを買ってもらえるはずもなく、友達のおもちゃを厚紙で真似たり、親戚に借りた『キン肉マン』をチラシの裏に模写したりして過ごしていた。

ある日、友達が持っていた「マシンロボ」がどうしても欲しくなった。80年代に爆発的な人気を誇ったシリーズで、マシン(自動車や戦闘機など)がロボットに変形するギミックが最高にカッコよかった。特に鮮やかな赤いボディの《ジェットロボ》が忘れられない。翼が腕に変わるスムーズな変形もたまらなかった。

友達のロボを眺めていると「石鹸箱でなら作れるかも」と思いついた。改良を重ねて、なんとか飛行機からロボットに変形する石鹸箱ロボが完成。学校に持っていくと大評判で、クラス中で石鹸箱ロボ熱が伝わり、アイデアを出し合って集合知が加速。他のクラスにも広がり、バリエーションも生まれた。

織山朋 イラスト

その後、見知らぬ子が作った石鹸箱ロボが図画工作コンクールで賞を取ったと聞いた。世の中の不条理さを初めて感じた瞬間だった。

ふと思い出して、久々に石鹸箱を手に入れて作り直してみた。牛乳石鹸の匂いが当時の記憶を呼び覚ます。完成品は驚くほど不格好で笑ってしまったけど、なぜか泣きそうになった。地を這うような倹約生活だったけど、心だけは石鹸箱のジェットロボのように空を飛び回っていた。今もあの翼で飛び続けている。

profile

イトウ(〈中野ロープウェイ〉店主)

愛知県生まれ。生活不必需品ショップ〈中野ロープウェイ〉の店主。サブカルチャーの聖地として知られる商業施設〈中野ブロードウェイ〉の地下1階に位置し、ジャンル不明の雑貨と犬のTシャツを取り扱っている。

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