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いよいよ、食文化の世界にも人間国宝誕生か⁉有識者に聞いた、新たな顕彰制度「食の至宝」

  • 2026.5.11

2013年、「和食」がユネスコの無形文化遺産に登録されると、食文化への関心が高まり、17年には「文化芸術基本法」の一部改正により、生活文化の例示として「食文化」が追記され、振興の対象に。日本の食の重要性が次第に浸透しついに、人間国宝が誕生するかも。

本記事は、BRUTUS「会いたい国宝」(2026年5月1日発売)から特別公開中。

料理人のイラスト
BRUTUS

まえがき

昨年、料理人やフードジャーナリストはじめ、食の関係者に衝撃が走った。文化庁が重要無形文化財の制度を約50年ぶりに見直し、「芸能」と「工芸技術」の2分野に、新たに「生活文化」を対象として加えることに関する文化審議会の答申を発表したからだ。

料理人や杜氏といった食文化に関わる人々、また、華道家や書家らも、重要無形文化財各個認定保持者(いわゆる人間国宝)の認定対象となること、芸能や工芸技術の分野では、「芸術上特に価値の高いもの」といった指定基準や「技術や技法を高度に体現、体得している者」といった趣旨の認定基準が定められているが、「生活文化」でも同様の基準を設けたこと、などが報じられると、食の人間国宝は誰だ?と、性急な報道も飛び出した。

遡って2021年、重要無形文化財制度を補完するために、文化財保護法改正で創設された登録無形文化財の制度では「生活文化」分野も対象とされ、これまでに食文化分野では、伝統的酒造り、菓銘をもつ生菓子(煉切・こなし)、京料理、手揉み製茶、加賀料理の5件が登録されている。

また、文化庁は生活文化の一つである食文化の分野で、優れた功績を挙げた個人を「食の至宝」として顕彰する制度を創設。有識者会議によって、この春、制度が開始され、秋には初回の受賞者が発表される。これまた、そのことが報道されるや、食の至宝の中から人間国宝は生まれるのか、と注目を集めることになった。

「食の至宝」顕彰の制度設計に携わった有識者会議のメンバーの一人、〈レフェルヴェソンス〉シェフ、生江史伸さんと、フードコラムニストであり、一般社団法人全日本・食学会副理事長の門上武司さんに、日本の食文化の素晴らしさと特異性、食こそ国の宝、という話をしていただくことにした。

話してくれた人

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門上武司のイラスト
BRUTUS

門上武司(フードコラムニスト)

かどかみ・たけし/1952年大阪府生まれ。食の情報誌『あまから手帖』の編集顧問。関西を主軸に、様々なメディアで活躍中。フードジャーナリズム界の重鎮。著書多数。

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生江史伸のイラスト
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生江史伸(〈レフェルヴェソンス〉シェフ)

なまえ・しのぶ/1973年神奈川県生まれ。2010年、〈レフェルヴェソンス〉シェフに就任。21年、東京大学大学院にて農業・資源経済学を専攻。農学生命科学研究科修士課程を修了。

食の人間国宝認定と併せて、「食の至宝」顕彰が始まります

──食文化の分野に「食の至宝」という新たな顕彰制度が創設されたと聞いて、食の分野にも重要無形文化財各個認定保持者(いわゆる人間国宝)が誕生する日が、刻々と近づいているのを感じます。

門上武司

ですよね。期待が募ります

生江史伸

ただ、「食の至宝」はあくまで顕彰制度。人間国宝とは異なります。文化庁によると、人間国宝には後継者の育成のため、これまでの「芸能」と「工芸技術」の2つの分野では、国から年間200万円が支給されてきました。その枠は、116人。2026年度になって、新しく生活文化で認定される人数として10人分が追加されました。
BRUTUS

──つまり、食文化を含む生活文化で、26年度以降、最大10人の人間国宝が誕生するかもしれないということでしょうか。楽しみです。

門上

「食の至宝」は今年発表ですか。

生江

はい。今年の秋と聞いています。

門上

日本の食文化を考えたときに、そのありようは、世界から見ても特殊ですよね。フランス料理やイタリア料理、中国料理など、他国の料理にもかかわらず、料理人のレベルが非常に高い。フランスのボキューズ・ドール国際料理コンクールやナポリピッツァ職人世界選手権など、世界大会で本国の職人を超える成績を残しています。コーヒーやスイーツ、中国料理の世界でも同様です。

中には、MOF(フランス国家が授与する最優秀職人章)を獲得した日本人もいる。他国から入ってきたものをうまく取り入れ、技術を磨いて発展させてきた成果ですね。

生江

文化全般そうですよね。絵画や陶芸なども他国から入ってきたものをさらに高めて、自分たちの固有種として根づかせる。

門上

しかも、それが多岐にわたるところも素晴らしい。

生江

かつて、大阪・高麗橋〈吉兆〉のご主人だった湯木貞一さんは、日本料理にフォアグラやキャビアを使った。それは日本料理の大きな転換期の一つだったと思うのですが、その時代にフランス料理を食べる場所があったらからこそですよね。

門上

湯木さんは、辻調理師学校を開校した辻静雄さんにあちこち、それこそ海外へも連れていかれたことも大きいでしょうね。湯木さんに限らず、日本料理はそうやって革新を続けてきた。

生江

日本の食文化の大きな特徴の一つですよね。多様なレイヤーがあるからこそ、刺激し合って新しいものが生まれる。

門上

そんな多彩な食文化ですから、「食の至宝」の対象者は幅広いと聞いています。どんなふうに選考されるのでしょうか。難航しそうな気がします。

生江

まず、食文化に携わる「個人」に焦点を当てたものであるということ。門上さんがおっしゃるように、日本には多様な食文化がある。だから、対象者は幅広くなるでしょうね。日本料理はもちろん、日本に根づいた外国料理も含めた料理人、ギャルソンや仲居、ソムリエ、杜氏やバリスタ、パン職人などなど、これまでスポットの当たらなかった職業の人たちにも光を当てよう、認知してもらおうということで、初回から裾野を広げるようです。

僕は制度設計をしただけなので、選考は別のチームということになりますが、まず、推薦委員が広い視野で人選をし、それを選考委員がふるいにかける。そして、最終的な決定は文部科学大臣が行う、という流れになっています。

門上

「食の至宝」の中から、ゆくゆくは食の人間国宝が選ばれるかもしれないと思うと、どんな方が受賞されるのか興味津々です。

生江

受賞の対象となるためには3つの要素があって、そのすべてを満たすことが条件です。一番優先されるのは「芸術的意義」。食文化の各分野で一流の「わざ」の保持者であって、芸術的な表現ができる人。

門上

平仮名の「わざ」なんですね。技術ではなく、いろいろなものを包含した言葉ですね。

生江

2つ目が「文化的意義」。日本の食文化の価値向上に大きく貢献してきた人であるか。3つ目が「社会的意義」。それぞれの分野で受賞した人を見て、後に続きたくなるような、その仕事を志望したくなるような、ロールモデルであること。
BRUTUS

──しっかりした基準があるんですね。

生江

はい。今年の1回目のみは受賞者を多く輩出すると思われます。背景としては、近年の少子高齢化や担い手不足から、食の分野でもわざの継承が難しくなってきていることもあります。

門上

存在価値を一般の人に認めてもらうことで、その仕事をやってみようという人が増えてくる。また、すでにその仕事に就いてる人のモチベーションが上がる。自分たちの仕事に誇りが持てるようになる。そういう顕彰制度を通して、食に取り組むたくさんの人たちの価値を上げていかないと、後が続いていかないですからね。

生江

そうなんです。未来のための顕彰でもあるので。選びっ放しではなくて、選ばれた後のアフターケアも大事だと思っています。その後もウォッチして、「この人たちはこういう貢献をしてくれている」と広く知ってもらうことも大事。このあたり、メディア関係のお力をお借りしたいところです。
BRUTUS

──最近、日本の食文化は世界の注目するところとなっていますが。

生江

そうですね。訪日外国人にとって、日本文化の体験は非常に人気が高い。中でも食体験は群を抜いています。SNSで、情報は瞬時に拡散され、人気店には外国人の行列ができる。今や、日本の外食産業は30兆円を超える市場です。産業としても無視できないほどの規模になっています。

インバウンドによる収入も大きい。狭義で言えば、輸出ですよね。日本で作ったもので外貨を稼いでいますから。日本の中のことですが、食も輸出産業なんですよ。経済価値の創出でもある。経済を支えていくうえでも後進を育てていく必要があると思います。

門上

「食の至宝」の顕彰制度を通して、食は日本の誇るベき文化であると改めて気づいてもらえるといいですね。食は日本の宝だと思います。まさしく国の宝、国宝だと思います。

生江

はい、私もそう思います。

門上・生江

今日はありがとうございました。
BRUTUS
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