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俳優・吉瀬美智子さんインタビュー|“これから”を見据えた、余白と静寂のつくり方

  • 2026.5.7
撮影=セドリック・ディラドリアン

「母が読んでいて、大人の女性が読む雑誌だと思っていた『婦人画報』。気づけば私も“対象年齢”になっていました」とほほ笑む吉瀬さん。俳優として印象的な役をさまざまに演じると同時に、ふたりのお子さんのお母様でもあります。

多忙な日々を送る彼女が今回挑戦するのは、2026年4月から7月まで開催される「東京都美術館開館100周年記念 アンドリュー・ワイエス展」 の音声ガイド。自身も初めての経験と語るガイド録音を経て、いま彼女が感じている「時間の使い方」と「心の整え方」について伺いました。

アンドリュー・ワイエスの複雑さがおもしろい

―今回、音声ガイドを担当することを通して、ワイエス自身やその作品と向き合うことになった吉瀬さん。そこで感じたのは、知識を得ることで深まる鑑賞の楽しさでした

「私自身、美術館に行くことはあっても、たくさんの作品を見るだけで精いっぱいでて、なかなかしっかり時間をかけて鑑賞することはありませんでした。それが今回、音声ガイドを担当することになり、見るだけではわからないことがありますし、その作品の背景を知ることでさらに楽しくなるんだ、とあらためて感じました。特に、ワイエスの作品については、なぜこんな風に描くのか? なぜこれを描いているのか? を知ることでどんどんおもしろくなっていきました」

《オルソン家の終焉》1969年 テンペラ、パネル 46.5x49.5cm クリーブランド美術館 The Cleveland Museum of Art, Promised Gift of Nancy F. and Joseph P. Keithley ©2026 Wyeth Foundation for American Art / ARS, New York / JASPAR, Tokyo

―たしかに、アンドリュー・ワイエスの作品は、わかりやすい華やかさや美しさというよりは、どこか陰のある印象です。

「そうなんです。ワイエスの作品は、多くが少し切ない印象ですよね。色のトーンも明るい色はあまり使っていないし。『なぜこの画家はこういう絵を好んで描いたんだろう』という興味がわいてきました。生と死に向き合うような作品だったり、病弱な子ども時代を過ごしたからか、どこか切ない雰囲気が漂っていたり、でも一方で、愛人らしき人がいるような、いわゆる“肉食”な部分もあったり。知るほどにおもしろい人だなという感覚がわいてきました。その時その時の状況や環境で、描くものが変わっていくものだと思うのですが、その表れ方が興味深いのです。私たちは、恋をして気分が明るければ明るい色を身につけたり、逆に暗かったらダークカラーの服になったりしますよね。でもワイエスの表現はそんなわかりやすいものではなくて、とても複雑。それがおもしろいんです」

―特に気になっている作品はありますか?

「『薄氷』という作品です。氷の中にその枯葉が沈んでいる様子を描いたものなのですが、とても興味をもっています。また、ワイエスが描き続けたオルソン家の人たち。日常が切り取られた作品で、どの角度から描いたものなのか、作品を見て答え合わせするのも面白そうです」

《薄氷》1969年 テンペラ、パネル 110.2x121.9cm 株式会社三井住友銀行 ©2026 Wyeth Foundation for American Art / ARS, New York / JASPAR, Tokyo

50代、人生の境界に立ったいま。余白について考える

―今回の展覧会のテーマは「境界」とのこと。50代に入ったいま、ある意味人生の“境界”のようなタイミングなのではないかと思います。

「そうですね。この年齢まで様々な経験をしてきましたが、時間は無限ではないことを感じるようになりました。だから、これからは自分の時間も大切にしたいと思っています。食事に行く場合でも、好きな人、楽しい人とご一緒したいですね。少しでも本当に大切な人やものを意識したいと思っています」

撮影=セドリック・ディラドリアン

―とはいえ、お仕事も、ご家庭のことも、とお忙しい日々かと思います。どうやってご自身のための“余白”を意識していますか?

「やはりドラマの撮影中は空いている日が限られてきます。その貴重な日をどう使うか……。体はもちろん、心も休めないといけないですし、子どもたちとの時間も大切です。だから、あえて何もしない日をつくるようにしています」

-そんな日は、何をするのですか?という質問をするのもおかしいのですが、どんな風に過ごしますか?

「そういう日は家から出ません。家事はどうしても少ししてしまったりするわけですが、それでもお風呂にゆっくり入るとか、お香を焚くとか、またキャンドルを灯すとか。夜にお酒を一杯だけ飲みながら音楽を聞く、そういうことで十分です。でもなかなかそれが難しいのですが……」

―インスタグラムなどで拝見していると、お花を飾るなど、とても美しい暮らしを送っている印象です。

「お花は好きでよく飾ります。最近は、佐賀県で出合った和紙のアートを家に飾ったり、藍染に興味があったり。日本の美しいもの、よいものにどんどん惹かれるようになっていて、それを伝えなくては、そして何かお役に立てることがあればと思っているところです」

撮影=セドリック・ディラドリアン

身近な美しさに気づくことができるかは“心のバロメーター”

―身近な美しさに目を向けることは、吉瀬さんにとって「心のバロメーター」を確認する作業でもあるようです。

「忙しすぎると、ふと上を向くことさえ忘れがちになってしまいますよね。でも、お月様も太陽も、本当はいつもそこにある。ふとした瞬間に『あ、月がきれいだな。写真に撮ろうかな』と思えるときは、心に余裕がある証拠。あとで写真を見返したときも、『あ、このときは自分に余裕があったんだな』と気づくきっかけになります。そうやって自然に感じ取れる自分でいたいな、と思っています」

―美しいもの見ることは吉瀬さんの人生をどのように豊かにしているのでしょう?

「絵画は、自分の知らない世界へと連れて行ってくれるもの。凝り固まった感性に新しい風が入ることで、脳が刺激され、世界観が少しずつ変わっていく。それは、心に余白があるときにこそ吸収できる贅沢な時間だと思います」

―今回、ワイエスの作品と向き合う中で、吉瀬さんはある「発見」をしたと言います。

「実は最初、ワイエスの絵を見て『切ない』とか『悲しい』といったネガティブな言葉しか出てこない自分に、少し不安を感じていたんです。アンケートにそう答えることで『私、心が疲れているのかしら?』って(笑)。でも、AIに相談してみたら、『どんなふうに受け取ってもいいんです。間違いはないんです』という答えが返ってきて安心しました。 美術を見るときも私たちはついつい正解を求めてしまいがちです。でも全部を理解しようとしなくていい。わからなくても、悲しくても、自分が受け取ったものがすべて。そう思えたことで、もっと堂々と作品を楽しめるようになりました。皆さんもぜひ、ご自身のありのままの感覚で、ワイエスの世界を旅してみてほしいですね」

撮影=セドリック・ディラドリアン

きちせみちこ〇1975年生まれ。福岡県出身。モデルとして活動の後、2007年本格的に俳優としてデビュー。 以降ドラマ・CMを中心に活躍。2011年エランドール賞新人賞を受賞。 2014年『昼顔〜平日午後3時の恋人たち〜』(フジテレビ)が話題に。2026年4月期の日曜劇場『GIFT』(TBS)に出演中。プライベートでは二児の母として仕事との両立をはかる。

東京都美術館開館100周年記念 アンドリュー・ワイエス展

写真提供=アンドリュー・ワイエス展

東京都美術館の開館100周年を記念し、20世紀アメリカ具象絵画の巨匠アンドリュー・ワイエスの没後国内初となる回顧展が開催されています 。本展のテーマは「境界」 。ワイエスが愛した身近な風景や窓、扉といったモティーフを通じ、生と死、精神世界と外の世界をつなぐ彼の深い精神世界に迫ります 。日本初公開の作品10点以上を含む、国内外の主要作品が一堂に会する貴重な機会です 。孤独でありながら普遍的な静寂を湛えた、ワイエスの孤高のリアリズムをあらためて見つめ直します 。

会場:東京都美術館
会期:開催中~2026年7月5日(日)
開室時間:9時30分~17時30分
※金曜日は20時まで
※入室は閉室の30分前まで
休室日:月曜日、5月7日(木)
※5月4日(月・祝)、6月29日(月)は開室
観覧料:一般 2,300円/大学生・専門学校生 1,300円/65歳以上 1,600円

ベスト52,800円 シャツ73,700円 パンツ73,700円(すべてウィークエンド マックスマーラ/マックスマーラ ジャパン)

ピアス166,100円 リング〈右手薬指〉97,900円(2026年6月25日から115,500円に価格改定予定)〈右手小指〉198,000円 リング〈左手薬指〉59,400円(すべてヒロタカ/ヒロタカ 表参道ヒルズ)

マックスマーラ ジャパン tel.0120-030-535
ヒロタカ 表参道ヒルズ tel. 03-3478-1830

撮影=セドリック・ディラドリアン ヘア&メイク=山下景子 スタイリング=道端亜未 取材・文=本田リサ(婦人画報編集部)

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