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空気階段・鈴木もぐら「うまいもんを食った瞬間、脳が揺れる。それが大事」食を通して半生を語る初エッセイ『没頭飯』【インタビュー】

  • 2026.4.29

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お笑いコンビ・空気階段の鈴木もぐらさんが、初エッセイを刊行。食を通して、母親との思い出、学生時代の部活、芸人仲間との交流などについて語る『没頭飯』(ポプラ社)は、もぐらさんの半生が垣間見える一冊だ。Web連載に加えて、語り下ろし・書き下ろしエッセイ、2023年のダイエット成功後、欲望全開で食べた怒涛のハイカロリー食を紹介したXの「復讐」投稿も収録されている。もぐらさんに、本書の読みどころ、最近の食事情についてうかがった。

「私はうまいもんを食うために生まれてきたんだ!」──母から受け継がれたメシ魂

──『没頭飯』は、ポプラ社のWebサイト「WEB asta」での連載がベースになったエッセイ集です。この連載は、どのような経緯でスタートしたのでしょうか。

鈴木もぐらさん(以下、鈴木):2023年にダイエットをしていた頃、「これが終わったら絶対食うんだ」っていうメシをリストアップしてXに投稿してたんです。「その延長で、メシについて詳しく語りませんか?」っていう話をいただいて、連載が始まりました。毎回、編集さんがなんとなく決めてくれたテーマについて、俺が語るという感じでしたね。そこから全然話がそれていくこともありましたけど。

──『没頭飯』の冒頭では、何かにつけて「私はうまいもんを食うために生まれてきたんだ!」と叫んでいたもぐらさんのお母さんについて語られています。もぐらさんにも、そのスピリットが受け継がれているように感じました。

鈴木:「自分は、なんのために生まれてきたのか」って、何かしら考えることがあると思うんですよ。うちの親はね、「うまいもんを食うためだ」ってずっと目の前で言い続けてきたんで。だから、それは刷り込まれてるかもしれないですね。高いか安いかは置いといて、うまいもんを食うんだ、と。

──「うまいもん」の基準は? もぐらさんの中でなにか条件があれば教えてください。

鈴木:やっぱり、ひと口食ってすぐ「うまっ!!」って思うもんじゃないですか? うまいもん食うと、脳にグワーーッ!! ときますよね。あの瞬間ですよ。腹減ってて胃に何も入ってない状態からうまいもんを食った瞬間、脳が揺れる。それが大事な気がしますね。しかも、俺は結構揺れやすい体質なんですよ(笑)。

──最近、脳が揺れたものはありますか?

鈴木:大分で食ったざるそばは揺れましたねー。

──え、大分でざるそば?

鈴木:というのも今、自発的にダイエットをしてて。夜は食わないで、昼間はステーキか天ざるを食うことに決めてるんです。この間、大分に営業に行かせてもらいました。普通、大分に行ったら名物のとり天を食おう、九州はうどんがうまいんでうどん食おうってなるじゃないですか。でも、その日は天ざるの日だったんで「天ざるしか食えねえな」と思って。で、フラッと歩いてそば屋に入って食ったんですよ。そしたら、そのざるそばのつゆが甘いんです。「え?」と思って。九州って、刺身醤油も馬刺しの醤油も甘いじゃないですか。あれがそのまま、めんつゆになってるんですよ。びっくりしましたね。東京に戻ってすぐ九州出身の方に聞いたら、「はい、そうですけど?」って普通に返されて。いや、衝撃的でした。

俺、38年生きてて、九州エリアのめんつゆが全部この味だって知らなかったんですよ。ものすごくおいしかったし、いろんな場所でいろんなメシを食わなきゃダメだなって思い知らされました。大分でうまいとされているとり天とかうどんばっか食ってたら、ざるそばにはたどり着かなかった。何でも食いまくるのが一番いいのかもしれないですね。その土地で名物じゃなくても、そこに住んでる人たちが普段食ってるものを食うだけで発見がある。甘いざるそばは揺れました、脳が。

──今、自発的にダイエットをしているのはなぜですか?

鈴木:前回は、2、3年前にラジオの企画で急に「痩せろ」って言われたのがきっかけでした。何のためにやるのかわかんなかったんで、その後体重が戻ろうがどうでもよかったんです。

でも、俺、肩こりがひどくて。それで、フィリピンパブの女の子に相談したら、「いいところが高円寺にある」って紹介してくれて。そこは看板も出してないし、Googleで調べても出てこない。でも、めちゃめちゃうまい中国人のマッサージ師がいて、1時間3000円で全身やってくれるらしいんです。みんな月イチで通って来月の予約も入れて帰るから、新規だとなかなか入れなくて。それでも頑張って2週間前から予約取って、当日行ってみたわけです。そしたら50歳くらいの中国人のおっさんが出てきて、俺を見た瞬間「いや、太りすぎだろ!」って。

──え!

鈴木:俺が「いやー、肩こりがひどくて。知人の紹介で来ました」って言っても、「当たり前だろ! 凝るに決まってんだろ、こんなに太ってたら!」って。でも俺としては治してほしいんで「どうしたらいいですかね」って聞いたら、「どうしたらもなにも、こんなに太ってたらウチじゃできねぇよ! 日本にはね、あなたが肩凝ってるって言えば揉むヤツいっぱいいるけど、そいつら全員詐欺師だよ! 帰れ!」って俺、帰らされたんですよ。

それがすげぇ悔しくて。「なんで俺、予約までしてこんな思いしなきゃなんないんだよ」って。だからもう、あいつに対する復讐です。その時は121kgあったから、あいつに追い返されないくらいまで痩せて、絶対に肩揉ませてやる。「きれいになって見返してやる!」みたいなもんです。それが今回のダイエットのテーマです。

──マッサージ師を見返すためのダイエットなんですね(笑)。ダイエット中は、お酒も飲まないのでしょうか。

鈴木:今は飲んでないです。でも、先輩に誘われることもあるし、年末にダイエットを始めたから新年会もあって。そういう時は、ホッピーのソト(編集部注※ナカ=焼酎に対し、ホッピーそのもので、ごく微量なアルコールを含む)だけ飲んでます。うまいですよ。シンハーみたいなさっぱりしたビールが好きな人だったら、ホッピーのソトだけで十分楽しめると思いますね。

高円寺で、鬼越トマホークの坂井さん(良ちゃん)、そいつどいつの市川刺身と、この本にも出てくる居酒屋・和田屋で新年会をやった時もそうでしたね。俺がホッピーのソトを飲んでたら、坂井さんも「じゃあ、俺もそれで」、刺身も「じゃあ、それで」って、結局ソトだけでおじさん3人が5時間くらい喋ってましたからね。酒がなくても楽しめるんだなって思いました。

メシの前では、人は優しくなる

──この本に収録されたエッセイの中で、もぐらさんが特に気に入っているエピソードはありますか?

鈴木:どれも印象に残ってますけど、畠中(オズワルド・畠中悠さん)の顔は忘れられないですねぇ。

──股関節の手術後、畠中さんに誘われてジンギスカンを食べに行ったエピソードですね。

鈴木:あいつ、北海道出身じゃないですか。めちゃくちゃ北海道マウントを取ってくるんですよ。最初、俺はすき焼きを提案したんです。すき焼きって東京のメシって感じがするけど、そこから畠中が「ジンギスカンはどう?」って自分のフィールドに持っていった。今思えば、あの時点で北海道マウントは始まっていたんですよね。

──考えてみると「すき焼きが食べたい」という人に、ジンギスカンを勧めるのもなにかが違う気がします(笑)。

鈴木:そう、肉しか合ってない。畠中はその店に行ったことがあるからその余裕を見せつけるみたいに、いろいろ注文して。で、最後に「ソフトカツゲンのハスカップ割り」を注文するわけです。

──北海道限定の乳酸菌飲料のソフトカツゲンを、北海道特産のハスカップジュースで割った飲み物ですね。

鈴木:それをすげぇ得意げな顔して飲むんですよ。完全にやられたと思いました。「コイツ、『俺は北海道から来た男なんだ』と見せつけるために、今日この店を選んだんだ」って。そうなるとこっちも強がっちゃうんですけど、ああいう時は意地を張らずに頼まなきゃダメですね。絶対「あれ、飲んどけばよかった……」となりますから。

──畠中さんのソフトカツゲンのハスカップ割りではマウントを取られましたが、もぐらさんも食べ方、飲み方に独自の流儀がありますよね。エッセイでは、卵かけご飯や大盛り牛丼を食べる時のひと手間も語られています。

鈴木:文章になるとこだわってるように見えますけど、別に流儀ってほどのもんでもないですよ。皆さんにも絶対あると思うんです、ちょっとしたこだわりが。「これは自分流なのかもしれない」と思いながら読んでもらえたらうれしいです。

──岡野陽一さんのビールの流儀も素敵でした。瓶ビールから小さいグラスについで、親指と人差し指でグラスの上のほうを持って飲む。ひと手間をかけた、遊びがある食べ方、飲み方はもぐらさんとも共通しています。

鈴木:確かに、それはあるかもしれないですね。

鬼越の坂井さんも、焼肉屋でホッピーを飲む時、備え付けのレモン汁を入れるんですよ。牛タンとかに使うレモン汁をホッピーに入れて、2、3回まわす。そうするとホッピー、焼酎、レモンが混ざってめちゃくちゃうまくなるんです。こういう遊びもあるんですよね。調味料もメシにかけるだけじゃなくて、「これに使えるかな」って考えると楽しい。

カゲヤマの益田(康平)さんも、コンビニのメシをそのまま食わない。食わないというか、もっとうまくする方法を常にひらめく人で。例えば卵サンドがあったら、そこにファミチキ挟んで食うとかね。そうやってカスタムする楽しみ方は、どんな店でもどういう方法でもできると思う。そうすると、コンビニメシでも楽しくなるんですよね。

──名前が挙がった坂井さん、岡野さんのほかに、芸人仲間との交流も語られています。

鈴木:メシに行く機会が多いですからね。あとは、この本には出てこないんですけど、たかしさん(トレンディエンジェル)にも、よくメシに連れて行ってもらってます。たかしさんは、絶対にメシの誘いを断らないんですよ。腹いっぱいでも、「メシ、どうですか?」って言えば必ず連れて行ってくれる。まぁ、腹いっぱいって言ってる人を誘うのもどうかと思いますけど(笑)。

それで、俺が松屋で特盛牛めしに豚汁つけてる横で、たかしさんは小盛のご飯少なめを頼んでて。松屋で小盛でご飯少なめを頼む人、たかしさんしか見たことない(笑)。そこまでしても一緒についてきてくれる優しさ、それはやっぱり染みますよね。

──この本に出てくる皆さんも、とても優しい方ばかりですよね。

鈴木:そうですね。めちゃくちゃいい人ばっかりで。

それに、やっぱりメシの前では人は優しくなるんですよ。社会人になると、「コイツ、いけ好かねぇけど、一緒に仕事しなきゃならない」ってこともあると思うんです。そういう時もね、嫌な気持ちもわかりますけど、一回メシに行くと「あ、こういう面があったんだ」と気づくかもしれない。メシを一緒に食えば、メシの力で人と仲良くなれますからね。

食べ物、飲み物すべてがおいしそう。「バキ」シリーズは最高の食マンガ

──『没頭飯』にはWeb連載のほかに、語り下ろし、書き下ろしがそれぞれ収録されています。語り下ろしはもぐらさんの口調が伝わってきてとても面白いですし、書き下ろしではドライブ感のある文体が印象的でした。文章を書くことには、もともと興味があったのでしょうか。

鈴木:いやー、どうなんでしょう。ネタもそうですけど、書くって難しくて本当に筆が進まないんですよ。今回も、締め切りから1、2カ月遅れて原稿を書きました。「もう印刷が間に合わない」と追い詰められたところから走り出したので、ドライブ感が生まれたのかもしれないです(笑)。

──書き始めるまでに時間がかかるんですか?

鈴木:そうですね。「書けるかな」から「書ける!」になるまでが大変で。小学校の作文もそうだったんですけど。

──今後、一冊丸ごと書き下ろしエッセイに挑戦することはありそうですか?

鈴木:一冊となると、何十年かかるのか。書き下ろしの4編だけで、3カ月ぐらいはかかってるわけですから(笑)。

──本書が初エッセイ集になりますが、一冊にまとまった感想はいかがですか?

鈴木:いやー、不思議ですよね。これが、本屋の店頭に並んで売られるってことですもんね。皆さんが働いたお金でこの本を買っていただけるなんて、信じられない。

でも、せっかく出版されたからには課題図書を目指しますよ。今年の夏休みに少年少女がこれで読書感想文を書いてくれることを願っています。ホッピーセットは飲めなくても、刺身とかトンカツは未成年でも食えますからね。家族でメシ食いにいって、それを感想文に入れてもいいと思いますし。どうでしょうか、文科省の皆さん。私は、いつでも国と仕事する準備ができてます!

──ダ・ヴィンチWebは本の情報を扱うWebサイトです。最後に、もぐらさんを形作った本やマンガを教えてください。

鈴木:いろいろありますけど、食で言えば「バキ」シリーズ(板垣恵介/秋田書店)からは影響を受けてますね。「バキ」はメシ食うシーン、飲むシーン、タバコ吸うシーン、体にモノを入れるシーンがすごい。ステーキを「モニュ」って食べたり、Tボーンステーキを骨ごと食ったりして、食べ物、飲み物が全部うまそうなんですよ。ぜひ、食に注目して「バキ」を読んでみてほしいですね。

取材・文=野本由起 写真=島本絵梨佳

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