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9歳の日本舞踊家・尾上琴也さん、歌舞伎座に登場!

  • 2026.4.18
撮影=セドリック・ディラドリアン

歌舞伎座「四月大歌舞伎」昼の部『裏表先代萩(うらおもてせんだいはぎ)』で歌舞伎の本公演デビューを果たした尾上琴也さん。舞踊とお芝居のどちらが好き?将来の夢は? 新しい一歩を歩み始めた公演について、お話を伺いました。

2026年4月歌舞伎座『裏表先代萩』鶴千代(尾上琴也) Ⓒ松竹

父は尾上流家元・尾上菊之丞さん

歌舞伎座の3階席までしっかり通る澄んだ声と、美しく気品ある所作。『裏表先代萩』で若君・鶴千代役をつとめている尾上琴也さんに注目が集まっています。日本舞踊 尾上流の家に生まれ、お父様は尾上流四代家元の尾上菊之丞さん。2026年で10歳。新学期からは小学4年生として毎日2時間目までは学校で授業を受けてから楽屋入りしています。

撮影=セドリック・ディラドリアン

3歳からお父様の尾上菊之丞さんと伯母様の尾上紫(ゆかり)さんに師事し、6歳の時、舞踊公演「K2 THEATRE」の長唄『外記猿』で初舞台。以来、お稽古を重ね、数々の舞踊公演の舞台に立ってきました。

「パパは舞台の前とかはしっかり厳しいですが、普段のお稽古では優しいです。脚を開いたりするところは気をつけるように言われています」と琴也さん。

2026年1月「尾上会」にて名披露目の演目『玉兎』を踊る直前、楽屋にてお父様の菊之丞さんと。 写真提供=尾上流

そして2026年1月に新橋演舞場で開催された「尾上会」の清元『玉兎』で尾上琴也の名披露目を行いました。「琴也」の名前は、初代菊之丞が俳優時代に六代目菊五郎のもとで名乗っていた「琴次郎」から「琴」の字をいただいたのだそう。それまでは本名で活動していましたが、いよいよ舞踊家としても本格的に歩み出すことになるのでしょうか。

お祖父様の尾上墨雪さん(後列右)、お母様の羽鳥あぐりさん(左)、お父様の菊之丞さん(右)、伯母の尾上紫さん(後列左)、お姉様の尾上椿さん(琴也さんの右隣)と。 写真提供=尾上流事務所

そんな琴也さんが大好きなのが、歌舞伎。2023年には尾上右近さんの自主公演「研の會」で歌舞伎デビュー。『夏祭浪花鑑』団七倅市松を演じ、台詞のあるお芝居の難しさと面白さを学びました。

2023年8月「研の會」楽屋にて、『夏祭浪花鑑』父・団七九郎兵衛役の尾上右近さん(左)、母・お梶役の中村米吉さん(右)と。 写真提供=尾上流事務所

『裏表先代萩』で琴也さんが演じる鶴千代はどんな役?

四月の歌舞伎座昼の部『裏表先代萩』は、伊達藩のお家騒動を題材とした物語。三幕目、足利家御殿の場の幕が開くと、琴也さん演じる若君の鶴千代と乳母の政岡(八代目尾上菊五郎さん)、乳母の子の千松(中村秀乃介さん)が舞台に並びます。

若君が毒殺されることを恐れる政岡は御殿の一室で茶道具を使って自らご飯を炊き、若君・鶴千代と、乳兄弟の千松は、空腹を抱えながらそれを待っているのです。

2026年4月歌舞伎座『裏表先代萩』左から、千松(中村秀乃介)、政岡(八代目尾上菊五郎)、鶴千代(尾上琴也) Ⓒ松竹

「これ乳母」と台詞の第一声を放ったのは、琴也さん演じる鶴千代でした。

「実際にお舞台に出てみると歌舞伎座は思った以上に広かったし、3階まであるので緊張しました」

歌舞伎の子役の台詞は独特の声のトーンがあり、それを習得するのは難しかったそう。

「子役指導の先生と、(政岡役の)八代目菊五郎さんにお稽古していただきました。声のトーンとか、最後の子音と母音を分けるところとか、あと台詞の最後をぴったり切れないで滑らかに終わるように気をつけています。それから、“い”という言葉の時は口を開きすぎないようにというのも教えていただきました」

もうすぐご飯が食べられると知って「アレもうまま(飯)じゃ」「嬉しい嬉しい」と鶴千代と千松が声と手振りを揃えて喜ぶ場面も、見どころの一つ。子どもたちの無邪気さ、健気さが、後の悲劇を際立たせます。

2026年4月歌舞伎座『裏表先代萩』鶴千代(尾上琴也) Ⓒ松竹

千松を演じる中村秀乃介さんは2歳年下ですが、歌舞伎の舞台経験も多く、琴也さんにとって頼もしい共演者なのでは?

「秀乃介さんとは仲良しです。1カ月くらい前からお稽古を始めて、一人で5回ぐらいやってから、二人で合わせる練習をしました。息を合わせるところは難しかったです。僕たち二人ともまだ小さいから」

若君を慰めるために歌を歌う千松は、空腹の切なさに途中で泣き出してしまい、つられて政岡も涙する場面でも、若君・鶴千代は乳母を優しく気遣います。

「お客様には特に、自分が食べられても乳母や千松が食べられなくて死んでしまうのではダメ、という台詞のところを見てほしいです」

そんな中、敵方の栄御前が若君へのお見舞と称して菓子を持って登場。空腹もあり菓子に手を伸ばそうとする若君・鶴千代を止める乳母の政岡。そこに千松が走り寄り、替わりに菓子を口にし、苦しみだします。毒入りであることが露見しないよう、千松は無礼だと咎められ、敵方の手で刺し殺されてしまうのでした。

「長い間兄弟のようにずっと仲良く遊んできた千松が殺されるのは、お芝居の中だけれど本当に嫌です。悲しいです」

役の心で友を悼む気持ちを語ってくれました。

出演のきっかけ、八代目尾上菊五郎さんから見た琴也さん

今回の舞台で琴也さんが鶴千代を演じることになったのは、政岡を演じる八代目尾上菊五郎さんからの声かけだったそう。

「琴也さんは以前から、舞台が好き、歌舞伎が好きと伺っていて、私と倅(尾上菊之助さん)の襲名披露公演の舞台映像もずっと見ていますと言ってくださっていたので、『裏表先代萩』の上演にあたり、ぜひ、と、お声がけさせていただきました」(八代目菊五郎さん)

そもそも尾上流は1948(昭和23)年に六代目尾上菊五郎によって創立され、以来ずっと、菊五郎家と尾上流は深い縁で結ばれているのです。

「初日の前には琴也さんの描いた政岡の絵と、舞台に立てるのが嬉しい、というお手紙をいただきました。その気持ちが嬉しくて、私も、一緒に頑張りましょう、と返事の手紙を書きました」(八代目菊五郎さん)

「お稽古の成果を正確に舞台に出そうと頑張っていて、心から役になりきろうという姿勢にも、日々、成長を感じています。先代萩の鶴千代は幼いながらも政岡や千松が忠義を尽くしていることを理解している若君の役ですが、琴也さんのお芝居からは二人への想いが湧き出ているので、こちらも自然と若君に対する芝居になります」(八代目菊五郎さん)

今月は楽屋も八代目菊五郎さんと同じ部屋に入れていただいています。

「緊張するけど、八代目さんがお化粧してるところを隣で見られて嬉しいです」(琴也さん)

「六代目菊五郎から続く尾上流とのご縁を思って、楽屋には六代目の『鏡獅子』の額をかけています。六代目に見守られながら、琴也さんと一緒に舞台に向かっています」(八代目菊五郎さん)

琴也さんにとっては舞台で、楽屋で、たくさんのことを吸収する日々になっていることでしょう。

歌舞伎に夢中! 舞台が大好き!

歌舞伎が大好きな琴也さんですが、特に昨年秋からは“マイブーム”が続いているのだそう。

「去年の11月の夜の部に行った時に、歌舞伎って面白いなと思って、それからは絶対毎月観に行こうと決めています。観ていくうちに、いろんな役者さんがわかるようになって、どんどん好きになってきました」

特に好きな演目、面白かった演目は?

「八代目菊五郎さんと菊之助さんの襲名披露公演の『道成寺』。あと、新作歌舞伎にも好きなものがいっぱいあります」

撮影=セドリック・ディラドリアン

お父様の尾上菊之丞さんは、歌舞伎舞踊の振付はもとより、新作歌舞伎『刀剣乱舞』をはじめ様々なジャンルの舞台で演出も手がけています。

「僕もいつか、新作舞踊や、『刀剣乱舞』や、野田秀樹さんの『野田版研辰の討たれ』や、三谷幸喜さんの『歌舞伎絶対続魂(ショウ・マスト・ゴー・オン) 幕を閉めるな』みたいなお芝居をつくってみたいです!」

2025年9月 「逸青会」 新作『おじぞうさん』 写真提供=尾上流事務所
2024年8月 「逸青会」 長唄『橋弁慶』牛若丸 写真提供=尾上流事務所

ご両親から見た琴也さん

お父様の尾上菊之丞さん、お母様の羽鳥あぐりさんにもお話を伺いました。

琴也さんはどんなお子さんですか?

「歌舞伎のお芝居も踊りも演劇も、とにかく舞台が好きな子です。色々なものに興味を持っていて、僕の子どもの頃とは違うなと思って見ています」(菊之丞さん)

「普段はお喋りしていると大人と喋ってるような気持ちになる子です。周りのことをしっかり見ていて優しい子ですね」(羽鳥あぐりさん)

今回の歌舞伎座出演を通して何を学んでほしいですか?

「ゆくゆく尾上流を継承するための良い経験になるというお声も耳にしますが、将来のことは本人がやってみたいと思うか次第です。ただ、色々なご縁で出演の機会をいただき、歌舞伎の本公演に出演する1ヶ月は貴重な時間。舞台に立つことや芝居をすることはもちろん、歌舞伎座の中にいて、ご挨拶に始まり役者さんたちの支度から本番までの舞台裏を見せていただいたり、大勢の方々が集まって芝居を創り上げる空気を感じることは、よそではできない経験です。これからどういう道に進もうとも、必ず糧になると思います」(菊之丞さん)

「ちょうど歌舞伎への興味が増して『かぶき手帖』(編集部注:歌舞伎俳優がずらりと掲載された歌舞伎データブック)を毎日持ち歩いているくらい大好きになってきたタイミングで今回の話をいただきましたので、本人は奇跡が起きた! と喜んでおりました。最高潮に吸収できる時にお声かけいただきましたので、色々なことを学んでほしいですね」(羽鳥あぐりさん)

左から尾上菊之丞さん、尾上琴也さん、羽鳥あぐりさん 写真提供=尾上流事務所

1カ月の公演を終えたご褒美は……?

千穐楽を迎えたら、ご褒美は何か決まっていますか?

「舞台に立たせていただいていること自体が最大のご褒美ですのでね……でしょ?」(菊之丞さん)

「うん」(琴也さん)

「でも、それとは別に何かご褒美を考えます」(菊之丞さん)

「ディズニーランドです! ガイドブックを見てショーやアトラクションの裏側とかを調べるのが好きなんです。夏休みに3回行くって決めています」(琴也さん)

テーマパークでも舞台裏が気になる琴也さん。いつか創作する新作舞踊や新作歌舞伎のヒントが見つかるかもしれません。

大好きな舞台に、毎日ワクワクしながら向き合っている尾上琴也さん。今月のお芝居に、そして未来に、どうぞご注目ください。

撮影=セドリック・ディラドリアン

歌舞伎座 四月大歌舞伎

Ⓒ松竹

2026年4月27日(月)まで

昼の部11時〜、夜の部16時30分〜
※10日(金)、20日(月)は休演

【昼の部】
『廓三番叟』、通し狂言『裏表先代萩』
【夜の部】
『本朝廿四孝 十種香』、『連獅子』、『浮かれ心中』

出演/中村梅玉、中村魁春、中村萬壽、中村福助、中村芝翫、坂東彌十郎、
八代目尾上菊五郎、中村勘九郎、中村七之助、中村時蔵、尾上右近ほか

料金/5,000円〜20,000円
問い合わせ/チケットホン松竹 tel.0570-000-489(10時〜17時)
詳細はこちら

撮影=セドリック・ディラドリアン 取材・文=清水井朋子 編集=本田リサ(婦人画報編集部)


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