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春を味わう“はんなり和菓子”。五感で楽しむ甘美なアート

  • 2026.3.17
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美しさと上品な味わい、そして季節感…。甘美なアートともいえる和菓子が、一年でいちばん華やぐ季節はもうすぐ! 歌人・小島なおさんの一首をはじまりに春を迎える喜びとともに味わいたい、そして贈りたい品々をご紹介します。

降りやまぬ花びらは菓子てのひらを器のように掲げて待った ━━ 小島なお

日本最古の勅撰和歌集である『古今和歌集』は、その大部分が四季の歌と恋の歌で占められる。四季の部立は「春歌」「夏歌」「秋歌」「冬歌」と順に配列されている。

この配列方法は『万葉集』の頃には見られなかったもので、人々のなかに四季の移ろいを儚み、慈しむ心が浸透し、表面化していったのが平安時代前期だったのだろう。「景+心」が五七五七七からなる三十一音の短歌の最も基本的な構造だと言われている。四季の巡りが私たちに見せてくれる世界こそが「景」である。

今のように頑丈な建物や便利な暖房器具がなかった当時、冬は命が危機にさられる厳しい季節だった。長い冬が過ぎて、やっと訪れる春。それは人間のみならず万物にとって待ち望んだ季節であったはず。 芽吹きや開花、日差しの温み。いにしえの人々の心を解かし、全身で言祝ぐ新しい季節の到来。

和菓子の形、色彩、香り、名前、それらすべてに古来受け継いできた私たちの生命の歓びが込められているように感じる。 人生でもう何度目の春だろう。けれど、何度でも降る花びらをてのひらに受け止めたいと思う。なかぞらへ両手で作った小さな器を掲げあげる。 花びらも、和菓子も、巡りくる春を祝い、自らがここに在ることを祝うためのものなのだから。

小島なお
PROFILE 1986年、東京都生まれ。歌人である母、小島ゆかりの影響で高校在学中に短歌の投稿を始め、2004年に18歳で角川短歌賞を受賞。’25年12月、第4歌集『卵振る』(左右社)を刊行。

TERUAKI KAWAKAMI

【上生菓子】春の自然美を写した小さな芸術品

やわらかな光に包まれ、花がほころび、風が薫る春。職人の繊細な手仕事によって生まれる上生菓子は、移ろう季節の一瞬を写し取った小さな芸術品です。和歌や歳時に思いを重ね、色や形、味わいに託された春の自然美を心静かに味わって。


京菓子司 末富

雅な春を慈しむ、有職菓子職人が作る意匠菓子
明治26年創業の京都の老舗和菓子店。茶道文化に寄り添う菓子作りで四季の移ろいを表現します。菅原公の和歌を銘に、白小倉あんを羽二重もちで包んだ梅の花「東風(こち)」1個¥540〈2月〉。平安時代から伝わる「戴餠(いただきもち)」に由来し、桃の節句に欠かせない「ひちぎり」1個¥627〈3月〉。野に咲く素朴な花を思わせ、よもぎの香りが広がる「草の花」1個¥519〈3月〉。薯蕷で作るふんわりとした桜で、こしあんを挟んだ「さくら」、都の華やかな春景色を思う「都の春」各1個¥573〈4月〉。伝統を受け継ぎ、季節や歳時を大切にした春らんまんの上生菓子です。

DATA
京都府京都市下京区松原通室町東入
tel.075-351-0808
営業時間:9時~17時
定休日:日曜、祝日

TERUAKI KAWAKAMI

とらや

早春から桜咲く季の巡りを映す、5世紀の歴史を伝える上生菓子
御所御用を勤めてきた歴史を礎に、素材選びから製法、意匠に至るまで和菓子の本質を追求し続ける老舗。季節の移ろいを映す上生菓子は凜とした気品を備え、日本の美意識を今に伝えます。江戸椿「太神楽」の別称を冠し、さえた紅と白が溶け合う花弁をきんとん製で表現した「清緋(せいひ)」〈2月1日~15日〉は今年の新作。桃の節句にちなみ、はまぐりの姿を薯蕷饅頭に写した「蛤形」〈2月16日~3月3日〉、羊羹製で白あんを包み、手折った桜を思わせる繊細な意匠に春の喜びとはかなさを託した「手折桜」〈3月16日~31日〉と、およそ2週間ごとに新たな春に出合える喜びも楽しんで。各1個¥540[清緋]

DATA
東京都港区赤坂4-9-22
tel.03-3408-2331(赤坂店)
営業時間:9時~18時(土・日曜、祝日9時半~18時)
定休日:毎月6日(12月を除く)

TERUAKI KAWAKAMI

【琥珀糖】繊細な煌めきを閉じ込めて

すりガラスのようにやわらかに光を通す琥珀糖。季節の色やモチーフを添えた姿は小さなアートのようで、眺めているだけでも心が和みます。寒天と砂糖で作られ、外はカリッと中はゼリーのようにやわらか。花や果実の香りが結晶の中からふんわり広がる、繊細な甘みです。

(右)Yuki Fujiwara

花々から届いた春の便りは、香り豊かな可憐な琥珀糖
四季の物語や美しい言葉を和菓子で表現する、和菓子デザイナー藤原夕貴さん。「Letter from Flowers / 花便り」は、2種類の琥珀糖で、花々の息吹や春のほころぶような光を表現しています。金箔が煌めく切手モチーフと、愛らしい押し花の白い琥珀糖は、エルダーフラワーにフレッシュなレモンの香りが寄り添う、可憐なお花の風味。淡いピンクはローズの上品な香りにジンジャーのスパイシーさを重ねた深い味わいがはじけます。まるで花々から春の便りがそっと届いたような琥珀糖です。16個入り ¥3,510〈2月~4月頃〉

DATA
購入はオンラインストアより。


(左)御菓子丸

スパイスの余韻が後を引く、自然美×モダンが織りなす赤い結晶
京都に菓子工房を構える「御菓子丸」を手掛ける杉山早陽子さんは、情景や記憶を和菓子に映し出し、素材の香りや季節の美しさを生かした創作に取り組む気鋭の菓子職人。「紅い鉱物の実」は、ひとつとして同じ形のない小さな枝に、真っ赤な実が熟したような独創的でモダンなデザインが印象的。赤すぐりをベースに、レモン果皮、カルダモン、クローブを加えたスパイシーな味わいが広がります。地球が生み出した鉱物のように赤い光を宿す色彩は、自然美を閉じ込めたアートピースのような一品です。9個入り¥2,600

DATA
購入はオンラインストアより。

TERUAKI KAWAKAMI

【浮島】色合いも食感もふんわり♡

蒸し上がるとふんわり膨らむことから、湖上に小島が浮かぶ姿になぞらえ「浮島」と名付けられた和菓子。あんをたっぷり練り込んだ生地は油分なしでもしっとりと焼き上がり、卵のまろやかな風味が広がります。軽やかな口どけは、日本茶はもちろん紅茶やコーヒーとも好相性


(右)松華堂

老舗で愛される春迎えの棹菓子は、ひと口ごとに異なる味わいを楽しんで
愛知県半田市で明治時代から愛される老舗。創業以来、素材の風味や季節の趣を大切にした菓子作りを続けています。季節の品をはじめ目にも楽しい棹菓子は名物のひとつ。「梅の春」はピンクと濃淡の緑のコントラストが春の訪れを告げるかのような華やかさ。きめ細かい浮島は卵の風味が感じられ、大納言の粒感がほどよい食感と甘みのアクセントに。滑らかで艶やかな自家製のこしあんが美しく層をなし、ひと口ごとに味の変化とコクが広がります。1本[21×5.5×4cm]¥1,700〈1月上旬~3月上旬〉

DATA
愛知県半田市御幸町103
tel.0569-21-0046
営業時間:8時半~17時半
定休日:水曜、第3火曜



(左)嶋ゞ

小さな庭に春の草花が芽吹き、朝露が輝く…気鋭の和菓子作家が切り取る春の刹那
葉山を拠点に活動する和菓子作家・小島直子さんが手がけるブランド。シグネチャーの「箱庭」は、浮島の上にあんで静かな情景を映した一品。土の気配を感じさせるしっとりとした浮島は、ほうじ茶の香りがふわり。上には花々や若葉、こけを思わせる色とりどりのあんが広がり、錦玉製の滴が光を受けてきらりと瞬きます。小さな庭をそっとのぞき込むように眺め、味わい、心を遊ばせる――。情緒豊かな和菓子とともに、そんな上質な時間を過ごしてみてはいかが? 1個[13.5×13.5×6cm]¥5,000 ※要予約。[季節の棹菓子 梅の春]

DATA
お問い合わせは公式サイトより。



Photos:TERUAKI KAWAKAMI
Text:MINAKO SHIMOI
※文中の〈 〉は販売時期です。
25ans(ヴァンサンカン)3月号掲載(2026年1月28日発売)

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