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隕石が地上に落下して起きる災害とは?地球防衛の専門家に聞きました!

  • 2025.7.3

天体衝突から地球を守る「プラネタリーディフェンス」(地球防衛)

2025年7月に大災害が起きるという言説の中には、「隕石が衝突して大津波が起きる」というものもありました。では、隕石はどの程度、地球に落下するのか、どのような対策があるのか、宇宙航空研究開発機構(JAXA)プラネタリーディフェンスチーム長の吉川真さんに聞きました。

隕石の大きさで決まる災害

太陽系は、地球や火星、木星など大きな惑星が太陽の周囲を回っていますが、このほかに岩石などでできた小惑星が無数にあります。小さいものであれば、地球に衝突しても大気圏に突入する時に溶けてしまいます。その時に発する光が流れ星です。一部が溶け残って小さな隕石として落ちてくることもあります。
衝突する小惑星の直径が20m弱くらいになると、大気圏に突入する時に衝撃波が起き、窓ガラスが割れるなどの被害が起きます。2013年2月には推定で直径17mの小惑星が地球に衝突し、ロシア中部のチェリャビンスク州では南北180km、東西80kmにもわたる広範囲で、窓ガラスが割れる、ドアが吹き飛ぶなどの被害が起き、約1500人が負傷しました。

直径50mほどの小惑星は、巨大なクレーターをつくり、一つの都市を壊滅させるほどの威力があります。アメリカ・アリゾナ州にあるバリンジャー・クレーターは、約5万年前に直径30~50mの鉄を多く含む小惑星が衝突してできたとされ、直径1km、深さ200mにもなるクレーターが残っています。1908年にロシア・シベリアで起きたツングースカ大爆発は、直径50~60mの小惑星の衝突が原因とされており、東京都全体の面積に匹敵する約2000平方kmにわたって樹木がなぎ倒されました。

直径が500mを超えると、衝突のエネルギーは地球上の全核兵器を合計したエネルギーに匹敵します。さらに直径が1kmを超えると生命の存続が危機にさらされる威力になります。6550万年前にメキシコ・ユカタン半島に落下した直径10kmの小惑星は、地表に巨大なクレーターをつくりました。衝突時に巻き上げた大量の土砂などが大気中を漂い、日光をさえぎったため地球全体の気温が低下し、恐竜などが絶滅したと言われています。

隕石の衝突で災害が起きる確率

では、こうした災害はどの程度起こり得るのでしょうか? 吉川さんによると、小惑星が地球に衝突する確率は、太陽系に存在する小惑星の分布予測からある程度見積もることができ、小惑星が大きければ大きいほど確率は小さくなります。例えば、チェリャビンスクレベル(直径20m弱)の小惑星が衝突するのは数十年に1度、ツングースカレベル(直径50~60m)の小惑星が衝突するのは数百年~1000年に1度と推定できるそうです。

各国の宇宙機関が常時監視

しかも、地球に接近する小惑星は、各国の宇宙機関が国際的に連携して常時監視しています。「恐竜を滅ぼしたような直径10kmの小惑星はほぼ発見されていて、近い将来衝突する可能性はない」と吉川さん。小さくなればなるほど、望遠鏡でキャッチするのが難しくなりますが、大きな望遠鏡による観測も始まりましたし、今後、宇宙からの観測が始まれば地球に接近する小さな小惑星がより多く発見されることになるでしょう。

衝撃波をもたらす隕石の衝突は予測できない?

災害の観点から言えば、厄介なのが直径20m弱の場合です。2013年、ロシア・チェリャビンスク州に直径17mの小惑星が衝突した時は予測ができず、突然、衝撃波が発生しました。その後、小惑星の観測網はさらに充実しましたが、それでもこの程度の大きさだと、地球に衝突するのがわかるのがせいぜい数日前。しかも、事前にわかるのは太陽の反対側の暗い方向から接近する時だけです。小惑星の観測は高精度の天体望遠鏡を使っているので、太陽のある、昼間の方向から接近すると空の明るさで観測することができません。

衝撃波から身を守る方法

隕石の衝撃波から身を守る方法が確立しているわけではありませんが、窓ガラスやドアの近くに寄らず、屋内にいる時は外が見えない場所に移動することが大切です。太陽の方向から接近した場合は難しいですが、暗い方から接近して衝突が事前に把握出来る場合は、日本の「〇〇地方」といった範囲まで絞り込むことができるそうなので、将来、災害対策のなかに隕石の落下予測やその対策が組み込まれるかもしれません。

「プラネタリーディフェンス」とは

さて、こうした小惑星の衝突を監視し、災害を防ごうというのが「プラネタリーディフェンス」(地球防衛)という活動です。1990年代初めに有志の天文学者の間で始まり、当初はスペースガードと呼ばれていました。その後、国連で議論されたり、米航空宇宙局(NASA)や欧州宇宙機関(ESA)など各国の宇宙機関が連携したりするなどして、国際的な協力態勢が充実してきたことで、小惑星の発見が急増。2025年4月現在、地球に接近する小惑星は38,129個が見つかっています。

■地球に接近する小惑星の発見数の推移

軌道の推定が重要

ある程度の大きさがあり、衝突すればより大きな災害をもたらす危険のある小惑星は、遠くからでも観測できるので、早く見つけて軌道を正確に推定することが大切です。
下の図は2024年に発見された直径約60mと推定される小惑星の軌道です。地球の軌道は青、小惑星の軌道は白で表しています。

この小惑星は、年の暮れも押し迫った2024年12月27日に発見されました。当初の観測で2032年に地球に衝突する可能性があるとして緊張が高まりましたが、各国の宇宙機関が集中的に観測を続けた結果、衝突の可能性は低いとわかりました。図のように、小惑星は偏った楕円軌道を描くことも多く、観測データを集めることが正確な軌道計算の土台となります。

衝突を回避するには

軌道計算で地球に衝突する可能性が高いとわかった時には、どうすれば良いのでしょうか? プラネタリーディフェンスのもう一つの大きな役割が、天体の地球衝突を回避する方法の研究です。NASAは2022年9月、無人探査機DART(ダート)を直径約160mの小惑星に衝突させ、その軌道を変える実験に成功しました。他にもいろいろな方法が考えられ、小惑星の大きさによって使い分けられていく可能性がありますが、ダートの実験は、現実的な回避方法として期待を集めています。

日本の活動

日本では、海外の宇宙機関と協力して、東京大やJAXAなどの観測施設で小惑星の常時観測を続けているほか、JAXAの小惑星探査機「はやぶさ」「はやぶさ2」で小惑星の研究を続けていました。2024年からはJAXA内に吉川さんをチーム長とするプラネタリーディフェンスチームを作り、体制を強化しています。2026年には、宇宙空間の飛行を続ける小惑星探査機「はやぶさ2」を使って、小惑星に衝突ぎりぎりまで接近し、軌道運用技術の実証実験を行う予定です。吉川さんは「繊細に探査機を動かすのは日本の得意とするところ。高速で動かす難しいミッションですが、正確な軌道で近づく技術を実証することで、いざという時に地球を守る技術を培うことにつなげたい」と話しています。

〈防災ニッポン編集部〉

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