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建築とアートで巡る、「前橋国際芸術祭 2026」へ!

  • 2026.10.5
photo by tatsuki nakata

前橋の街全体が、芸術祭の舞台に

豊かな歴史を持ちながら、1980年代後半から中心市街地のシャッター街化が進んだ前橋市。街の未来を憂えた人々は、2016年にまちづくりビジョン「めぶく。」を掲げ、官民共創の活動をスタートさせた。2020年には老舗旅館が、藤本壮介の設計・デザインによる「白井屋ホテル」として再生。2023年には平田晃久設計の複合施設「まえばしガレリア」も竣工し、街に新たな場が生まれている。

「白井屋ホテル」のオープン後から構想されていた「前橋国際芸術祭」は、街の魅力をアートの力で国内外に伝える、民間主導のイベントだ。テーマは、まちづくりビジョンと同じ「めぶく。」。美術館やホテル、ギャラリーに加え、空きビルや商店街、公共空間も展示の場となる。主な会場は中心市街地の約500m四方に集まり、歩いて巡ることができる。



photo by tatsuki nakata

メイン会場「アーツ前橋」で出合う作品

山田紗子《outline bar》

今回のメイン会場は、前橋駅から車で5分、徒歩だと15分程度の場所にある市営美術館「アーツ前橋」。1階には「建築の前橋:夢見る都市を歩く」と題した、前橋という都市の歴史と、国内外の建築家たちが次々と新たな建築を生み出してきた前橋の現在、そしてこれからのヴィジョンまでを模型や地図で見せる展示が。そして階段と吹き抜け空間を使った日系カナダ人のアーティスト、アレクサ・クミコ・ハタナカの作品《儚い》から始まるB1階には、約20組による多彩な作品が展示されている。

建築家の山田紗子はアーケード商店街のオリオン通りに2028年竣工予定の複合ビル「前橋さくらや跡地プロジェクト」で設計を担当している。本作は2023年に制作されたインスタレーションの再制作で、架空のバーに集い交流する人々の輪郭をスチールパイプでトレースしたもの。ダンサーで振付家の小暮香帆が「ミナ ペルホネン」の衣装をまとって踊る、本作のガイドともなるダンスパフォーマンス映像もあり、人の身体が介入することにより、建築が意味を持って立ち上がっていくさまを感じ取ることができる。

photo by tatsuki nakata

山縣良和《Where the story ends – つづく よ つづく– 》

2年前に「アーツ前橋」で個展『ここに いても いい』を開催した「リトゥンアフターワーズ」のデザイナー、山縣良和。今回行っているのは、その続編的なインスタレーション展示。山縣の3歳の息子がトイレに並ぶ行列遊びをしていたことに着想を得て制作されたもので、可愛らしいおもちゃからスタートし、部屋をまたぎ、時に突き抜け、階段を登りながら、剥製や石膏像などが「つづく」、行列の持つ無邪気な楽しさと歴史的・社会的暴力性の両方が伝わってくる。ちなみに、並べられたおもちゃは1923年(大正12年)創業の前橋の玩具店、「黒田人形店」から借りたものだそう。

photo by tatsuki nakata

ドットアーキテクツ《アーキジム》

地下1階の展示空間の中央では、ドットアーキテクツによるインスタレーションが存在感を発揮している。これは「アーツ前橋」でこの夏開催された『ぬけみち展 かわす・つくる・ともにいる – 生きるための回路』の展示と、「つくる技術とマインドを鍛えるワークショップ《アーキジム》」での成果物などを再構成したもの。こけしや木製スプーン、縄やスツールなどはワークショップで作られたものだ。広場や公園のように楽しく、オープンな雰囲気が漂うこの場所では、会期中多彩なプログラムが繰り広げられるので要チェック。会期中、人が集い、使うことで、この仮設空間には新たな意味が生まれてくるに違いない。

photo by tatsuki nakata

作品と建築が響き合う、前橋の展示空間

ハウゼビル × 蜷川実花 with EiM《空だけは、こっちを見てこなかった》

1993年に竣工し、当時はキャバレーやスナックが入居して連夜賑わいを見せていた「ハウゼビル」。近年は廃ビル状態が続いていたこのビルの3階で、2023年にサイトスペシフィックなインスタレーションを発表した蜷川実花 with EiMが、再び同ビル4階に戻ってきた。今回展示されている《空だけは、こっちを見てこなかった》は、架空のショーパブ「SCARLET MIRRORS」を舞台に、受付の男性と4人の女性の物語を音声と空間で描き出す作品。プロットはEiMのメンバーでもある宮田裕章が手掛けている。潰れたキャバレーに残された家具や設備を使いながら細部にまでこだわり抜いて構成された、禍々しく生々しい空間と、夜の前橋に生きる5人のドラマにしばし没入して。

photo by tatsuki nakata

白井屋ホテル × アートイルミネーション2026 ミロコマチコ at SHIROIYA《空気に根をおろす》

「白井屋ホテル」では毎年11月下旬から翌年1月にかけて、アーティストがグリーンタワー(緑の丘)を光で彩る「アートイルミネーション」を開催している。今年招聘されたのは画家・絵本作家のミロコマチコだ。芸術祭のテーマ「めぶく。」にちなみ、彼女が住む奄美大島から前橋に飛んできた「空想の種」がグリーンタワーに根をおろし、次々と芽吹いていくというテーマの作品は、カラフルで生命力に満ちたもの。アクリル板に描かれた気根を持つたくさんの植物たちは、夜になるとライトアップされてさらに存在感を増す。小さな小屋の中にはドローイングやアイデアスケッチもあるのでお見逃しなく。

Shiyo Yamashita

寺町藝術センター × クワクボリョウタ + 前橋工科大学阿部研究室《風穴を編む》

昭和35年から昭和50年代にかけてシルバー高等編物学院の校舎として使われていた建物をそのまま活かした「寺町藝術センター」の2階では、メディアアーティストのクワクボリョウタが前橋工科大学阿部研究室とタッグを組んだインスタレーション展示を行なっている。クワクボは前橋市街地の戦後復興の中で多くの女性たちを受け入れてきた建物に、機械編みのセーターやマフラーなどを鼓状に張ったトンネルを設置し、新たな風の通り道を作った。そのまま3階に上がれば、木製の学校机や編み機やミシンが並ぶ、薄暗い教室が。昭和の前橋にタイムスリップしたかのような気分に浸りながら、高度成長期の前橋に生きた女性たち、そしてこのまちの未来に思いを馳せてみたい。

photo by tatsuki nakata

まえばしガレリア × マルタン・マルジェラ《Bus Stop》

今回、前橋市内3会場(と高崎市に1会場)に作品を展示しているのはマルタン・マルジェラ。展示は今年4月から5月にかけて、東京の「九段ハウス」で行われた『MARTIN MARGIELA AT KUDAN HOUSE』を再構成しつつ、日本初公開となる、フェイクファーで覆われた大型彫刻《PODIUM》の展示(アーツ前橋)などもあり、かなりのボリューム感がある。「まえばしガレリア」のギャラリー2には《Bus Stop》や《Mould(S)》などの大型彫刻が。また「Shop rin art association」でも地下1階、地上2階の計3フロアを使い、やはり東京での展示を思い起こさせる、多彩な作品が展示されているので必見だ。

<写真>(左 )まえばしガレリア(右)Shop rin art association

Shiyo Yamashita

旧近藤時計店 × 最果タヒ+佐々木俊《詩の点灯》

2024年に第32回萩原朔太郎賞を受賞し、翌年記念展を「萩原朔太郎記念・水と緑と詩のまち 前橋文学館」にて行った最果タヒは、長らく協働しているグラフィックデザイナー・佐々木俊と再コラボ。オリオン通り商店街の「旧近藤時計店」の縦長の空間を使い、アーケードに提げられている内照式看板のうち老朽化した18基を移設。“オリオン”にちなんだ詩を明滅させるインスタレーション作品を制作した。これまでも最果が行ってきた、鑑賞者がいることで完成する展示。古いビルの一室に身を置き、浮かんでは消える言葉の断片たちを眺めていると、なんとも感傷的な気分にさせられる。できれば賑やかな時間を避けて、じっくり対峙したい。ちなみに、前出の「前橋文学館」では現在、館長でもある萩原朔美が就任以来の10年間に前橋で撮影した写真を中心に据えた展示『音楽する写真—萩原朔美の前橋10年』を開催中。こちらも必見だ。

Shiyo Yamashita

旧近藤時計店 × 関口光太郎《前橋は女の顔をしている》

最果+佐々木の隣では、前橋出身の新聞紙×ガムテープアーティスト、関口光太郎の展示が行われている。ウィンドウには第二次世界大戦の前橋空襲のきっかけとなった旧日本海軍の地上爆撃機「銀河」を起点としながら、養蚕に携わっていた自身の祖母や、オリオン通りにあった映画館、オリオン座で見た『魔女の宅急便』などを詠み込んだ詩が。そしてかつての時計店の店内に足を踏み入れれば、空襲・怪獣・魔女・養蚕などのイメージが結実した新聞紙とガムテープの巨大彫刻が空間を埋め尽くしており、圧倒される。

photo by tatsuki nakata

商店街や広場にも広がるアート

「旧近藤時計店」のあるオリオン通りは、かつては映画館やレコード店、衣料品店などが並ぶ、活気溢れる商店街だった場所。現在はシャッターの下りた店が多いが、クラフトジン専門の蒸留所が出店するなど、新しい動きも出てきている。そんな場所に、会期中は渋谷慶一郎によるサウンドインスタレーション《Abstract Music》が流れている。といっても、同じ音楽が流れるわけではなく、プログラムによって作家の膨大なサウンドデータがリアルタイムに組み合わされ、空間内を絶えず移動し続けるため、通るたびに異なる音を体験できるというもの。既存の街並みや建物などに手を加えず、音のみでものの見え方を変えてみせる試みだ。少し殺風景な昭和の風景に時空の歪みをもたらすような効果を、ぜひ立ち止まって体感して。

photo by tatsuki nakata

東和銀行本店「憩いの広場」/川俣正《Tree hut Maebashi workshop No1 2026》《Tree hut Maebashi workshop No2 2026》

木材や建築廃材などを使い、公共空間や自然環境に適応・介入するインスタレーションを長年国内外で制作してきた川俣正。複数の人数が関わる制作プロセスそのものを作品とする「ワークインプログレス」の代表的な作家として、国内外で広く知られている。《Tree Hut》は2007年にノルウェーで作られて以来、世界中で展開されてきたプロジェクト。街路樹などに設置する小屋のようなもので、今回は「アーツ前橋」正面のケヤキに1基、国道50号の公開空地には市民とのワークショップから構想された2基を設置している。ちなみにこれは住民参加型プロジェクトとして、長く持続・拡張していくことを目指しているそうなので楽しみだ。

photo by tatsuki nakata

中央通り商店街/尾花賢一+石倉敏明《赤城山リミナリティ Part3 山と凧と十二様》

さまざまな建築プロジェクトの舞台ともなっている「前橋中央通り」では、天窓からの光が差し込む高い梁から、尾花賢一+石倉敏明による作品が吊り下げバナー状に提げられている。群馬出身のアーティストである尾花と芸術人類学研究の分野で活躍する石倉は、山岳信仰の聖地・赤城山の風土や伝承についての長期取材に基づいたプロジェクト《赤城山リミナリティ》を2019年にスタート。その第3弾となる今回は赤城名物のからっ風に着目し、その風に乗って飛ぶ“凧”に、山の神「十二様(じゅうにさま)」にまつわる伝承や風景を描き起こした作品を制作した。アーケード街を歩き、劇画タッチで描かれたモノクロ作品を見上げるたび、唸り声を上げて吹き下ろす強風、そして赤城山との繋がりを感じられるに違いない。

1日ですべての展示を歩いて回れる規模感の中、国内外で活躍するアーティストたちが、“めぶき”続ける前橋のまちで展開する、初めての「前橋国際芸術祭」。会期中も前橋に暮らす人々、そして国内外から訪れる多様な人々と関わりながら、さまざまなプロジェクトが展開されていく。美術館の中で完結するものでも、大自然の中で非日常を感じながら作品を鑑賞するものでもなく、人々の生活圏そのもので開催される作品たち。その意味は、現地を訪れ、人と交流し、さまざまなイベントに参加するなかで、きっと強く感じられるはずだ。

第一回 前橋国際芸術祭 2026
会期:2026年9月19日(土)~12月20日(日)
会場:アーツ前橋、まえばしガレリア、白井屋ホテルほか、前橋市中心市街地
開場時間:10:00~18:00(最終入場17:30)
休場日:水曜 ※会場・作品により異なる場合あり
パスポートチケット:一般3,000円、学生2,000円、高校生以下無料


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