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都市と果物の「心拍音」を聴く、プレイフルな空間アート|毛利悠子とナムジュン・パイクの展覧会

  • 2026.9.17
Naoki Takehisa

『毛利悠子 Recompose 第60回ヴェネチア・ビエンナーレ日本館帰国展』 展示風景

小崎哲哉さん、山口桂さん、河内タカさんが交代で担当している『婦人画報』のアートコーナー「アートの杜 賢者の深掘り」では、開催中の注目の美術展をピックアップ。

アートジャーナリストの小崎哲哉さんが今回ご紹介するのは、『毛利悠子 Recompose 第60回ヴェネチア・ビエンナーレ日本館帰国展』と、『没後20年 ナムジュン・パイク|じゅげむ展』です。

音楽的感性が響き合う、生命の循環と共鳴

毛利悠子の作品はどれも音楽的です。学生時代には即興ハードコア・バンドをやっていたそうですが、その後も坂本龍一、大友良英、山本精一らと協働したり、楽器を使ったサウンド・インスタレーションを作成したり……。でもそればかりでなく、ほとんどすべての作品から音や音楽が聞こえてくるのです。

2024年にはヴェネチア・ビエンナーレの日本館で『Compose』と題する個展を開催しました。今回はその凱旋展と呼べるもので、展示されるのは「日産アートアワード2015」でグランプリを受賞した《モレモレ》と、2021年に始めた《Decomposition》というふたつの代表シリーズ。どちらも毛利作品の例に漏れず、音が鍵を握っています。《モレモレ》は、作家が10年以上にわたって取り組んでいるシリーズ。地下鉄の駅構内などで見かける水漏れと、駅員さんが手近な道具で施す応急措置に想を得たそうで、水の循環を主題にしています。チープな素材や、家電や家具などの日用品から、予想外の動き、音、風などが生まれてくる。なんともユーモラスな作品です。

《Decomposition》は、古い家具や音響機器を置いた空間にリンゴやスイカなどの果物を並べたインスタレーション。甘い芳香が漂い、照明が明滅し、不思議な音が聞こえます。実は果物には電極が刺されていて、熟れて腐ってゆく過程で変化する水分量を光や音に変換しているのです。「Compose」は構築・作曲する、「Decomposition」は分解・腐敗という意味ですが、《モレモレ》は都市が、《Decomposition》は果物が、それぞれ生きていることを証し立てる音楽を奏でています。

ヴェネチアでは、傷んで販売できなくなった果物を近隣の店からもらってきて使い、使用後にはコンポストで肥料にしていました。明るくプレイフルな外見の裏に、「生と死」やエコロジーという、なかなかに重い主題が込められています。

ナムジュン・パイク《ケージの森/森の啓示(部分)》 1993年 植物、モニター20台、映像3チャンネル、再生機3台、ステレオ1組

ビデオ・アートの父と称されるナムジュン・パイクも、自身でピアノを弾き、チェロ奏者と協働するなど音楽好きな人でした。陽気でいたずら好きな作風は毛利にも影響したかもしれません。パイクの映像からも、素敵な音楽が感じられます。

毛利悠子 Recompose第60回ヴェネチア・ビエンナーレ日本館帰国展

磁力や重力などの自然現象と身近なものを組み合わせ、不規則な動きや音を生み出す作品で知られる毛利悠子。光や音、匂いを伴うインスタレーションで目に見えないエネルギーの循環、もの同士の関わりを体感し、「共存」「共生」を問いかける。

会期/~11月23日(月・祝)
時間/10時~18時(11月21日・22日は~20時) ※入館は閉館の30分前まで
休館日/木曜(9月24日、11月19日は開館)
無料
tel.045-221-0300
会場/横浜美術館[神奈川・横浜]
Google mapで確認
神奈川県横浜市西区みなとみらい3-4-1

横浜美術館公式サイト

没後20年ナムジュン・パイク|じゅげむ展

ブラウン管やロボット、衛星通信など最先端技術を取り入れた表現を追求したパイクと、ワタリウム美術館との半世紀の交流を紹介。自然と文明、コミュニケーション、未来へ継承される精神をテーマに代表作や未公開作品を展示。

会期/~11月23日(月・祝)
時間/11時~19時
休館日/月曜(9月21日、10月12日、 11月23日は開館)
料金/一般1,500円ほか
tel.03-3402-3001
会場/ワタリウム美術館[東京・外苑前]
Google mapで確認
東京都渋谷区神宮前3-7-6

ワタリウム美術館 公式サイト

おざきてつや〇1955年東京都生まれ。ジャーナリスト/アートプロデューサー。2019年フランス共和国芸術文化勲章シュヴァリエを受章。アートの理論や歴史だけでなく、経済や社会の現実にも目を向けた批評に定評がある、アートジャーナリズムの第一人者。今年10月に、新著『デュシャン思考』(青幻舎)を刊行予定。

文=小崎哲哉 編集=吉岡尚美(婦人画報編集部)

『婦人画報』2026年10月号より

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