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「トング、あるのにね」朝食会場で素手でパンを取る人を見た私が、席を立った理由

  • 2026.9.18
「トング、あるのにね」朝食会場で素手でパンを取る人を見た私が、席を立った理由

窓際の席から、パンコーナーが正面に見えた

旅行二日目の朝、私は朝食会場のいちばん奥の席にいた。窓際で、パンの並んだ台がちょうど正面に見える位置だ。五十を過ぎてから、朝はパンとコーヒーだけで済ませることが多い。

八時を回ったころ、会場が急に混みはじめた。

まとまって入ってきたお客さんで料理台の前に列ができ、皿やカップの音が一気に増えた。

そのとき、パンコーナーを見ていた私の手が止まった。

かごの縁にはトングが置かれている。それなのに、前に立った人は使わず、ロールパンを二つ三つまとめて素手でつかみ、そのまま皿へ載せた。

さらに別の人は、一つのパンを持ち上げて指で軽く押したあと、元のかごへ戻していた。

「ねえ…今の見た?」

向かいに座っていた連れも、パンコーナーへ目をやった。

「見た。トング、あるのにね」

「触ったのを戻してたよね?」

「うん…ちょっと気になるね」

私はコーヒーを飲みながらも、ついそちらを見てしまった。

素手で何個かまとめて取る人がいて、一度触ったものを戻す人もいる。そのあと何も知らない二人連れが来て、トングを使ってパンを皿へ載せていった。

その様子を見ていると、さっき触られていたパンではないだろうかと気になってしまう。

「私、ちょっと言ってくる」

「フロントに?」

「うん。知らないまま食べる人もいるし」

連れは少し迷った顔をしてから、「そうだね」とうなずいた。

フロントで、見たことだけを伝えた

私は食事をいったん止め、ロビーのフロントへ向かった。制服の女性がこちらを向く。

「すみません。朝食会場のことで、ちょっといいですか?」

「はい。どうされましたか?」

私は声を少し落とした。

「パンを2、3個ずつ手でつかんで、皿に入れていた人がいたんです」

女性の表情が変わった。

「素手で、でしょうか?」

「はい。それと、触ったパンをかごに戻している人もいました。トングは置いてあるんですけど…」

「そうでしたか。申し訳ございません。会場を確認いたします」

「お願いします。次の人がそのまま取っていたので、ちょっと気になってしまって」

「お知らせいただき、ありがとうございます」

それだけ伝えて、私は席へ戻った。

「どうだった?」

連れがすぐに聞いてきた。

「確認してくれるって」

「それならよかった」

しばらくすると、スタッフがパンコーナーへやってきた。かごをいったん下げ、台の周りを確認している。

少しして新しいパンが並べられ、トングも手に取りやすい位置へ置き直された。台のそばには、トングの使用をお願いする案内も置かれていた。

そのあとパンを取りに来た人が、手を伸ばしかけて案内に気づいた。

一瞬動きを止め、それから横に置かれたトングを取る。

後ろに並んだ人たちも、順番にトングを使っていた。

「ちゃんと見てくれたみたいだね」

連れが言った。

「うん。言おうか迷ったけど、伝えてよかった」

私は冷めかけたコーヒーを飲み、ようやくパンコーナーから目を離した。

窓の外は、朝からよく晴れていた。


※本記事は、GLAMが独自に実施したアンケートで寄せられた50代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています

※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

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