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化学物質過敏症とは?強い香りで体調が悪くなる原因と家庭でできる対策を医師が解説

  • 2026.8.28

香水や柔軟剤のにおいが辛い・・・。その不調、化学物質過敏症のサインかも?今回は、化学物質過敏症の症状や要因、似た症状を持つ他の病気の可能性、具体的な対策法や受診先の選び方まで、精神科医であり臨床心理士・公認心理師でもある出雲いいじまクリニック院長の飯島慶郎先生に分かりやすく解説していただきました。

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「柔軟剤の香りで頭が痛くなる」「芳香剤の近くにいると気持ちが悪い」。家族がこうした不調を訴え、「もしかして化学物質過敏症では」と心配される方が増えています。
化学物質過敏症は、確かに存在する病態です。しかし、一般に思われているよりもずっと広い概念で、症状の種類や程度も人によって大きく異なります。「香りに敏感」というだけで、すぐに化学物質過敏症だと決めつけることはできません。
この記事では、化学物質過敏症とはどのような病態なのか、その全体像を丁寧に押さえたうえで、家庭でできる対策や受診先の選び方について、片頭痛などほかの病気との違いも含めて解説します。

化学物質過敏症の全体像

化学物質過敏症は、生活環境に存在するごく低濃度の化学物質に反応し、さまざまな症状が現れる後天性の病態です。1987年に米国の医師カレンによって定義された、比較的新しい病態概念です。
国際的にはMCS(Multiple Chemical Sensitivity)と呼ばれていますが、近年では「特発性環境不耐症(IEI)」「化学物質不耐症(CI)」「毒物誘発性耐性喪失(TILT)」など、いくつかの名称が並存しています。呼び方が定まっていないこと自体、この病態の定義や捉え方が、まだ十分に定まっていないことの表れでもあります。
日本で行われたウェブ調査(成人7,245人)では、質問票による判定で、回答者の4.4〜7.5%が化学物質不耐症の疑いに該当しました。決して珍しい状態ではありません。
化学物質過敏症を理解するうえで重要なのは、症状の現れ方に非常に幅があるということです。軽い不調にとどまる人もいれば、日常生活や仕事、外出が難しくなり、複数の臓器にまたがる反応が続く人もいます。

代表的な症状は、においに極端に敏感になる嗅覚過敏、強い倦怠感、息苦しさの三つです。イタリアの研究でも、この三つが最も多い症状の三徴として報告されています。

これに加えて、頭痛、めまい、集中力の低下、皮膚のかゆみや発疹、動悸、発汗の異常、消化器症状、不眠、不安感など、全身のさまざまな部位に症状が現れることが特徴です。
反応する物質は、香りに限りません。農薬、洗剤、食品添加物、タバコの煙、新築住宅の建材、印刷インクのにおい、ガソリン、防虫剤、薬剤、除菌スプレーなど、幅広い化学物質に対して症状が現れます。

このように症状も反応する物質も幅広いため、化学物質過敏症は診断が難しい病気でもあります。客観的な検査法や統一された診断基準は、国際的にもまだ確立されていません。一方、日本では、1999年に北里大学の石川哲医師らによって独自の診断基準が提示され、専門外来などでの診療に活用されています。
それでも、「複数の物質をきっかけとして、複数の臓器に症状が現れる」という特徴が、化学物質過敏症とほかの病気を区別する際の手がかりになります。

なぜ起こるのか。発症のメカニズム

化学物質過敏症を発症するきっかけとして、シックハウス、農薬散布、工場事故、新築やリフォーム、大量の化学物質への曝露などが挙げられます。
一度こうした引き金を経験すると、刺激に反応する閾値が下がり、その後はごく低い濃度の化学物質にも症状が現れるようになると考えられています。
専門的には、TILT(toxicant-induced loss of tolerance、毒物誘発性耐性喪失)と呼ばれる考え方で、二段階の過程が想定されています。第一段階では、強い曝露によって化学物質に対する「耐性」が失われます。続く第二段階では、日常生活にあるごく普通の香りや化学物質にも反応するようになる、という考え方です。

近年の研究では、皮膚や粘膜、気道に存在するTRPV1・TRPA1という感覚受容体が過敏になっている可能性が注目されています。これらの受容体は、本来、痛みや刺激を感じ取るセンサーです。しかし、いったん敏感になると、多くの人なら気にならない程度の刺激でも、痛みや不快感として感じ取られてしまいます。
加えて、脳のさまざまな領域における働きの変化、全身の炎症、酸化ストレス、自律神経の不安定さなど、複数の仕組みが絡み合っていると考えられています。
心理的な要因が「原因」だと片づけられがちですが、それは一面的な理解です。強いストレスや不安によって症状が悪化することはあっても、それは化学物質過敏症そのものの原因ではなく、あくまで症状を悪化させる要因です。症状を心理的な問題だけで説明することはできません。
化学物質過敏症は、喘息、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎、片頭痛、線維筋痛症、慢性疲労症候群など、ほかの慢性疾患と重なって現れることも多く、複数の病気を抱えながら悪循環に陥る方もいらっしゃいます。

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「香りに敏感=化学物質過敏症」ではありません

ここで、特に注意していただきたい点があります。
「柔軟剤の香りで頭が痛い」という訴えだけで、化学物質過敏症だと決めつけるのは早いのです。香りへの過敏は、片頭痛に伴って現れることも多いからです。

片頭痛の患者さんには、においに強く反応する方が非常に多いことが知られています。2025年に発表された2万2,000人規模の国際的なメタ解析では、片頭痛患者のおよそ48%が、においを強く不快に感じる「嗅覚嫌悪(osmophobia)」を持つと報告されました。
頭痛を誘発しやすいにおいを調べた研究では、最も多く挙がるのは香水で、そのほか洗剤や柔軟剤、タバコ、排気ガスなどが報告されています(研究によって順位には幅があります)。いずれにせよ、この構図は、いわゆる「香害」の相談で語られる状況とよく重なります。

片頭痛は、日本国内におよそ840万人の患者さんがいる病気です(頭痛の診療ガイドライン2021)。とくに女性に多く、30代の女性では約20%、40代の女性でも約18%と、高い有病率が報告されています。とりわけ、子育て世代の女性にも少なくない病気です。
そして、片頭痛は近年、治療薬の選択肢が大きく広がった病気でもあります。トリプタン系薬剤やCGRP関連の予防薬など、正しく診断されれば、生活の質が大きく改善する可能性があります。

だからこそ、「香りで頭痛が起こる」という症状を化学物質過敏症だと自己判断し、治療によって改善が期待できる片頭痛を見逃してしまうのは、非常にもったいないことなのです。
ここまで見てきたように、化学物質過敏症は本来、複数の物質をきっかけとして、複数の臓器に症状が現れる病態です。香りをきっかけに頭痛だけが起こる場合とは、症状の種類や現れ方、続き方が異なります。
もちろん、化学物質過敏症と片頭痛の両方が併存する方もいらっしゃいます。そのため、自己判断で結論を出すのは危険です。
ただし、香りに敏感だからといって、ただちに化学物質過敏症とは限りません。そう理解しておくことが、適切な診断につながる第一歩になります。

家庭でできること

まずは、症状の原因となりうる物質を家庭内から減らすことです。柔軟剤、芳香剤、除菌スプレー、香りの強い洗剤などを、無香料や低刺激の製品に切り替えます。
近年の柔軟剤には、香りを長時間持続させるために、マイクロカプセルなどの徐放技術が使われています。香料成分が衣類などに残りやすく、周囲への放散が長く続くことが、曝露を長引かせる原因の一つとも指摘されています。
家族が同じ家で生活している以上、香水や整髪料も含め、家族全員で使用する製品を見直すことが望ましいでしょう。
換気も意識してください。新築やリフォームの直後は特に、しばらくのあいだ意識的に空気を入れ替えることが大切です。

そして、症状の記録をつけることを強くおすすめします。いつ、どこで、何に触れたあと、どのような症状が現れ、どのくらい続いたのかを記録しておきましょう。
この記録は、症状の背景に化学物質過敏症があるのか、片頭痛など別の病気が関係しているのかを、医師と一緒に検討する際にも役立ちます。
反応する物質は香りだけなのか、それ以外にも広がっているのか。香りに触れた場面以外でも症状が起きているのか。こうした情報があれば、医師も症状の全体像を把握しやすくなります。
家族が不調を訴えたときには、「気のせいでしょう」と否定しないでください。まずは本人の訴えを受け止め、症状を観察して記録すること。それが本人の安心にもつながります。

受診先の選び方

最初の相談先としては、かかりつけの内科やアレルギー科が受診しやすいでしょう。
香りへの反応があり、頭痛が主な症状である場合には、脳神経内科や頭痛外来も選択肢に入ります。片頭痛と診断されれば、適切な治療によって症状が改善する可能性があります。
典型的な化学物質過敏症の像、つまり、複数の物質に反応し、複数の臓器に症状が現れ、日常生活に支障をきたしている場合には、化学物質過敏症の専門外来を持つ医療機関が、相談先を選ぶ際の一つの目安になります。
ただし、対応できる医師が少ないのが現状で、地域によっては受診までに時間がかかることもあります。

自律神経症状が強い場合や、心身のストレスが症状に深く関係している場合には、心療内科も選択肢になります。必要に応じて診断書を作成してもらうことで、職場や学校に配慮を求める際の資料として活用できることもあります。
医療機関で「気のせいですよ」と言われたとしても、諦めないでください。症状の全体像を丁寧に聞いてくれる医師にたどり着くまで、時間がかかることもあります。
それでも、症状の原因や背景が整理できれば、必要な対策や治療を考えやすくなります。

おわりに

化学物質過敏症は実在する病態で、症状の現れ方に非常に大きな幅があります。
だからこそ、香りに反応するからといって、すぐに自己診断で結論を出すのではなく、どのような症状があるのか、どの物質に反応するのかを、落ち着いて観察していただきたいのです。

家族の不調を「気のせい」と片づけない。一方で、過剰に恐れて生活を縛りすぎない。
症状を丁寧に観察し、正確に知ろうとすること。そして、必要なときには医師と一緒に原因を探っていくこと。それが、家族の健康を守る一番の近道です。

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※本記事の執筆にあたり、論文検索および構成の整理に生成AIを活用していますが、医療情報としての正確性は専門医が確認・監修しています。

執筆者

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飯島慶郎
飯島慶郎

不登校/こどもと大人の漢方・心療内科 出雲いいじまクリニック院長
精神科医・総合診療医・漢方医・臨床心理士

島根医科大学医学部医学科卒業後、同大学医学部附属病院第三内科、三重大学医学部付属病院総合診療科などを経て、2018年、不登校/こどもと大人の漢方・心療内科 出雲いいじまクリニックを開院。
多くの不登校児童生徒を医療の面から支えている。島根大学医学部精神科教室にも所属。
著書:『不登校は病気? ~医師の診断が子供と家族を救う~』(みらいパブリッシング、2025年)他

不登校/こどもと大人の漢方・心療内科 出雲いいじまクリニック

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