1. トップ
  2. ヘルスケア
  3. オルトレキシアって何?行き過ぎた健康志向が招く新型摂食障害を医師が解説

オルトレキシアって何?行き過ぎた健康志向が招く新型摂食障害を医師が解説

  • 2026.8.24

健康的・純粋な食事への強いこだわりが支障をきたす状態を「オルトレキシア」と呼びます。今回は林外科・内科クリニック理事長の林裕章先生が、オルトレキシアの症状やサイン、家庭での対応策などを詳しく解説します。

ママ広場

「子どもの健康のために、できるだけ体によいものを食べさせたい」。そう考えるのは自然なことです。ただし、「健康によい食事」がいつの間にか絶対的なルールになり、決めたもの以外を食べることへの強い不安や罪悪感、家族や友人との食事を避ける行動につながることがあります。こうした状態は「オルトレキシア(orthorexia nervosa)」と呼ばれます。1997年にアメリカの医師が提唱した言葉で、DSM-5-TRやICD-11といった国際的な診断基準には載っていません。「健康的・純粋な食事へのこだわりが強くなりすぎ、かえって心身や生活に支障をきたす状態」として理解されています(※1)。

新型摂食障害ともいわれているオルトレキシアってどんな病気?症状や原因について

この状態において問題になるのは、「何を食べるか」より、食事のルールが極端に厳しくなり、少しでも例外を認められなくなることです。添加物、砂糖、脂質、加工食品、微量の農薬、特定の食品群などを「体に悪い」「汚れた食べ物」と考え排除します。「オーガニックでないと食べない」「少しでも油が入っていたら気になる」など、食材選びや調理法の確認に膨大な時間を費やし、ルールを破ると強い自己嫌悪に陥ります。進行すると、外食や給食、友人宅での食事が難しくなり、学校生活や人付き合いに支障が出ます(※1)。

「健康のため」に始めた食事制限が、皮肉にも深刻な健康被害を招く危険性があります。食品の選択肢を極端に狭めることで、成長期に必要なエネルギー、たんぱく質、ビタミン、カルシウム、鉄分などが不足します。成長期の子どもでは、身長の伸びが悪くなる、初経が遅れる、月経が止まる、骨がもろくなるといった影響が現れ、思春期前に始まった場合は最終的な身長が低くなることも知られています(※2)。重い栄養不足は通常の摂食障害と同様に、命に関わります(※3)。

一生分の骨量は、その大半が10代のうちにつくられます。この時期に足りないと、後から食事を戻しても取り戻せないことがあり、何十年も先の骨折や骨粗しょう症のリスクとして残ります。
「やせていないから大丈夫」とも限りません。体重が標準でも、食べられる物の種類が減れば貧血や骨のもろさが現れます。栄養不足が進むと体は脈を遅くし、体温や血圧を下げるため、元気そうに部活へ通っているのに脈が1分間に40〜50回まで落ちていることがあります。心臓に負担がかかった危険なサインです(※2)。
原因は一つではありません。完璧主義的な性格、強い不安感、コントロールへのこだわり、SNS等で溢れる極端な健康情報の影響などが絡み合っていると考えられています。ただし、断定できる証拠はまだありません。
「○人に1人」といった数字も見かけますが、研究ごとに判定基準が異なり、信頼できる割合はまだ分かっていません。数字より、目の前のお子さんの様子を見ることが大切です(※4)。

[保護者が気づきたいサイン]
・「これは毒」「これは不潔」など、食品を極端に善悪で分ける
・食べられる食品が少しずつ減っている
・成分表示や調理法の確認に非常に時間がかかる
・給食、外食、旅行、誕生日会などを食事が理由で避ける
・サプリメントや健康食品の種類・量が増えている
・体重減少、立ちくらみ、疲れやすさ、月経の停止、脈の遅さ、手足の冷えなど身体の変化がある

ママ広場

「健康志向」の食事をする人とはどう違うの?また、摂食障害との違いは?

健康志向の人も、野菜を増やしたり加工食品を控えたりします。両者を見分ける重要なポイントは、「その食生活が生活を豊かにしているか、それとも支配しているか」です。健康的な食生活には、場面に応じて選択を変えられる柔軟さがあります。旅行先で普段と違うものを楽しんだり、友人との食事を優先したりする余裕です。一方、オルトレキシアではルール厳守が最優先となり、守れないと強いパニックや苦痛を感じ、人付き合いを犠牲にして孤立してしまいます。

いわゆる拒食症(神経性やせ症)は「やせること・体重」への強いこだわりが中心ですが、オルトレキシアは「食事の健康さ・純粋さ」を追求する点が異なります。ただし両者が合併したり移行したりすることも多く、明確には分けられません(※4)。
見落とされやすいのは、本人に「やせたい」気持ちがないことです。健康的であろうとする姿勢は周囲からほめられやすく、家族も本人も摂食障害だとは思わないため、受診が遅れます。

一方で、「健康に気を遣うこと」自体を否定してはいけません。アレルギーや糖尿病など、医学的な理由で食事管理が必要な方もいます。大切なのは、医療上の必要性があるか、本人が柔軟に選べるか、栄養状態が保たれているか、日常生活が損なわれていないかです。

オルトレキシアだと診断された場合の治し方や、病気との付き合い方、周りの寄り添い方について

オルトレキシアには正式な診断基準がなく、専用の治療法も確立していません。実際の診療では、まず身体的な安全と栄養状態を確保したうえで、本人の強い不安や完璧主義に合わせて、心理療法や栄養指導などを組み合わせて治療を行います。

注意が必要なのは回復のしかたです。長く低栄養が続いた体に急にたくさん食べさせると、血液中のリンなどが急激に下がり、心臓や意識に重い異常が起こることがあります(リフィーディング症候群)。「やっと食べられるようになった」時期こそ危険で、家庭で量を一気に増やさず、医療機関の管理のもとで戻します(※5)。

[家庭でまずできること]
●食べ物を「良い・悪い」「きれい・汚い」と決めつける会話を家庭内から減らしましょう。いろいろな食品をバランスよく食べる柔軟さを、家族で共有してください。保護者自身の「太ったから食べない」という一言も、子どもには強く伝わります。
●「こんなの気にしすぎ」「普通に食べなさい」と正論で論破しようとするのは逆効果です。本人にとっては、「毒を食べてしまうかもしれない」という強い恐怖が現実のものです。まずは「食べることが怖くなっているんだね」と本人の辛い気持ちに寄り添い、耳を傾けることが第一歩です。
●言葉で説得するよりも、家族がおいしそうに楽しそうに一緒に食事をする姿を見せることが、安心感につながることもあります。体重や体型については触れず、「一緒に食卓を囲めて嬉しい」と生活の広がりを喜びましょう(※6)。
●10代の摂食障害では、家族が食事の立て直しに関わる家族療法に効果が示されています。親の育て方が原因という見方とは正反対で、親は回復の担い手です(※5)。
●SNSや動画では、「○○は絶対に毒」「これだけ食べれば健康」など極端な表現ほど目につきます。情報源が公的機関か、単一の食品を万能視していないかを親子で確認しましょう。
●よかれと思ってサプリメントを足すのは慎重に。成分によっては摂りすぎで肝臓の障害などが報告されており、食品だから安全とは限りません(※7)。

[受診を考えたい目安]
「食べられるものがどんどん減る」「体重が目に見えて減る」「学校や友人関係に支障が出る」「食事のことで一日中不安になる」といった状態が続く場合は、家庭だけで解決しようとせず、早めに小児科、心療内科、精神科などに相談してください。本人が受診を嫌がる場合でも、地域の精神保健福祉センターや摂食障害の「相談ほっとライン」で家族だけの相談ができます(※8)。
特に、ぐったりしている、反応が鈍い、ほとんど食べたり飲んだりできない、失神を繰り返す、脈がとても遅いなどの場合は、本人の希望に関わらず、速やかな受診が必要です。摂食障害は重症になると命に関わります(※3)。
目指したいのは、子どもに「完璧な食事」を守らせることではなく、食事を栄養だけでなく、楽しみや人とのつながりを含むものとして経験させることです。健康を守るはずの食事が本人の自由や人間関係を奪い始めたときは、「意志が弱い」と考えず、専門家に相談するサインと捉えてください。

※本記事の作成・推敲にあたり、文章構成案および表現整理の補助として生成AIを使用しました。
医学的内容については医師が確認し、必要に応じて公的機関・専門学会等の情報を参照しています。

執筆者

プロフィールイメージ
林裕章
林裕章

林外科・内科クリニック理事長。国立佐賀医科大学を卒業後、大学病院や急性期病院で救急や外科医としての診療経験を積んだのち2007年に父の経営する有床診療所を継ぐ。

現在、外科医の父と放射線科医の妻と、その人その人に合った「人」を診るクリニックとして有床診療所および老人ホームを運営しており、医療・介護の両面から地域のかかりつけ医として総合診療を行っている。科学的根拠だけでは語れない、人間の心理に寄り添う医療を実践している。また、福岡県保険医協会会長として、国民が安心して医療を受けられるよう、医療者・国民ともにより良い社会の実現を目指し、情報収集・発信に努めている。

林外科・内科クリニック

元記事で読む
の記事をもっとみる

注目コンテンツ