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坂東巳之助さんインタビュー「伝統を受け継ぐ骨太さといまを捉えるみずみずしい感性」

  • 2026.8.8
Atsushi Yagi (SIGNO)

怪談の闇から夏の光のなかへ

歌舞伎座の夏といえば「納涼歌舞伎」。歌舞伎の魅力がたっぷりと堪能できる三部制の公演で、その第一部で上演されるのが『怪談 牡丹燈籠(ぼたんどうろう)』。

「僕ら世代のメンバーが決まっていましたので、そのなかで何が面白いかと考えたときに、この作品が浮かびました。本当に怖いのは人間という“人怖(ひとこわ)”要素とともに、幽霊的な怖さもあり、多様な怖さが盛りだくさん。焦がれ死にしてしまうほど一途なお露と新三郎、愛が強すぎる故に利己的な考えに囚われていくお国と源次郎、慎ましい暮らしから大金を手にしたことで夫婦関係が崩れていく伴蔵とお峰。現代にも通じる三者三様の在りようが怖さへつながっていくところも魅力です」

巳之助さんが演じるのは、お金のために幽霊に加担する下男、伴蔵。

「善人とか悪人とかではなく、欲にのまれて、お金が手に入ると気が大きくなる小心者。江戸の町にも現代にもよくいる人です(笑)」

お父様の十代目坂東三津五郎さんは納涼歌舞伎で伴蔵を2度演じています。2度目の2003年時に、巳之助さんは関口屋の丁稚役で出演。13歳でした。

「よく覚えています。当時の自分が抱いていた歌舞伎のセオリーとは全く違う幕切れが衝撃的だったんです。いろいろな解釈のある作品ですが、僕は父のやり方を踏襲したいと思っています」

1990年に当時30代だった十八代目中村勘三郎さんと三津五郎さんを中心に始まった納涼歌舞伎。巳之助さんにとっては、どんな公演だったのでしょうか。

「子どものころは夏休みに父親がいないという寂しさがありましたね。ずっと一緒にいたいわけではありませんが、父がいないと家族旅行にも行けないので(笑)。でも、もしかしたら、いま子どもたちに同じような思いをさせているのかな」

巳之助さんの長男、守田緒兜(おと)さんは昨年10月歌舞伎座『義経千本桜』の安徳帝で初お目見得しました。

7歳ながら立派な口跡で客席を沸かせた緒兜さん。「出来不出来は別として、一所懸命に取り組んでいました。本人は楽しんでいるようです」と巳之助さん。 2025年10月歌舞伎座『義経千本桜』守田緒兜の安徳帝、巳之助の義経 ©SHOCHIKU Co.,Ltd.

「普段はわりとお調子者なので、舞台はとにかく真面目にやってくれてよかったです。将来的に必ずしもこの道に進まなくてもいいと思っていますが、選択肢として歌舞伎を組み込むことは、親の仕事なのかなと感じています」

巳之助さんご自身は、17、18歳のころに歌舞伎役者になる覚悟が決まったと以前お話されていました。

「そのころ、一番多くの経験をさせていただいたのが納涼歌舞伎です。18歳(2008年)のときは初めて4演目に出演し、一所懸命先輩たちについていった思い出が強く残っています。それが僕の納涼歌舞伎の原点。ですが、中村屋(勘三郎)さんが亡くなり、父が亡くなり、納涼歌舞伎のかたちはさまざまに変わっていきました。

それから10年以上の時が経ち、もはや、中村屋さんや(中村)福助の兄さん、父のいる納涼歌舞伎を見たことがないお客様も多くいらっしゃいます。自分が一幕を持たせてもらえるようになったいま、昔の“納涼”を懐かしむばかりではなく、始まったころを知っているお客様にも、新たな形を楽しみに来てくださるお客様にも楽しんでいただけるものを作っていきたいと思っています。

今回、第一部は“怪談もの”で夜の場面ばかりですが、終演後は明るい昼下がり。僕はホラー映画が好きでよく昼間に見に行くのですが、真っ暗な空間でホラーに浸ったあと、映画館を一歩出ると明るい光に包まれる。すると、映画館での時間がすごく非現実的なものだった感覚になるんです。皆さまにはぜひ、『牡丹燈籠』のあとに燦々とした夏の太陽の光を浴びるという、劇場ならではの不思議な感覚を味わっていただきたいです」

[今月の裏話]

謙虚な姿勢は大事に、ときには堂々と

スーパー歌舞伎Ⅱ(セカンド)『ワンピース』のボン・クレー、ロロノア・ゾロ、スクアードや『NARUTO ─ナルト─』のうずまきナルトなど、漫画原作の新作歌舞伎でも当り役の多い巳之助さん。近年は古典への出演が多くなっていますが、最近の舞台で印象に残っている作品を伺うと、意外にも歌舞伎ではなく、昨年5~6月に出演した『HUNTER×HUNTER』THE STAGE 3 という答えが。

「主演を勤めた16歳(当時)の西山蓮都くんはじめ10〜20代の出演者が多かったのですが、みんなプロの役者として、自分の商品価値をお客様や演出家に提示するという感覚を強くもって臨んでいると感じました。歌舞伎界は30代でもまだまだ若手といわれる世界ですから、修行中という意識が常にあって、そういう意味で、プロとしての自覚が若いうちはなかなか芽生えにくいところがあります。

ですが、謙虚な姿勢は大事に、時には堂々と自分の商品価値を見せていくことも必要。このバランスを丁寧に考えていかないと、この先、歌舞伎からお客様が離れてしまうのではないかと思いました」

ばんどうみのすけ〇1989年生まれ。十代目坂東三津五郎の長男。91年9月歌舞伎座『傀儡師』の唐子で守田光寿の名で初お目見得。95年11月歌舞伎座『寿靱猿』の小猿と『蘭平物狂』の繁蔵で二代目坂東巳之助を襲名し、初舞台。2015年日本舞踊坂東流家元となる。古典はもちろん『NARUTO』など新作でも輝きを放つ。好きな映画は白石晃士監督のホラー作品『サユリ』。

[今月のおすすめ]

【歌舞伎座】八月納涼歌舞伎

『怪談 牡丹燈籠』で幕開きとなる納涼歌舞伎。第二部は昨年逝去した四世片岡亀蔵さんを偲び、縁の深い俳優が揃い『らくだ』を上演。亀蔵さんが工夫を凝らした馬太郎役は兄の片岡市蔵さんが勤めます。

『鬼神のお松』は女盗賊の物語。第三部は中村屋ゆかりの変化舞踊『舞鶴雪月花』と坂東玉三郎さんによる地唄舞『雪』『残月』が披露されます。

HEARST

2026年8月2日(日)~26日(水)(第一部 11時~/第二部 15時10分~/第三部 19時~)※10日(月)、18日(火)は休演

演目/
【第一部】通し狂言『怪談 牡丹燈籠』
【第二部】『眠駱駝物語 らくだ』『百千鳥沖津白浪 鬼神のお松』
【第三部】『舞鶴雪月花』『雪』『残月』

出演/坂東玉三郎、中村扇雀、坂東彌十郎、
松本幸四郎、中村勘九郎、中村七之助、
坂東巳之助、尾上右近 ほか

料金/4,500~17,000円

問い合わせ/チケットホン松竹 tel.0570-000-489(10時〜17時)

公演詳細はこちら

撮影=八木 淳(シグノ) ヘア&メイク=村上知久 取材・文=大木夏子 協力=松竹 編集=本田リサ(婦人画報編集部)

『婦人画報』2026年9月号より

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