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年貢を知ることで“江戸時代の百姓像”が一新される? 百姓の「権利の保障」と「搾取への自衛」に現代人が学ぶこと【書評】

  • 2026.7.31
年貢―せめぎ合う江戸時代の領主と百姓 渡辺尚志/中央公論新社
年貢―せめぎ合う江戸時代の領主と百姓 渡辺尚志/中央公論新社

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時代劇などで描かれる「百姓」は、「年貢に苦しむ」「貧しい」といったイメージが大半で、取り立て役に責め立てられ困窮する――そんなステレオタイプな姿を思い浮かべる人も多いだろう。だが、実際の百姓はそんなに弱い存在というわけでもなかったらしい。中公新書の新刊『年貢―せめぎ合う江戸時代の領主と百姓』(渡辺尚志/中央公論新社)は、知られざる「年貢」をテーマに、私たちの百姓像まで一新してくれる興味深い一冊だ。

身分に応じた権利を保障した、百姓の「年貢」

そもそも「年貢」とは「年々の貢租」という意味。古代社会には「租・庸・調」という税があったと日本史で習うが、時代を経て11世紀ごろからは林野から採れるさまざまなものが「年貢」として為政者に納められるようになった。次第にそうした多様な産物は「米」に換算されるようになり、それが近世社会を支える土台となる。いわゆる「●万石の大名」とか言われる際の「石」は米の取れ高を表したものであり、米が統一的な基準として社会全体のありようまで規定していたわけだ。

本書はそんな「年貢」について、その成立から終焉までさまざまな資料から見通していく。検地によって面積と地味を定め、毎年の検見で作柄を調査し負担額が決まる。いつ払うか、貨幣で払うか現物で払うか、どこに納めるか等にも細かな規程がある――そんなベーシックな知識もいろいろ面白いが、注目は従来の百姓のイメージが大きく変わることだ。

たとえば、そもそもなぜ百姓たちが年貢を納めたのかといえば、それが百姓身分の役(身分に応じた義務)だと考えていたからであり、別に「地代」として隷属的に納めていたわけではなかった。役をつとめることで百姓は「国家の正規の構成員」として位置付けられ、耕作権など身分に応じた権利を保障される。逆に年貢に支えられる武士は、武力で平和を維持するとともに、治水工事の主導など百姓が安心して農業に励める環境を保障する。つまり双方が身分に応じた役を果たすことで社会が維持されていたわけで、その意味では百姓はかなり主体的で合理的。領主の「いいなりになる」のではなく、きちんと交渉して、酷い場合は一揆を起こす。だから領主もやりたい放題できるわけではなく、本書のタイトル通り丁々発止の「せめぎ合い」を繰り広げていたのだという。

搾取されないよう、「読み書き」の能力を身につけた百姓

※写真はイメージです(画像提供:ピクスタ)
※写真はイメージです(画像提供:ピクスタ)

さらに文書行政が発達していた江戸時代においては、「村」で暮らす百姓たちにも「読み書き」は欠かせない能力だった。武士からくる文書に対応したり、逆に報告や要求を伝えるために文書を送ったり…結果、村には寺子屋が増え、先生の適任者がいない村が外から人を呼んできた文書なども残っている。搾取されないために、自衛のために学ぶ――年貢を考えることで、今の時代も通用する人生のセオリーまで見えてくるとは思わなかった。

実はこうした江戸の年貢にまつわる実態はあまり知られておらず、研究者の関心も高いとはいえないとか。そんな状況に一石を投じるべく書かれたのが本書だというが、江戸をより知ることができるのはもちろん、私たちの「税」の成り立ちを考える上でも示唆に富んだ一冊だ。

文=荒井理恵

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