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「じゃあ証拠あるの?」事故の被害者だと主張するドライバー…強気の態度を一変させたバイク側の“切り札”

  • 2026.8.20
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出典:photoAC(※画像はイメージです)

「停止していたら、後ろから追突されたんです」

電話口でそう言われたのは、夏のある日の午後でした。

電話の相手は、Bさん(40代・男性)。信号機のない交差点で、契約者のAさん(30代・男性)が乗るバイクと接触した、乗用車の運転者です。

当時の私は、損害保険会社の事故担当として、Aさんの窓口を務めていました。相手方であるBさんとのやり取りも、私の仕事です。

事故の状況について、AさんとBさんの説明はあまりにも違っていました。どちらかが思い違いをしているか、あるいは嘘をついているか。そのどちらかしかない状況です。

今回は、私が実際に担当した、バイクと乗用車の衝突事故のお話をします。

危険な運転と急停車

バイクに乗っていたAさんの事故状況の説明は、次のようなものでした。

現場は片側一車線の信号のない交差点付近。Aさんがバイクで直進し交差点に差し掛かろうとした際に、右側からBさんの車が速度を上げて追い越しをかけてきたそうです。

さらにBさんの車が交差点で大きく膨らみながら速度を落とさずに左折を始め、Aさんの進路前方に進入。加えて、左折した先に人がいたため、Bさんの車が急ブレーキをかけたのです。

前を塞がれた上での突然の停止。Aさんはブレーキが間に合わず、Bさんのリアバンパー付近に衝突してしまいました。バイクごと転倒し、Aさんは怪我を負っています。

「ぶつかったのは自分です。でも、Bさんのあの追い越しと左折がなければ、ぶつかっていません」

Aさんは電話口でそう話しました。Aさんとしては、自分が追突したことは間違いないものの、Bさんの運転にも問題があるという認識です。

自分にも過失がある事故。Aさんはそう考えていました。そのため、私がAさんの窓口として、Bさんとの話し合いに入ることになったのです。

停止中に追突された

対して、Bさんの説明する事故状況はまったく違いました。

Bさんは最初からAさんの前を走行しており、交差点に進入し左折。その先に人がいたので停止し、そこへ後ろから走ってきたAさんのバイクが追突してきたと言うのです。

つまり、「追い越しそのものがなかった」という内容でした。

停止している車に後続車が追突した場合、追突した側の過失が大きくなるのが一般的な考え方です。Bさんはこの点を踏まえ、自分は被害者であるとの立場を崩しません。

そこで私は、Bさんにドライブレコーダーの提出をお願いしました。

「記録は残っていない」

Bさんから返ってきたのは、この回答のみ。Aさんの説明とは状況が異なる点をお伝えしても、Bさんの主張は変わりません。そのうえで、私はBさんからこう言われました。

「じゃあ証拠あるの?」

急に押し黙る相手

Bさんは強い口調で、自身の被害事故を主張し続けます。

ここで一つ、Bさんが把握していなかったことがありました。Aさんは、バイク用のドライブレコーダーを取り付けていたのです。

こちらにも映像があるため、事故状況を確認することをお伝えすると、あれだけ強気だったBさんが沈黙。そのまま一方的に電話を切られてしまいました。

後日、Aさんから届いた映像を確認。記録されていたのは、Aさんの説明どおりの状況でした。

Bさんの車が右側から追い越し、交差点で膨らみながら左折を開始し、Aさんの前へ進入していく。Bさんの危険な運転の一部始終が、はっきりと残っていました。

「この映像であれば、Aさんの過失ゼロを主張できる」

私はそう判断しました。基本の過失割合を修正し、Bさんの過失を10割とする。この方針をAさんにお伝えし、了承をいただきます。

その後の対応を協議していると、私あてに一本の電話が入りました。出ると、Bさんの加入している保険会社からでした。聞けば、Bさん本人から、自分にも過失のある事故として対応してほしいと申し出があったため連絡したとのこと。

私からは、映像で確認できた状況と、Aさんの主張および意向を改めてお伝えしました。あわせて、Aさんに確認のうえ映像データを開示できる旨も伝え、Bさんの意向をもう一度確認していただくよう依頼しています。

最終的に、Bさん側は自身の過失が10割であることを認め、Aさんの過失はゼロとして合意に至りました。

「映像がなかったら、どうなっていたか分かりませんね」

Aさんは、そう口にしていました。

なぜ、追突した側の過失がゼロになるのか

追突した側の過失が大きくなるのが一般的である以上、この結末を不思議に思われる人もいるかもしれません。

信号機のない交差点で、直進するバイクと、それを追い越して左折した四輪自動車が衝突した場合、基本の過失割合は1:9(バイク:四輪車)とされています。追突の形であっても、四輪側の過失のほうが大きく設定されているのです。

この過失の背景には、二つの決まりがあります。

一つは、今回のケースでは、交差点の手前30メートル以内での追い越しが禁止されている決まり(道路交通法第30条)に触れる状況だったこと。もう一つは、左折するときはあらかじめ道路の左端に寄らなければならないという決まり(同第34条)です。

あらかじめ左に寄らず、大きく膨らんでから左折すると、後続のバイクからは、その車がどこへ向かうのか読めません。また、対向車線にもはみ出すことから大事故に繋がりかねない危険な運転です。

今回のケースでは、Bさんが大きく膨らんでから左折したことなど、複数の事情が重なっていました。基本の1:9からAさんの過失がゼロまで動いたのは、それらを踏まえた結果です。

バイクにも、ドライブレコーダーは取り付けられる

バイク用のドライブレコーダーは、各社から販売されています。四輪に比べると取り付けている車両はまだ多くないため、相手が記録の存在を想定していないこともあるでしょう。

今回のケースでも、Aさんの映像がなければ、主張が食い違ったまま話が進まず、平行線をたどっていた可能性は高かったはずです。

相手から記録がないと言われた場合でも、自分の側に映像が残っていれば、状況を示す材料になります。事故の直後は動揺しやすいものです。自分の車両にどのような記録が残るのか、普段から把握しておきましょう。

交差点の手前は、追い越しが禁止されている区間です。それでも追い越していく車があるなら、その先で予測しにくい動きをすることがあります。

土地勘のない道では、どこに交差点があるのかが直前まで分かりません。追い越していった車が前方に入った後こそ、その車の挙動に注意を払いたいところです。

言い分が食い違ったときに、残るもの

事故の状況について、双方の記憶や認識が食い違うことは珍しくありません。そんなとき、話し合いの土台になるのは記憶ではなく記録です。今回、Aさんを守ったのは、主張の強さではありませんでした。

「じゃあ証拠あるの?」

そう言われたときに提示できるものがあるかどうかで、事故の結末は変わります。

四輪に比べ、バイクは記録が残っていると想定されにくい乗り物です。だからこそ、たとえバイクであってもドライブレコーダーを付けておくことをおすすめします。

証拠は、事故が起きてからでは用意できません。


ライター:スライカズヤ
保険・自動車分野を専門とするライター。損害保険会社で事案担当者として10年間、示談交渉・損害査定・自動車修理の協定業務に携わり、数多くの事故対応の現場に立ってきた。初級技術アジャスター、3級ファイナンシャル・プランニング技能士、損害保険事業総合研究所 本科講座修了。専門性の高い知識を、正確に、分かりやすく伝えることを信条とし、「当事者にならないとわからない」事故と保険のリアルを読者に届ける。


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