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「ブレンドを、ホットで」同じ席に座る常連客→照れくさそうに紙袋を差し出した理由とは

  • 2026.8.1
「ブレンドを、ホットで」同じ席に座る常連客→照れくさそうに紙袋を差し出した理由とは

毎週金曜の窓際の席

学生のころ、商店街の外れにある小さなカフェでアルバイトをしていました。

十二席ほどで、常連さんの顔と注文を覚えられる広さです。

金曜の夕方には、必ず来店する年配の男性がいました。かばんを提げて入ると、窓際のいちばん奥の席に座ります。

「ブレンドを、ホットで」

注文はいつも同じでした。運んでいっても、返ってくるのは短い目礼だけです。

新聞を広げるでもなく、窓の外を眺めながら一時間ほどかけて帰る。それが毎週の流れでした。

無口な人だという印象しかなく、こちらから話しかけたことはありません。

それでも金曜の午後は、その席のテーブルを早めに拭き、西日の入るブラインドを下ろしておきました。

かけられた最初の一言

半年ほど経った金曜、カップを置いた手を引くより先に、男性が口を開きました。

「君、いつも丁寧だね」

驚いて、返事が一拍遅れました。

「……ありがとうございます」

その週から、少しずつ言葉が増えていきます。天気のこと、豆を変えた週のこと。

「今日は冷えるね」

「そうですね。ブレンド、熱めにしておきましょうか」

「頼むよ」

雨の強い金曜には、こんなことも話してくれました。

「ここに来ると落ち着くんだ」

「家に帰る前に、一時間だけ寄っていく」

テーブルの端の紙袋

年が明けて最初の金曜、いつものようにブレンドを運ぶと、男性がテーブルの端に小さな紙袋を置きました。

「これ、持って帰って」

「え、私にですか」

「家にあったお菓子で、悪いんだけど」

男性は視線をカップのほうへ落として、それだけ言いました。

「いただいてしまって、いいんでしょうか」

「毎週、俺の席を整えてくれてるだろう。ブラインドも、座る前から下りてる」

気づかれているとは思っていませんでした。

「……見ていらしたんですね」

「そりゃ見るよ。何も言わない客だからって、何も見てないわけじゃない」

照れくさそうに笑うと、男性は窓の外へ顔を向けます。話はここまで、という合図でした。

閉店後、休憩室で紙袋を開けると、個包装の焼き菓子が数個。

値段の張るものではありませんが、包みを開ける指が少し慌てていました。

次の金曜も、その次の金曜も、男性は同じ時間に扉を押しました。

「ブレンドを、ホットで」

注文はやはり変わりません。ただ、カップを置くたびに、一言だけ返ってくるようになりました。

「ありがとう。今日のも、うまいよ」

※GLAMが独自に実施したアンケートで集めた、30代・男性読者様の体験談をもとに記事化しています

※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

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