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「え?これ動かすの?」通路をふさぐ紙袋。ベビーカーが進めない車内で、乗客が少しずつ動いた結果

  • 2026.9.15
「え?これ動かすの?」通路をふさぐ紙袋。ベビーカーが進めない車内で、乗客が少しずつ動いた結果

前輪が、床の紙袋の角で止まった

去年の冬、夕方の帰宅ラッシュのことだ。

仕事帰りの車内はかなり混んでいて、私はドアの横に立っていた。

駅に着くたびに人が増え、立っている人同士の間もほとんどなくなっていた。

次の駅で、ベビーカーを押した母親が乗ってきた。

入口にいた人たちは体をひねり、なんとか一台ぶんの場所をあけた。ただ、ドアの前にとどまると乗り降りの邪魔になるため、母親は少し車内の奥へ進もうとしていた。

その先の座席に、五十代くらいの男性が座っていた。足を広げ、その前の床には大きな紙袋を置いている。中には箱のような物が入っているらしく、袋の角が通路側へ少し張り出していた。

ベビーカーの前輪が、その角に当たって止まった。

母親は一度引いてから、男性に声をかけた。

「すみません。少しだけ通してもらってもいいですか」

男性は紙袋を見てから、顔を上げた。

「え?これ動かすの?」

母親は困ったように周りを見た。

「袋はそのままでも大丈夫なので、足だけ少し閉じてもらえませんか」

「だから、どかないよ。そっちで何とかしてよ」

二度目は、周りの人が振り返るほど大きな声だった。

「…すみません」

母親はそれ以上言わなかった。

後ろにはすでに人が詰まっていて、ベビーカーを大きく引くこともできない。そのまま取っ手を握り、身を小さくするように立っていた。

私も何か言おうとは思った。ただ、男性の強い口調を聞くと、すぐには声を出せなかった。

3人が少しずつ動いた

その状態で3駅ほど過ぎたころだった。

近くに立っていた学生風の青年が周囲を見回し、座席側へ体を寄せた。

「こっち、少し詰めたら通れそうじゃないですか」

向かいにいた女性も鞄を胸の前に抱え直した。

「じゃあ、私もこっちに寄りますね」

私も足元の荷物を持ち上げ、ドア横の仕切りに体を寄せた。

通路を広げるために場所を動いたのは、私を含めて3人だった。

男性の足や紙袋を動かしたわけではない。それでも反対側に少し余裕ができたことで、ベビーカーを斜めに向ければ紙袋の角を避けられる幅ができた。

青年が母親に声をかけた。

「たぶん、こっちなら行けます。ゆっくりで大丈夫ですよ」

「ありがとうございます。すみません、通ります」

母親はベビーカーの向きを少しずつ変えながら進んだ。持ち手に掛けていた袋が揺れると、近くにいた年配の女性が手を伸ばした。

「その袋だけ持ちましょうか」

「えっ、ありがとうございます。助かります」

両手でベビーカーを押せるようになると、前輪は紙袋の横を抜けた。そのまま母親は車両の中央寄りまで進み、ようやく足を止めた。

二つ先の駅で、男性は紙袋を持って立ち上がった。母親とは目を合わせないまま、人の間を抜けて降りていった。

その夜、家に帰って妻に話すと、驚いた顔で聞かれた。

「そんなふうに言われて、そのお母さん大丈夫だったの?」

「うん。最初は動けなかったけど、近くにいた人たちが少しずつ場所をあけてくれて」

「誰か一人が何とかしたっていうより、みんなで少しずつってこと?」

「そう。俺も最初から動けばよかったって思ったよ」

強く言い返した人はいなかった。それでも、3人がほんの少し立つ場所を変えただけで、それまでなかった通り道ができた。


※本記事は、GLAMが独自に実施したアンケートで寄せられた30代男性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています

※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

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