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「利き手だから器用」は誤解、新研究が”練習量の差”だった可能性を示唆

  • 2026.7.17
「利き手だから生まれつき器用」は誤解かもしれない / Credit:Canva

右手と左手のどちらを好むかには、生物学的な基盤があると考えられています。

では、利き手のほうが文字や道具の操作に優れていることも、生まれつき決まっているのでしょうか。

米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)などの研究チームは、手の好みには生物学的な背景がある一方、利き手の技能的な優位は、道具を使ってきた長年の経験から生じる可能性を示しました。

研究成果は2026年6月30日付で、科学誌『Proceedings of the National Academy of Sciences(PNAS)』に掲載されています。

目次

  • 重い腕では差がつかず、道具を使うと利き腕が優位になった
  • 右利きでも、右肘と左肘では同じくらい文字が下手だった
  • 利き手の器用さは、課題ごとに蓄積された「経験の履歴」

重い腕では差がつかず、道具を使うと利き腕が優位になった

右利きの人が右手で上手に文字を書けるのはなぜでしょうか。

代表的な考え方の1つでは、右手側の運動を担当する脳半球が、生まれつき複雑な動作の制御に優れているからだとされていました。

一方、研究チームは、利き腕が器用なのは、文字を書く、箸を使う、物を投げるといった作業を、幼いころから同じ側で繰り返してきたためではないかと考えました。

この二つの説明を比べるため、研究チームは神経学的に健康な右利きの若年成人に、限られた時間内に左右の腕で机上の5つの標的へ手を伸ばしてもらいました。

動作時間は約350ミリ秒にそろえ、2台の高速カメラを使って、腕や手先が通った軌道を三次元で記録。

実験には、手のひらで標的に触れる通常条件、手首に4ポンド(約1.8キログラム)の重りを付ける条件、前腕に83グラムの軽い竹の棒を取り付け、その先端で標的に触れる条件が用意されました。

通常条件には23人、重り条件には10人、棒条件には11人が参加しました。

通常の腕伸ばしでは、非利き腕の軌道は5つの標的のうち4つでややばらつきが大きかったものの、左右差は限定的でした。

また、手首に重りを付けると左右とも動きが不安定になりましたが、利き腕だけが重さにうまく対応するという明確な優位性は確認されませんでした。

この結果は、利き腕側の脳が腕の重さや慣性を処理する能力で常に優れているとは言えないことを示しています。

ところが、軽い棒の先端で標的に触れる条件では、明確な左右差が現れました。

棒を使うと、参加者はまず先端を標的の近くまで運び、その後、位置を細かく調整する二段階の動きを見せました。

左右の腕とも軌道の後半が曲がる特徴を示しましたが、非利き腕では、この複雑な軌道を安定して再現できず、試行ごとのばらつきが大きくなったのです。

棒は非常に軽いため、約1.8キログラムの重りほど腕の力学を変化させません。

それでも利き腕の優位が現れたことから、利き腕の強みは重さへの対応ではなく、ペンや箸の先端のような「道具の先」を、目的の軌道に沿って正確に導く技能にあると考えられます。

確かに利き手は器用さの面で有利なようです。では、この器用さは「生まれつき」なのでしょうか。

右利きでも、右肘と左肘では同じくらい文字が下手だった

棒を使った実験だけでは、利き腕側の脳に生まれつき優れた能力がある可能性を完全には排除できません。

そこで研究チームは、日常生活ではほとんど経験しない方法で文字を書かせました。

それが、肘にペンを取り付けて文字を書く「肘書き」です。

右利きの人は右手で文字を書く経験を大量に積んでいますが、右肘で文字を書いた経験は、左肘と同じくほとんどありません。

もし右側の運動系全体が生まれつき優れているなら、初めてでも右肘のほうが左肘より上手に書けるはずです。

一方、技能が練習によって身につくなら、どちらも未経験である左右の肘に大きな差は出ないと予想されます。

実験には右利きの11人が参加し、利き手と非利き手、さらに利き側と非利き側の肘を使って、「A」と「8」をそれぞれ8回書きました。

研究チームは、書かれた文字を画像として取り込み、画像認識用ニューラルネットワークのResNet-50で形の特徴を抽出したうえで、文字の品質を比較しました。

その結果、手で書いた場合には、予想どおり利き手の文字が非利き手より整っていました。

ところが肘書きでは、利き側と非利き側の文字の間に、有意な差も、一方が優れているという一貫した傾向も見られませんでした。

右利きであっても、右肘が左肘より器用だったわけではなく、両方の肘が同じ程度に不慣れだったのです。

文字を書く速さを統計的に考慮しても、この結果は変わりませんでした。

さらに研究チームは、肘そのものが文字を書くのに向いていないだけではないかという可能性も検証しました。

別の右利き参加者12人を、利き側の肘を練習する6人と、非利き側の肘を練習する6人に分けました。

各参加者は、指定された側の肘で2400文字を練習します。

すると、練習後には左右どちらの肘も大きく上達し、非利き手で書いた文字よりも整った形を描けるようになりました。

しかも、利き側と非利き側で上達の程度に差はありませんでした。

つまり肘が不器用だったのは、肘に精密な動作を行う能力がなかったためではなく、文字を書く練習経験がなかったためだと考えられます。

では、これらの研究結果からどんなことが分かるのでしょうか。

利き手の器用さは、課題ごとに蓄積された「経験の履歴」

今回の結果は、「どちらの手を好むか」と「その手が器用であること」を分けて考える必要があると示しています。

研究チームは、手の選好には遺伝や神経発達などの生物学的要因が関係する可能性を認めています。

一方で、選ばれた側が文字や道具操作で優れた技能を示すようになるのは、その手で何年も練習を重ねた結果だと考えています。

興味深いのは、非利き手や肘で書いた「A」は形が崩れていても、それがAを描こうとしたものだとは分かる点です。

これは、脳が「Aとはどのような形か」という抽象的な情報を持っていても、その形を特定の手や肘で正確に実現する方法は、身体部位ごとに練習しなければ身につかないことを示唆します。

つまり、私たちは「どの形を描くか」は知っていても、使い慣れていない身体部位では、その軌道をどう再現すればよいのかを十分に学習していないのです。

この考え方によれば、利き手には一つの万能な器用さが備わっているのではありません。

文字を書く、箸を使う、ボールを投げるといった課題ごとの運動制御方法が、利き手側に少しずつ蓄積されていることになります。

ただし、今回の研究にも限界があります。

参加者は右利きの若年成人に限られ、各実験の人数も10~23人程度でした。

また、検証された課題も、腕伸ばし、棒の操作、「A」と「8」の書字に限られています。

指を一本ずつ動かす能力や、物体を安定して保持する能力など、利き手に関するすべての左右差を説明したわけではありません。

それでも今回の結果は、私たちが「利き手だから器用」と呼んでいる能力の少なくとも一部が、生まれつき備わった万能な才能ではなく、同じ側で繰り返してきた経験によって作られる可能性を示しています。

利き手の器用さとは、選ばれた手に積み重なった、長年の練習の記録なのかもしれません。

参考文献

Your Dominant Hand Isn’t Actually Hard-Wired, New Study Suggests
https://www.sciencealert.com/your-dominant-hand-isnt-a-hard-wired-preference-a-new-study-suggests-heres-why-its-better

元論文

Arm dominance is an emergent effect of practice executing complex trajectory shapes required by tools and objects
https://doi.org/10.1073/pnas.2601569123

ライター

矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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