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大学の後輩と遅くまで研究「うちで休んでいけばいい」と終電を逃した後輩に提案。翌日、この安易な一言で絶体絶命に

  • 2026.5.11

研究が長引いた夜

大学院の修士2年だった私は、研究室で卒論生のサポート役を任されていた。

担当に付いてくれた女性の卒論生とは、1年かけて並んで実験を進めるうちに、自然と互いを意識する間柄になっていた。穏やかで、芯の通った後輩だった。

その日も解析が立て込み、気づけば窓の外が真っ暗になっていた。

終電の時刻をとっくに回っている。

大学のすぐ近くで一人暮らしのアパートを借りていた私は、迷ったあげく彼女に声をかけた。

「うちで休んでいけばいい。明日また一緒に来よう」

翌朝、彼女は一度実家に戻ってから登校すると言い、最寄り駅で別れた。

私はそのまま大学へ向かった。空気はまだ冷たく、長い夜の疲れがじんわり肩に残っていた。

教授の口から告げられた一報

研究室のドアを開けた瞬間、空気が違うとわかった。同期も後輩も机の周りに集まり、ひそひそとざわついている。教授がこちらを見て、低い声で言った。

「彼女のご両親が警察に捜索願を出した」

息が止まりそうになった。前夜、彼女が帰宅しなかったことを心配したご両親が、朝一番で警察に届け出を出し、研究室にも問い合わせの電話が入っていたのだという。

(人生、終わった)

頭の中で警鐘が鳴り続けていた。

それでも口は勝手に動き、知らぬ存ぜぬで通すしかないと腹をくくる。

教授も同期も、彼女の最近の様子を根掘り葉掘り尋ねてくる。私は何も知らないという顔を作り、机の上の資料を意味もなくめくっていた。

電話越しに走った冷気

昼前、研究室の電話が鳴った。受話器を取った教授の表情が、ふっと緩んだ。彼女からだった。

「昨日は遅くなってしまったので、同好会の友だちの家に泊めてもらいました」

教授に直接、嘘の謝罪を入れていた。

あとで聞けば、私たちが駅で別れた直後、彼女は同好会の女友達に頼み込み、ほんの数時間で口裏合わせを済ませていたのだという。

教授は安堵し、捜索願も無事に取り下げられた。

受話器越しに伝わる彼女の落ち着いた声を聞きながら、私は心臓を握られたような心地でいた。一晩の判断ひとつで、研究も将来もすべてが消えかけていた。冷や汗がシャツに張りついて離れない。

あの瞬間まで、彼女のことを内気で控えめな人だと思い込んでいた。

けれど追い詰められたあの朝、彼女は一人で女友達に連絡を取り、台本を組み立て、教授を納得させる声色まで用意していた。

あれから何十年経っても、研究室の朝の空気を思い出すたびに肝が縮む。青春の甘さの裏側に、これほど薄氷の瞬間が潜んでいたのかと、今でも背筋が凍る。

※GLAMが独自に実施したアンケートで集めた、60代以上・男性読者様の体験談をもとに記事化しています

※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

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