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12歳のデザイナーも登場。今という時間を大切にする「3daysofdesign」

  • 2026.7.6
3daysofdesignの街中の様子。 photo: Stefania Zanetti

デンマークの首都コペンハーゲンで13回目となるデザインのフェスティバル「3daysofdesign」が6月10〜12日に開催された。家具やインテリアデザインの展示は、今では毎月のように世界の各都市で開催されるほどポピュラーになってきた。そうしたなかでも、コペンハーゲンの3daysofdesignの特徴はおそらくイベントそのものが町内会のように運営されていることだ。街中にある家具ブランドのショールームから、この時だけの展示会場までが、コミュニティのように手を取り合って、取材をするジャーナリストだけでなく、市民に向けてデザインのある暮らしを紹介した。

例年、テーマを設けているが、今年のテーマは「Make This Moment Matter(この時を意味あるものに)」だった。そこには、歴史や伝統によりどころを求めたり、未来に向けたものづくりに重きを置く動きが多いなか、今というこの時を大切にしよう、という思いが込められている。それゆえに多くの展示の中でも、個人的には人との出合いをもたらし、にぎわいを生むような家具やインスタレーションに引かれた。

「Drawing Room」と題した展示では、ソファ「Trace Modular」の周りにおのずと人が集まった。 © Adam Katz Sinding

たとえばデンマークのデザインスタジオTableauは、居合わせた見知らぬ人たちのあいだに、自然な交流を生み出す巨大なシーティングシステム「Trace Modular」を発表した。Tableauのデザインをもとに、イタリアの家具ブランドSecolo が製作した、曲線的なユニットを自由に組み合わせられるソファだ。

家具のデザインでは、既存の家具の型をを起点に、綿密にデザインを検証していくことが多い。一方、Tableauが大事にするのは、直感と即興性だ。創業者のジュリウス・ヴァルンス・イーヴァシャンはフラワーアーティストでもあり、花びらの自然な輪郭を思い浮かべながら、フリーハンドで一筆書きのように家具の形を描いていく。

そうして生まれた有機的な曲線のユニットをつなげると、約10メートルにおよぶ島のような形のソファになる。可動式の背もたれは、座る人や使い方に応じて位置を変えることができて、展示期間中も人々の動きに合わせて配置が変わっていった。

横一直線に並んで座るソファとは異なり、さまざまな方向に身体が向き合うため、そこには偶発的な会話が生まれる。同時に、広い空間を緩やかに区切る間仕切りとしても機能する。また天井には、ソファと同じほどの広がりをもつ照明が設置され、均質な光が全体を包んでいた。どこに座っても顔に強い影が落ちることはなく、そこに集う人の姿が主役になる空間がつくられていた。

Galleri Sonjaによる「Connected」展の展示風景。奥の壁には、野草で編んだSara Martinsenのタペストリーと照明シェードも見える。 Photo: Karl Tranberg

今という時を大切にするという気持ちは、自然を相手にするといっそう強く感じられる。デンマークのボーンホルム島にあるGalleri Sonjaは、展覧会「Connected : A Dialogue Between Nature and Craft」を通して、クラフト作家と土地の自然とのつながりを紹介した。

約4万人が暮らすボーンホルム島では、100年以上前から、砂や土といった身近にある素材を使ったガラス工芸や作陶が盛んだという。Galleri Sonjaを主宰するバーギット・リングバイ・ペデルセンはこう話す。「手仕事とは、身の回りにある自然の素材に形を与えることです。よいものをつくれば、それを介して人と人もつながっていきます」

「Connected」展のシュウメイギクの綿毛の標本。 Photo: Karl Tranberg

参加した作家のひとりであるデンマークのアーティスト、メッテ・スキャーベックは、ユーカリの花やシュウメイギクの綿毛を用いた植物標本を見せていた。一方、素材研究に取り組むサラ・マーティンセンが発表したのは、野草を編んだタペストリーとランプシェードだ。

「自然素材には、制約があるからこそ惹かれます。金属などの人工的な素材とは異なり、いつ採取したらいいのか、常に自然と対話しなければなりません。素材本来の魅力を感じてもらえるよう、できるだけ加工しないように作っています」とマーティンセンは言う。

aarticlesによる「Composition」展の展示風景。 Photo courtesy of aarticles

あるいは、出自も製作年代もわからない民具を、現代の視点から捉える展示も印象的だった。デンマークのデザイン&クラフトギャラリーaarticlesは、「Composition」と題した展覧会で、旅先で手にした民具と現代作家の新作を、ひとつの住空間の中で交えて展示した。

韓国のアーティスト、ユン・ヨドンによる中世の器を思わせる金属製のカップやコーヒードリッパー、アメリカの造形作家ヴィンス・スケリーがチェスの駒から着想した木製の造形物、そして日本の備前窯に滞在して作陶したシャーレン・ノザワによる備前焼。それらが、来歴のわからないスツールや籠と並置されていた。現代作家の作品と無名の生活道具を隔てるヒエラルキーを取り払い、個々の来歴や物語よりも、隣り合うもの同士の形や素材、色の響き合いから、ものを見つめ直す展示だった。

ソル・リーバッケン・カリンによる照明「Soralis」。 Photo courtesy of Blond

先のことを考え、慎重に算段する大人よりも、今を精いっぱい生きているのはティーンエージャーではないだろうか。スウェーデンのブランドBlondが発表した照明「Soralis」をデザインしたのは、12歳のソル・リーバッケン・カリン。日頃からドローイングを描いているソルは、具象画ではなく抽象的な絵が好きで、その流れからいつか照明器具を作ってみたいと考えるようになったという。

照明デザイナーである父、ダニエル・リーバッケンの手ほどきのもと、ドローイングをブラッシュアップし、仕組みや素材を検証して、ひとつのプロダクトへと結実させた。デザインから実物をつくるまで6カ月というスピード感も、通常のものづくりでは考えられないこと。手を動かし、すぐに形へとつなげる、そのためらいのない瞬発力も頼もしい。

NIKO-JUNEによる「Bouquet Theory Table」。 Photo: Kanae Hasegawa

花畑で花を選び、ブーケを束ねるように、手近な素材やその場にある材料から家具を生み出すデザイナーもいた。コペンハーゲンを拠点とするNIKO-JUNEは、合同展「The Other Circle」で、サイドテーブル「Bouquet Theory Table」を発表した。拾い集めたスチールの板材を折り曲げて脚を作り、同じくスチールで形づくった花びらのような枠に、溶かしたガラスを流し込んでテーブルトップに仕立てている。余材を組み合わせながら、これほど愛らしいテーブルができるのだと感心。

SpaconとMuutoによる「Close to Heart Chair」。座面チューブの断面がハート型に。 Photo: Laura Alvarez

同じく合同展で目を引いたのが、アルミニウムチューブの断面がハートになった椅子「Close to Heart Chair」。コペンハーゲンの空間デザイン事務所Spaconが、家具メーカーMuutoとともに手がけたものだ。ハート形の断面は、装飾性だけでなく、椅子の構造面でも合理的。

コペンハーゲンのイタリア大使公邸で展示された「Sole Vince The Italian Table」。 Photo: Franco Zanussi
1921年創業の刺繍工房、Anna Montiが手がけたユーモアあふれるテーブルクロス。 Photo: Kanae Hasegawa

ヨーロッパの人々が、ディナーのために時間をかけて食卓を整えるのを見ると、どれほどその時間を大切にしているのかがうかがえる。デンマークとイタリアを拠点にするデザインスタジオ、Rinato Milanoは、イタリア式の晩餐の愉悦を伝えるテーブルセッティング「Sole Vince The Italian Table」を、コペンハーゲンのイタリア大使公邸で発表した。

ヒントにしたのは、イタリアで広く親しまれているボードゲーム「Game of the Goose」。らせん状の盤上を駒が進む構成になぞらえ、人が集い、食卓を囲む楽しさをディナーテーブルへと移し替えた。コーヒーを飲む場面やパスタを調理するシーン、イタリア特有の身振りを刺繍したテーブルクロスなどが配され、今にも会話が聞こえてきそうなセッティングに仕上げられていた。

Hearst Owned
展覧会「Project Materia」で発表された家具。Jacob Egebergによる「Monolith Table」(上)とOliver Thygesenによる「Rooted」(下)。 photos: kanae hasegawa

現代のデザインに欠かせない視点のひとつが、環境への配慮だ。多くの家具ブランドやデザイナーが持続可能なものづくりに取り組むなか、印象に残ったのがデンマークのブランド、Materだった。

Materは2006年の創業以来、環境に配慮した素材で家具づくりを行ってきた。デンマークは環境先進国というイメージがあるが、当時、家具業界で持続可能性を追求する企業はほとんどなかったと、Materのトゥリン・マーク・エグバーグは振り返る。そこで同社は、環境政策で先行していた自動車産業を参考に、バージン原料ではなく、リサイクル素材を用いる循環型の生産を掲げて出発した。

創業から20年、「Project Materia」展で発表したのは、コーヒー豆の殻やおがくずと、新たに開発したバイオプラスチックを混ぜた素材「MatekTM」による家具だ。 土に還るこの素材は、配合によって多彩な色や表情を生み、人工大理石のテラゾーを思わせる上質な仕上がりになる。

コーヒー文化が根づくデンマークらしく、その副産物を新たな素材として生かしながら、環境配慮を前面に押し出さなくても成立するデザイン性の高い家具に仕上げていたことに感心した。

「Project Materia」とMaterが開催したディナーの様子。 Photo courtesy of Mater

そして多くの家具ブランドが、ゆかりのあるデザイナーや友人たちを招いて、ロングテーブルを囲むディナーを開いていたことも印象的だった。ひとつの長い食卓に集い、時間を共有する。その光景には、どこか中世の祝宴を思わせる趣があり、誰かとともに過ごすことへの感謝が感じられた。

英語で「現在」を意味する言葉のひとつに、Presentがある。Nowではなく、Present。それは今というこの時が私たちに与えられたかけがえのないプレゼントだから、大切に生きよう、という意味と無関係ではない気がした。

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