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天王寺屋、ヨーロッパに舞う!|歌舞伎俳優・中村鷹之資さんインタビュー

  • 2026.5.30
Ⓒ松竹

2026年4月、フランス・パリ、イタリア・ローマ、ドイツ・ケルンの三都市での公演を行った中村鷹之資さん。現地の方々の熱い反響や素敵な出会い、海外公演を体験しての思いを伺いました。

撮影=セドリック・ディラドリアン

「女方ができるまで」を舞台上で実演

今回の公演はパリ、ローマ、ケルンの国際交流基金日本文化会館で開催されました。まずは女方の化粧や衣裳の着付けを舞台上で実演する『女方ができるまで』を披露し、そのあと『藤娘』、パリではさらに『石橋(しゃっきょう)』も上演しました。『女方ができるまで』の実演では、素顔で登場した鷹之資さんが舞台上で顔(化粧)をし、衣裳と鬘(かつら)をつけて『藤娘』の拵(こしら)えになるまでをレクチャーしながら完成させていきました。

「女方ができるまで」の冒頭、“附(つ)け”の音とともに舞台に登場し見得をする鷹之資さん。各国語での自己紹介も大きな拍手で迎えられました。 Ⓒ松竹
「普段、楽屋で拵えをするのとは勝手が違うので緊張しました」と鷹之資さん。 Ⓒ松竹

「初めてご覧になる方にとっての歌舞伎の印象が決まる瞬間にもなりますので、責任を感じました。『女方ができるまで』では、日本のお客様では常識的に理解できる言葉でも海外の方にはどう説明するのが良いか、台本の作成にも参加して入念に準備しました。たとえば“お相撲さんが髪を結うときに使うびん付け油を化粧の下地に使う”と言っても海外の方にはイメージしづらいと思うので“ペースト状の硬い油を溶かして使います”といったように。また、我々は首の後ろの背中のラインのことを “襟”と言いますが、これを“背中”と訳してしまってはいけないのではないかなど、通訳の方が入るので言葉の選び方にも気をつけ、現地でも相談しながら進めました」

青年が舞台上で美しい女方に変化していく様子に観客は興味津々。 Ⓒ松竹

公演を通して感じたのは、現地の方々の芸術に対する関心の高さ

「記者会見や、ローマでは大学生の方々への講演もさせていただいたのですが、皆さん視点が鋭いんです。パリでは映画『国宝』が公開されていたこともあり『映画「国宝」は歌舞伎の血筋でない人が活躍するストーリーでしたが、鷹之資さんは歌舞伎の家に生まれた人。お父様からどういうことを教わって何を大事に歌舞伎をなさってるんですか』という質問が。ローマでは大学生から『歌舞伎はお芝居とダンス(舞踊)が一体化した芸術だと思うけれど、演じる側はどのように分けているのですか』と聞かれました。とにかく質問が鋭いし、レベルが高いんです。

特に難しかったのは歌舞伎の歴史についての質問でした。『歌舞伎は(女性である)出雲の阿国から始まったものだが、幕府によって女性の出演が禁止されたことで男性が女方を勤めるようになった』と説明したのですが、女性の生徒さんから『現代では誰も禁止していないのに、なぜいまだに男性だけで演じているのか』と質問されました。ジェンダーの問題はいま世界的に注目されているので、軽々しく答えるわけにはいきません。悩みましたが、『歴史の中で先人たちが数々の工夫を重ねて確立してきた女方は、男性が女性らしさを極めた結果の芸。歌舞伎では男が女をやるというところに意味があると思う』と答えました。

また、ケルンで通訳をしてくださった大学の先生は、元禄時代に活躍した芳澤あやめが記した女方の心得『あやめぐさ』を教材に使っていらっしゃいました。すごいですよね。普段は立役を中心にさせていただいている僕自身、あらためて“女方とは何か”を学び直す機会になりました」

パリでの記者会見の模様。 Ⓒ松竹
ローマでは大学生に向けて講義を行った。 Ⓒ松竹

国ごとに異なる歌舞伎への反応

どの国でも観客の芸術文化に対する意識の高さを感じつつ、その反応は国、都市によって違いもあったそう。

「パリでは真剣に見定められているな、と感じました。やはり芸術の都なんですね。ローマではイタリアの方の明るい気質のせいか、反応もいちばん大きくエンターテイメントとして楽しんで見てくださっているなという印象が強かったです。ケルンのお客様は、日本の感覚に近かったかもしれません。でも静かなのかなと思ったら、終わったあとの拍手はすごくて、カーテンコールもいちばん回数が多かったです」

今回の『藤娘』は古風な「潮来出島(いたこでじま)」のスタイルで上演された。 Ⓒ松竹
パリ公演では『石橋』も上演。美しい女方の『藤娘』から一転、勇壮な獅子の毛振りに客席は大いに盛り上がりました。「父から生前に唯一、直接稽古をつけてもらったのが、この『連獅子』の毛振りでした」(鷹之資さん) Ⓒ松竹

劇場文化に思いを馳せて

常日頃から文化に触れ、芸術作品が身近にあるヨーロッパの方々の暮らしに刺激を受けたという鷹之資さん。パリでは空き時間にムーラン・ルージュやオペラ座にも足を運びました。

モンマルトルの老舗、ムーラン・ルージュでは華麗なショーを鑑賞。 写真提供=オフィスタカヤ

「ムーラン・ルージュのショーはとにかくきらびやか。光り輝いていて圧倒されました。舞台で踊っている方々がエンターテイメントとして自信や誇りをもっているからこそ、ここまでの水準を保ち、いまもなお生きているのだなとひしひしと感じました」

1875年に開場したオペラ座ガルニエ宮。シャガールによる天井画はオペラやバレエの作品がモチーフになっている。 写真提供=オフィスタカヤ
写真提供=オフィスタカヤ

オペラ座では劇場文化についても思いを巡らせたそう。

「エントランスから入ると大階段があり、豪華絢爛な廊下を抜け劇場内に足を踏み入れると、真っ赤な客席とシャガールの天井画が迎えてくれます。観客が舞台を見るまでにここまでの高揚感と期待感を持たせるのはすごいなと思いました。ガルニエはドレスを着た女性が立ったときに裾が最高にきれいに広がるように、と大階段を設計したのだそうです。日本でいえば歌舞伎座も、演目にちなんだ柄のきものを着るなどおしゃれをしていらっしゃるお客様が多いですが、そういう劇場はやはり重要ですよね。パリの方々は歌舞伎という日本の文化を柔軟に受け入れ、共感して、なぜだと思う部分は率直に疑問をぶつけながら見ていらっしゃいました。その背景にはレベルの高い劇場文化があるからだ、ということに、すごく刺激というか衝撃を受けました」

数々の感動や素敵な出会いは、これからの舞台の糧になるはずです。

パリで公演中の4月11日には、27歳の誕生日を迎えました。「ケーキと27個のいちご大福でお祝いしていただきました。パリではルーブル美術館や、モネの睡蓮の庭で知られる郊外のジヴェルニーにも足をのばし、忘れられない日々になりましたね」。日本文化会館の楽屋にて、バースデーケーキを前に。 写真提供=オフィスタカヤ

ヨーロッパで、父・中村富十郎さんにつながる縁

訪問先では父である故・中村富十郎さんとの縁を感じる出来事も。

「父は戦後間もないころに、母親である初代吾妻徳穂と「アヅマカブキ」として欧米の各都市を回るなど海外公演の多い人だったのですが、1997年にはパリのシャトレ劇場で先代の中村雀右衛門のおじさまと『二人椀久(ににんわんきゅう)』を踊っています。僕もそれは知っていたので、今回シャトレ劇場を見に行きましたが、さらに父は当時完成したばかりだったパリの日本文化会館で講演も行っていたと館長さんに伺って驚きました」

イタリアでも不思議な出会いが。

「講義させていただいた大学でご挨拶した教授は、父が1996年のイタリア公演に行った際に通訳を務めてくださった方でした。いまはイタリアにおける日本文化の第一人者になられているそうです。そして公演のあとだったかな、僕に会いたいと訪ねてきた若い学生の方は『勧進帳』の富樫について研究していて、そのきっかけになったのが父が富樫を演じたときの映像だったそうなんです。それと知らずに今回の公演を観にきたら富十郎の息子だったと感激して震えていらして、こちらも思わぬご縁に嬉しくなりました」

お父様の富十郎さんは、鷹之資さんが10歳のときに逝去されていますが、海外公演の思い出は幼いころにたくさん聞かされていたそうです。パリでは家族でお父様のお話に出てきたバーも訪ねました。

「『ホテル・リッツ』の中にある『バー・ヘミングウェイ』に行きました。ホテル自体は豪華絢爛なのですが、バーの中だけは船の中のような穏やかな空気が流れていました」

写真提供=オフィスタカヤ
写真提供=オフィスタカヤ

三都市の文化や美食も満喫!

今回のツアーでいちばんおいしかったものとの出会いも、パリで。

「『ル・プロコープ』という歴史あるカフェレストランで食べた牛のタルタルが最高でしたね。“ザ・フランス”という何とも言えないおいしさでした」

ナポレオンも通ったといわれる歴史あるカフェ「ル・プロコープ」。 写真提供=オフィスタカヤ
鷹之資さんおすすめのタルタルステーキ。 写真提供=オフィスタカヤ

ローマではサン・ピエトロ大聖堂を見学。

「昼間に行ったら行列がすごくて、公演の前だったので諦めて帰ったのですが、朝なら空いていると教えてくれる方がいました。そこで朝 6時半ぐらいにホテルを出て再挑戦しました。そうしたら人も少なくて、ちょうど朝日が昇ってくるタイミングで鐘の音が流れて。神様って本当にいらっしゃるのだなという気持ちになりました。ミケランジェロの作ったドームも祭壇も素晴らしく、聖母マリアがキリストを抱きかかえている『ピエタ』の像は彼が20歳そこそこで作ったと聞いて、天才だなと思いました」

ケルンで訪れたケルン大聖堂でも宗教が人々の生活に根付いているのを感じました。

「ゴシック様式の素晴らしい建築で、ステンドグラスの光が反射しているのが美しかったです。どの都市でも教会の中では、あちこちでお祈りをしている方がいて、生活や文化と宗教が結びついていることを強く感じました。もちろんビールもしこたまいただきましたよ(笑)。また、ドイツは音楽の本場でもあるので、今回は録音した音源での公演でしたが、いつか長唄さんや囃子方さんたちとも同行して、生音での歌舞伎音楽をどう感じるかも聞いてみたいですね」

ローマのスペイン階段にて、妹で舞踊家の芳澤壱ろはさんと映画『ローマの休日』ごっこ。「オードリー・ヘップバーンに思いを馳せました。残念ながら出会いはなかったですけれど(笑)」 写真提供=オフィスタカヤ
ケルンの大聖堂にて。 写真提供=オフィスタカヤ

鷹之資さんが今後目指すもの

実り多いヨーロッパ三都市での公演から帰国し、取材したとき鷹之資さんは5月は歌舞伎座に出演中。

「昼の部『南総里見八犬伝』『六歌仙容彩(ろっかせん すがたのいろどり)』と夜の部『助六由縁江戸桜(すけろくゆかりのえどざくら)』に出演しています。三代目尾上辰之助さんの襲名披露が行われているおめでたい團菊祭に出演させていただけるのは嬉しいですね。お父様である松緑のお兄さんには大変お世話になっていますし、辰之助さんとも共演させていただく機会の多い間柄。辰之助さんとはいつか一緒に海外公演に行けたらいいね、という話もしたのですが、ただ彼は飛行機が苦手なので13時間耐えられるかな……(笑)」

そして7月には歌舞伎座で『歌舞伎十八番の内 鎌髭(かまひげ)』に挑みます。

「『鳴神(なるかみ)』に続いて歌舞伎十八番の演目をさせていただけるとは本当にありがたいことです。荒事らしい大らかさを、ユーモラスな部分を含めて皆さまにどうお見せするか頑張って稽古していきます」

鷹之資さんが今年1月に勤めた『鳴神』はこれまで松竹の海外公演でも人気を博してきましたが、次にどこかで歌舞伎を上演するとしたら、どんな演目を演じてみたいでしょうか?

「舞踊なら父が踊った『二人椀久』。『船弁慶』もドラマティックで良さそうですね。悲劇の真骨頂とも言える『色彩間苅豆(いろもようちょっとかりまめ)~かさね』も、ヨーロッパのお客様なら理解していただけるのではないでしょうか。お芝居をもっていくとしたら、僕はやっぱり『勧進帳』。歌舞伎らしさがいっぱい詰まっていますから。憧れの演目ですが、いつか日本で『勧進帳』をさせていただけるようになったら、それを向こうでも上演できたらと思います。あとは『俊寛』も海外公演ではよく上演されてきたと聞いています。シェイクスピア作品をご覧になっている方々には『勧進帳』の台詞劇や『俊寛』のドラマ性にも興味をもっていただける気がします」

ケルンの日本文化会館で舞台上から見た客席。 写真提供=オフィスタカヤ

今回の「MEET KABUKI -The Art of “Onnagata” Europe Tour 2026-」を経て、心に残ったことは?

「パリ、ローマ、ケルンの方々の舞台芸術と向き合う姿に触れて、僕たち日本人ももっと自分の国の文化に対して意識を高く持たなければいけないと再認識しました。歌舞伎は400年の歴史がありますが、これからどうするかというのは本当に皆で考えていかなければならない時期だと思うんです。そんなときにこの年齢でヨーロッパ公演を経験させていただいたのは、自分自身にとってもものすごく意味のあることでした。せっかく貴重な経験をさせていただいたので、これからは歌舞伎というものをどう継承し次の世代につないでいけるか、同時にグローバルな時代にどうやって海外に日本の文化を伝えていくことができるかを考え、生かしていきたいと思います」

撮影=セドリック・ディラドリアン

なかむらたかのすけ〇1999年4月 11 日生まれ。五代目中村富十郎の長男。2001年4月歌舞伎座『石橋』の文珠菩薩で初代中村大を名のり初舞台。2005年 11 月歌舞伎座『鞍馬山誉鷹(くらまやまほまれのわかたか)』の牛若丸で初代中村鷹之資を披露。2013年より自身の勉強会「翔之會」を主宰。屋号は天王寺屋。

歌舞伎座「七月大歌舞伎」

2026年7月2日(木)~26日(日)(昼の部 11時~、夜の部 16時15分〜)
※9日(木)、17日(金)は休演日
昼の部:『末広がり』『時今也桔梗旗揚』『元禄忠臣蔵 御浜御殿綱豊卿』
夜の部:『鎌髭』『神明恵和合取組』『春興鏡獅子』

出演/片岡仁左衛門、中村梅玉、中村歌六、中村扇雀、中村錦之助、松本幸四郎、市川團十郎、尾上松也ほか

料金/5,000円~20,000円
問い合わせ/チケットホン松竹 tel.0570-000-489(10時〜17時)
公演詳細はこちら

撮影=セドリック・ディラドリアン ヘア&メイク=山口公一 (slang) 取材・文=清水井朋子 編集=本田リサ(婦人画報編集部)

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