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ワタリガラスは「死骸が集まる場所」を予測していた

  • 2026.5.13
ワタリガラスはオオカミを追跡していたわけではない / Credit:Canva

オオカミが獲物を倒すと、どこからともなくワタリガラスが現れます。

雪原の上空を旋回し、黒い影のように集まってくる彼らの姿は、イエローストーン国立公園ではおなじみの光景です。

生物学者たちは長年、「ワタリガラスはオオカミを尾行し、おこぼれを狙っているのだろう」と考えてきました。

しかし、ウィーン獣医大学(University of Veterinary Medicine Vienna)などの国際研究チームによる最新研究は、その常識を大きく覆しました。

研究は2026年3月12日付で科学誌『Science』に掲載されています。

目次

  • ワタリガラスは「オオカミを尾行していなかった」と判明
  • ワタリガラスはオオカミの行動を手掛かりに「死骸が見つかりやすい場所」を覚えている

ワタリガラスは「オオカミを尾行していなかった」と判明

ワタリガラスは、カラスの仲間の中でも大型で、知能の高さでも知られる鳥です。

これまでの研究では、食べ物の隠し場所を記憶するなど、優れた記憶力を持つことが示されてきました。

また彼らは、「スカベンジャー(腐肉食動物)」としても有名です。

特にイエローストーンでは、オオカミが獲物を倒すとすぐにワタリガラスが集まってくることから、研究者たちは長い間、ワタリガラスはオオカミを直接追跡していると考えていました。

そう考えられてきたのには理由があります。

オオカミは大型動物を狩り、その死骸の一部を残します。

ワタリガラスはその死骸を利用できるため、オオカミの後ろをついていけば効率よく食事にありつけるはずだからです。

しかし実際には、それを示す直接的なデータはほとんどありませんでした。

そこで研究チームは今回、イエローストーン国立公園で69羽のワタリガラスを捕獲してGPS追跡装置を装着し、すでに追跡されていた20頭のオオカミや11頭のピューマのデータと合わせて、2年半にわたり移動経路を比較しました。

研究者たちは、ワタリガラスは本当にオオカミを尾行しているのか、どのように死骸へたどり着いているのか、どんな場所を優先的に利用しているのかを調べたのです。

その結果、意外な事実が見えてきました。

研究期間中、ワタリガラスがオオカミを長時間にわたって追跡した例は、ほぼ1回しか確認されませんでした。

つまり彼らは、私たちが想像していたほど“オオカミの後ろを飛び回っていた”わけではありませんでした。

それにもかかわらず、ワタリガラスは観察されたオオカミの獲物のほぼ半数で、死後7日以内に確認されていました。

では彼らは、一体どうやって獲物の場所を見つけていたのでしょうか。

ワタリガラスはオオカミの行動を手掛かりに「死骸が見つかりやすい場所」を覚えている

研究チームは、オオカミが獲物を倒した地点を地図上に重ね合わせて分析しました。

具体的には、調査地を9平方kmごとの区画に分け、どこで死骸が多く見つかるのかを調べたのです。

すると、死骸は完全にランダムに散らばっていたわけではありませんでした。

オオカミの獲物が比較的多く集まる場所があり、ワタリガラスはそうした場所を繰り返し訪れていたのです。

中には、最大155km離れた場所から死骸へ向かった個体も確認されています。

しかも飛行ルートは、無作為に探し回るような動きではなく、目的地へ向かう“直行便”のような軌跡を示していました。

研究者たちは、この行動に「空間記憶」、つまり過去に訪れた場所やそこへの行き方を覚える能力が関わっていると考えています。

つまりワタリガラスは、「今オオカミがどこにいるか」を追っていたのではなく、「オオカミの獲物が見つかりやすい場所はどこか」を学習していた可能性があるのです。

これはかなり高度な認知能力です。

死骸は長期間残るわけではなく、いつ現れるかも分かりません。

そのため従来、生態学では「予測しにくい資源」と考えられてきました。

しかし今回の研究は、個々の死骸は偶然でも、死骸が現れやすい場所にはある程度のパターンがあることを示しています。

ワタリガラスは、そのパターンを景観レベルで理解していたのかもしれません。

また研究では、ワタリガラスがピューマよりもオオカミの獲物と強く結びついていることも示されました。

オオカミは群れで大型動物を狩り、比較的開けた場所に大きな死骸を残します。

一方、ピューマは単独で狩りを行い、獲物を隠す傾向があります。

そのため、オオカミの獲物はピューマの獲物に比べてワタリガラスに見つかりやすく、利用しやすかった可能性があります。

つまりワタリガラスは、ただ肉を探していたのではなく、より見つけやすい食料源を経験から選んでいたのかもしれません。

今後は、こうした空間記憶を他の腐肉食動物も利用しているのか、またワタリガラスが地形や過去の経験をどの程度まで組み合わせているのかを調べることで、動物の食料探索の仕組みがさらに見えてくるでしょう。

参考文献

Scientists Thought Ravens Followed Wolves for Food. They Were Wrong. Ravens Predict Them
https://www.zmescience.com/ecology/animals-ecology/scientists-thought-ravens-followed-wolves-for-food-they-were-wrong-ravens-predict-them/

Instead of tracking wolves to prey, ravens remember — and revisit — common kill sites
https://www.eurekalert.org/news-releases/1119128

元論文

Ravens anticipate wolf kill sites across broad scales
https://doi.org/10.1126/science.adz9467

ライター

矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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