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最悪な職場ストレスは「過負荷」ではなく「役割の曖昧さ」だった、60年分のデータで判明

  • 2026.5.13
過負荷よりも役割の曖昧さが職場で大きなストレスとなる / Credit:Canva

「職場でのストレス」の原因として、すぐに「残業」とか「過負荷」というワードが思い浮かぶかもしれません。

しかし最新研究によると、人を最も消耗させるのは、単純な仕事量ではなく「自分が何を求められているのか分からない状態」かもしれません。

米オーバーン大学(Auburn University)を中心とする研究チームは、過去60年間に行われた職場ストレス研究を大規模に分析しました。

その結果、「役割の曖昧さ(role ambiguity)」が、他の代表的な職場ストレス要因よりも、多くの個人・組織面の結果に強く関係していることが分かったのです。

研究は2026年4月10日に正式版として、『Journal of Vocational Behavior』に掲載されました。

目次

  • 60年分・約79万人のデータを統合した「職場ストレス」分析で、「役割の曖昧さ」がトップに躍り出る
  • 「忙しい」より「何をすればいいか分からない」が人を壊す

60年分・約79万人のデータを統合した「職場ストレス」分析で、「役割の曖昧さ」がトップに躍り出る

職場ストレスの研究では、長年「役割ストレス(role stressor)」という概念が重視されてきました。

これは簡単に言えば、「仕事上で求められる役割そのものがストレス源になる」という考え方です。

今回の研究では、その中でも特に代表的な3種類の役割ストレスが比較されました。

1つ目は「役割の曖昧性(role ambiguity)」です。

これは、「自分が何をすべきなのか分からない状態」を指します。

例えば、仕事の優先順位が不明だったり、上司によって指示が違ったり、評価基準が曖昧だったり、「自主的に動いて」とだけ言われたりする状況です。

2つ目は「役割の葛藤(role conflict)」です。

これは、互いに矛盾する要求を同時に受ける状態を意味します。

「急げ」と「ミスするな」を同時に求められたり、複数の上司から違う指示を受けたり、売上向上とコスト削減を同時に強く求められたりするような、“板挟み”に近いストレスです。

3つ目は「役割の過負荷(role overload)」です。

これは最もイメージしやすいストレスで、単純に仕事量が多すぎる状態を指します。

締切に追われ続けたり、人手不足によって常に業務量が限界を超えていたりするケースです。

研究チームは、「この3つは本当に同じ“ストレス”として扱ってよいのか」を検証しようとしました。

そのために研究者たちは、1964年から2024年までに発表された役割ストレス研究を徹底的に収集しました。

ただし、実際に働いている人を対象としていること、統計データが明確であること、役割ストレスを測定していることなどの条件を満たす研究だけが採用されました。

最終的に分析されたのは、515研究、588サンプル、合計78万7959人という非常に巨大なデータ群でした。

これは職場心理学分野でもかなり大規模なメタ分析です。

そして研究チームは、それぞれの役割ストレスが、バーンアウト、離職意向、心理的苦痛、健康悪化、業務パフォーマンス、組織への貢献行動などとどの程度関係しているかを、過去研究のデータを統合して比較しました。

その結果、多くの従業員や組織全体への影響において、特に大きな悪影響と結びついていたのは「役割の曖昧性」だったのです。

いったいなぜでしょうか。より詳細な結果を次項で見ていきましょう。

「忙しい」より「何をすればいいか分からない」が人を壊す

今回の研究で特に興味深いのは、「仕事量の多さ」が必ずしも最も広い悪影響と結びついていたわけではなかった点です。

むしろ、多くの個人・組織面の結果に強く影響していたのは、「自分は何を期待されているのか分からない」という不確実性でした。

研究では、役割曖昧性が強いほど、仕事の成果や「会社のためにもう一歩頑張ろう」という行動が下がりやすい傾向が示されました。

これは少し考えると納得できます。

例えば、仕事量が多くても、やるべきことが明確で、成功基準が分かり、優先順位が整理されている環境では、人は「大変だけど進めている」という感覚を持ちやすくなります。

しかし逆に、何を優先すればいいか不明で、評価基準が曖昧で、正解が見えず、指示が人によって変わる状態では、人は常に「これで合っているのか?」と考え続けることになります。

そのため、仕事を進めていても安心感を得にくく、判断のたびに余計な負担がかかりやすくなります。

この“終わりの見えない不安”が、慢性的なストレスにつながる一因になると考えられます。

一方で、「役割の葛藤」はバーンアウトや心理的苦痛、離職したい気持ちと特に強く関係していました。

矛盾する要求を同時に受け続けることで、「どう頑張っても誰かを満足させられない」という感覚が生まれやすいためだと考えられます。

また、「役割過負荷」は、身体的・精神的な健康問題と関係していました。

大まかに言えば、役割曖昧性は“不安型”、役割葛藤は“板挟み型”、役割過負荷は“疲弊型”のストレスとして理解すると分かりやすいかもしれません。

この研究結果を現代の職場に当てはめるなら、裁量労働やリモートワーク、自律性を重視する働き方についても考える必要があります。

本来、「自由にやっていい」「主体的に動いて」「自分で考えて」という言葉は、働く人の力を引き出すためのものです。

しかし、成功条件や役割定義が共有されていないまま自由だけが与えられると、その自由は「常に正解を探し続ける不安」に変わってしまう場合があります。

今回の研究は、「働きやすさ」とは単に仕事量を減らすことだけではなく、役割を明確にし、期待値を共有し、評価基準を分かりやすくすることも重要だと示唆しています。

人間を最も疲弊させるのは、「忙しさ」そのものではなく、“どこへ向かえばいいのか分からない状態”なのかもしれません。

参考文献

60 years of data reveal the biggest source of workplace stress
https://sciencex.com/news/2026-05-years-reveal-biggest-source-workplace.html

元論文

A meta-analytic review of 60 years of role stressor research
https://doi.org/10.1016/j.jvb.2026.104234

ライター

矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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