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マルジェラからドリス・ヴァン・ノッテン、ヴァレンティノ、スキャパレリまで── ファッションとアートの現在を映す7つの展覧会

  • 2026.4.6

今、いちばん面白い場所にあるのは、デザイナーたちが思考を託してきた“服”かもしれない。ファッションは身体を離れ、アートと交差しながらそのかたちを変え続けている。その動きを体感できる7つの展覧会を紹介する。

Image courtesy of The Metropolitan Museum of Art

2026年、展覧会のリストを眺めていると、いつのまにか“服”があちこちに現れてくることに気づく。ロンドンではスキャパレリがシュルレアリスムとともに再読され、ヴェネチアではドリス・ヴァン・ノッテンが美をめぐる実験を仕かけ、ローマではヴァレンティノの遺産が都市へと広がっていく。ニューヨークではイリス・ヴァン・ヘルペンが、衣服をほとんど科学のように扱っているのも興味深い。そして東京では、マルタン・マルジェラが“家”という親密な空間を舞台に、衣服の外側へと広がる思考を見せる。

かつて“着るもの”だったファッションは、いまや空間となり、装置となり、ときに社会と接続するプロジェクトへと変わりつつある。アートが服に近づいたのか、それとも服がアートに歩み寄ったのか。その往復のなかで、デザイナーにとってアートがいかに創造の源であり続けてきたのかが見えてくる。ここでは、そんなファッション×アートの現在地を映し出す7つの展覧会を紹介する。

photo: Pierre Anton

マルタン・マルジェラ「MARTIN MARGIELA AT KUDAN HOUSE」九段ハウス(東京)

九段ハウスで開催される「MARTIN MARGIELA AT KUDAN HOUSE」は、ファッションの歴史に決定的な転換をもたらしたデザイナー、マルタン・マルジェラの日本初となる大規模個展だ。1988年にメゾンを設立して以来、裏返しの縫製や再構築、匿名性といった手法によって、衣服の前提そのものを問い直してきた彼は、いまなお“服とは何か”を更新し続ける存在であり続けている。

2008年にファッション界を離れて以降、マルジェラはアーティストとして活動の軸足を移し、身体や不在、時間、痕跡といった主題を探究してきた。本展ではコラージュや彫刻、映像など多様な手法による作品が、1927年竣工の歴史的邸宅という空間に点在するように出現。生活の記憶を宿す部屋に作品が入り込むことで、日常と非日常の境界が揺らぎ、見慣れたものが別の意味を帯びてくるだろう。

もともと彼の創作では、既製品の転用や解体、再構成といった行為を通じて、平凡なものを異化する視点が貫かれてきた。その思考はファッションの領域を超え、いまや美術の文脈へと滑らかに接続されている。本展の展示構成もまたアーティスト自身によって手がけられ、邸宅全体をめぐる体験そのものがひとつの作品として設計されている。四半世紀前、東京・恵比寿の住宅にショップを構えたマルジェラが、再び“家”という場所を舞台に選んだことも示唆的だ。親密な空間のなかで、衣服の外側へと広がった彼の思考に触れるとき、その革新性がいかに持続的なものであったかが実感される。

会期:4/11〜4/29
会場:九段ハウス(東京都千代田区九段北1-15-9)
観覧料:一般¥2,500

Tears dress with veil, designed by Elsa Schiaparelli and Salvador Dalí, summer 1938 Photo: © Emil Larsson

エルザ・スキャパレリ「Schiaparelli: Fashion Becomes Art」ヴィクトリア&アルバート博物館(ロンドン)

「私にとってドレスをデザインすることは、職業ではなく芸術なのです」──エルザ・スキャパレリ(1890〜1973)のこの言葉は、衣服が思考や感覚の延長として立ち上がる瞬間を示した。

ロンドンのヴィクトリア&アルバート博物館で開催される本展は、1920年代から現代にいたるまで、そのクリエイティビティの軌跡をたどるイギリス初の試みだ。約200点におよぶ衣服やアクセサリー、絵画、写真、アーカイブ資料が集まり、サルバドール・ダリとの協働による「スケルトンドレス」や「ティアーズドレス」(写真)など、シュルレアリスムと響き合う作品群が空間を彩る。さらにピカソやマン・レイ、ジャン・コクトーらとの関係にも光を当て、都市やジャンルを横断しながら育まれた創造のネットワークを描き出す構成に。そしてその精神は、「スキャパレリ」の現クリエイティブ・ディレクター、ダニエル・ローズベリーへと受け継がれ、更新され続けている。スキャパレリの仕事を通して、ファッションが思考とイメージの場として立ち現れる、その豊かな広がりと出合いたい。

会期:3/28~11/8
会場:ヴィクトリア&アルバート博物館(Cromwell Road, London, SW7 2RL)

Christian Lacroix, Haute Couture Fall/Winter 2003. Courtesy of Christian Lacroix, STL group and Madame Suzanne Saperstein.

ドリス・ヴァン・ノッテン「The Only True Protest Is Beauty」パラッツォ・ピザーニ・モレッタ(ヴェネチア)

2024年、自身のブランドから退き、長年にわたるキャリアにひとつの区切りをつけたドリス・ヴァン・ノッテン。翌年5月には、15世紀後半に建てられたヴェネチアの歴史的建造物パラッツォ・ピザーニ・モレッタを取得し、新たな活動の拠点となることを示唆した。その動きと軌を一にするかたちで立ち上がったのが、ファッションとアートの対話を軸とするドリス・ヴァン・ノッテン財団で、本展はその最初の本格的なプレゼンテーションとなる。

そのパラッツォ・ピザーニ・モレッタで開催される「The Only True Protest Is Beauty」は、ヴァン・ノッテンが提示するもうひとつの“美”のかたち。タイトルは、アメリカのシンガーソングライターで政治活動家でもあったフィル・オークスの言葉に由来し、美しさを強度や挑発、変容を引き起こす契機として捉え直す。キュレーションはヴァン・ノッテンとゲールト・ブリューロート。ファッションやジュエリー、デザイン、写真、ガラス、陶芸など、ジャンルを横断する200点以上の作品が集結する。

運河沿いにたたずむそのヴェネチアン・ゴシック様式の建築は、ドゥカーレ宮殿を思わせるアーチが連なる開放的な回廊や、四つ葉形の装飾窓が生むリズムによって、歴史と装飾の層を現在へと引き寄せる。ろうそくの光のようなムラーノガラスのシャンデリアが揺れる祝祭の間をはじめ、空間そのものが展示のための装置のようだ。

天井画やフレスコに満ちた内部で作品同士は呼応し、響きやズレを生みながら関係を結んでいく。フロアを移動するにつれて、完成と生成、熟練の技術と新たな発見のあわいにある物語へと建築が導いていく。ここでの美は理想というよりも、問いを投げかけるもの。制作はつねに試行であり対話であり、その痕跡をまといながら更新されていく。見る者は、つくることが開いていく可能性と、その深度に触れることになる。

会期:4/25〜10/4
会場:パラッツォ・ピザーニ・モレッタ(Quartiere San Polo, 2766, 30125 Venezia)

Moschino Cheap and Chic , acetate and rayon jacket referencing Girl with Hair Ribbon (1965) by Roy Lichtenstein, spring 1991, Italy. Gift of Michelle Perr ©The Museum at FIT

「Art X Fashion」FIT美術館(ニューヨーク)

ニューヨークのFIT美術館(The Museum at FIT)では、「Art X Fashion」が開催中。ファッションの教育機関として知られるファッション工科大学(FIT)に併設された同館は、服飾を専門に扱うニューヨークでも珍しい美術館だ。本展は、18世紀〜現代の衣服やアクセサリー、テキスタイル、写真、アート作品など140点以上を通して、ファッションと美術の関係を横断的に見つめ直すもの。その核には、「ファッションはアートか」という古くからの問いが潜む。しかしここでは、どちらか一方がもう一方に従属する関係ではなく、両者は、社会や思想、個人の創造性を可視化する表現として、常に並走してきたことが明らかにされる。

マルタン・マルジェラや川久保玲、イリス・ヴァン・ヘルペンといった革新性を体現するデザイナーに、エルザ・スキャパレリらの卓越した技巧、1947年にクリスチャン・ディオール(1905〜1957)が発表した伝説的な「ニュールック」、1970年代のパンクなど、ファッションが文化に与えてきた影響が多角的に示される。また、サルバドール・ダリやパブロ・ピカソなどのアーティストが衣服を表現の一部として用いてきた歴史や、イヴ・サンローランがピエト・モンドリアンの絵画を身体へと翻訳した例など、両者が互いに参照しつつ新たな表現を生み出してきたプロセスも浮かび上がる。

村上隆や草間彌生とルイ・ヴィトンの協働に象徴されるように、ファッションとアートの関係は現代においてますます流動的になっている。こうした系譜をたどりながら本展が示すのは、ファッションは、衣服という枠に収まらない表現として、社会や個人の思考を映し出してきたということ。アートとファッションは、影響し合いながら更新され続ける関係にある。そのことを歴史の連なりのなかであらためて実感させる。

会期:〜4/19
会場:FIT美術館(227 West 27th StreetNew York City 10001-5992)

Fondazione Valentino Garavani e Giancarlo Giammetti

ヴァレンティノ・ガラヴァーニ「VENUS: Valentino Garavani through the eyes of Joana Vasconcelos」PM23(ローマ)

ローマのピアッツァ・ミニャネッリに位置するPM23で開催中の「VENUS: Valentino Garavani through the eyes of Joana Vasconcelos(ジョアナ・ヴァスコンセロスによるヴァレンティノ・ガラヴァーニ)」は、5月31日まで展開されている都市型プロジェクトの中核となる展覧会だ。PM23は2025年5月、ヴァレンティノ・ガラヴァーニ(1932〜2026)と、公私にわたるパートナーのジャンカルロ・ジアメッティが設立した財団によって開設。アート、ファッション、文化のための拠点だ。

2026年1月18日に開幕した本展の前段として25年11月、アーティストのジョアナ・ヴァスコンセロスが制作した、鏡に覆われたマスクのインスタレーション作品《I’ll Be Your Mirror》が広場に一足早く姿を現した。本展はその余韻を引き継ぎながら、PM23の内部を中心に、ピアッツァ・ミニャネッリへとにじみ出すように展開し、都市から空間へと開かれていく。ポルトガル出身のヴァスコンセロスは、テキスタイルやクロシェ、既製品などを用い、装飾性と身体性を拡張するスケールの作品で知られる作家だ。今回、ヴァレンティノ・ガラヴァーニの美意識を起点に、その遺産を現代的なかたちへと読み替える。

会場内で中心となるのは、「VENUS」と名づけられた巨大な作品群。クロシェやテキスタイルによって構成されたそれらは、学校や病院、難民支援施設、刑務所などから、多様な背景を持つ200人以上の参加者の協働によって生まれた。756時間におよぶ制作プロセスを経て集められた素材は、ひとつの像へと統合され、個人と社会を結び直す媒介となる。ファッションとアートを横断しながら、美はここで共有され、見ることとつくること、その両方の体験を開いていく。

会期:~5/31
会場:PM23(Piazza Mignanelli 23, 00187 Roma)

Iris van Herpen. Labyrinthine Kimono Dress, from the Sensory Seas collection, 2020. Glass organza, crepe, tulle, and Mylar. Model: Cynthia Arrebola. Photo: David Ụzọchukwu

イリス・ヴァン・へルペン「Iris van Herpen: Sculpting the Senses」ブルックリン美術館

ニューヨークのブルックリン美術館で5月16日から開催される「Iris van Herpen: Sculpting the Senses」は、現代ファッションのなかでもひときわ異彩を放つイリス・ヴァン・ヘルペンの活動を総合的に捉える大規模展。パリ装飾芸術美術館を皮切りに巡回し、今回、北米初公開となる。140点以上のオートクチュール作品を中心に、現代美術やデザイン、科学的資料などが交差する構成だ。

オランダ出身のヴァン・ヘルペンは、3Dプリントやレーザーカットといった先端技術をいち早く取り入れ、自然界の構造や、水の流動などの物理現象、骨格の形態、光や音の知覚などを衣服へと翻訳してきたデザイナーだ。2010年代初頭に発表されたドレスは、ランウェイの常識を軽やかにアップデートし、ビョークやレディー・ガガら表現者たちの身体を通して、広く知られることになった。

展覧会は、海の深層から宇宙的なスケールへと視点を広げながら、人間の身体と衣服、また、環境との関係を編み直していく。ドレスはもはや静止したフォルムではなく、動きや力、感覚の流れをまとった存在となり、身体の輪郭を溶かしていく。ファッションとアート、サイエンスが交じり合うこの空間でその変化に出合うとき、ファッションがまだ更新され続ける領域であることを体感できるだろう。

会期:5/16〜12/6
会場:ブルックリン美術館(200 Eastern Parkway, Brooklyn, New York 11238-6052)

“Corset Anatomia” ensemble, Renata Buzzo (Brazilian, born 1986), spring/summer 2025; Courtesy Renata Buzzo. Photo © The Metropolitan Museum of Art

「Costume Art」メトロポリタン美術館(ニューヨーク)

メトロポリタン美術館(The Met)で5月10日から始まる「Costume Art」は、衣服と身体の関係を手がかりに、ファッションをアートの文脈のなかで捉え直す展覧会だ。会場となるのは、グレートホールの隣に新設された約1100平方メートルの展示空間。同館のファッション部門であるコスチューム・インスティテュートの新たな拠点として、その最初の展示となる。

美術館の膨大なコレクションから選ばれた作品と、歴史的・現代的な衣服が等しく並ぶ。「裸の身体」「古典的身体」という普遍的なテーマから、「妊娠する身体」「老いる身体」などこれまで周縁に置かれてきた視点まで複数の身体像が重なり合い、衣服は身体そのもののあり方を形づくる要素として位置づけられ、絵画や彫刻と同じ台座に置かれたドレスは、それぞれの表現が等価に響き合う。視覚的な美しさにとどまらず、素材や重さ、身体との接触といった感覚が前景化され、ファッションは「見るもの」から「経験するもの」へと変わっていく。

5000年におよぶ美術の歴史と並置されることで、衣服は芸術形式のひとつであると同時に、身体の捉えられ方を映す媒介として姿を現す。そうした広がりのなかで、ファッションをめぐる議論は、美術館という制度のなかにあらためて位置づけられていくはずだ。

会期:5/10~2027/1/10
会場:メトロポリタン美術館(99 Margaret Corbin Drive New York, NY 10040)

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