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【寺島しのぶさんのターニングポイント#1】人生を変えた蜷川幸雄さんとの出会い。「お前の芝居を見ているとイライラする」とまで言われ、ものを投げつけられたけど…

  • 2026.2.5

【寺島しのぶさんのターニングポイント#1】人生を変えた蜷川幸雄さんとの出会い。「お前の芝居を見ているとイライラする」とまで言われ、ものを投げつけられたけど…

舞台でも映像でも大活躍の寺島しのぶさん。それぞれの分野でさまざまな出会いに恵まれ、そのたびに高い壁を自らの力で乗り越えてきました。20〜30代は大きな挑戦を重ねて、名だたる映画賞を多数受賞。大きなターニングポイントになった作品について聞きました。

蜷川幸雄さんの舞台に抜擢されて

歌舞伎俳優の七代目尾上菊五郎さんを父に、映画女優の富司純子さんを母に生まれた寺島しのぶさんは、幼い頃から歌舞伎が大好きで、なぜ自分は歌舞伎俳優になれないのだろうと悔しい思いをして育ったという。

「5歳下の弟(八代目尾上菊五郎さん)が生まれて、彼の目の前にはレールが敷かれているのがうらやましくてしようがなくて、『何も規制がなくて自由でいいじゃない』って言われても、自由ってなんて残酷なんだろうとしか思えなかったですね」

芝居への屈折した思いを抱えながらも向き合えずにいた10代のある日、当時、父・菊五郎さんと舞台で共演していた太地喜和子さんが自宅を訪れた。二人になったときに、「悲しそうな顔をしている」と心の内を見抜かれたような言葉をかけられ、思わず涙してしまった寺島さんは、太地さんのすすめで文学座を受けることに。難関を突破して、みごと研究生となった。

「なんだか、すごく楽しかったんですよ。頼るものが自分しかないという初めての状況で。親の力を借りずに、みんなと切磋琢磨して自力でやっているという感覚。これがたまらなく好きでしたね。『音羽屋のお嬢さん』だなんて、みんな知りませんでしたから」

最初のターニングポイントはすぐに訪れた。文学座のアトリエで、卒業公演として劇作家・清水邦夫作の『雨の夏、三十人のジュリエットが還ってきた』の舞台に出演していたところを、清水さん本人が観て、すぐに演出家の蜷川幸雄さんに電話をかけたのだ。

「たまたま観にいらしていた清水さんが、蜷川さんに『寺島しのぶというのがいて、すごくいいんだよ。こいつを使え』って言ってくださったらしく、それがきっかけで、19歳のときに、セゾン劇場での舞台『血の婚礼』への出演が決まったんです」

93年のこの舞台をきっかけに、9時間に及ぶ上演時間で話題となったギリシア悲劇『グリークス』や、『欲望という名の電車』『テンペスト』『近松心中物語』と、蜷川さんとタグを組む作品が続いていった。

「厳しかったです。本当にあの当時の蜷川さんは厳しかったし、いろんなものを投げられたし。他の人には優しいのに、私は『お嬢さま』だから何を言っても大丈夫と思われていたらしく、目の前で胃薬を飲まれたこともありました(笑)」

普通だったらめげてしまって、二度と立ち上がれそうにもないが、それでも食らいついていった寺島さんは、やはり只者ではない。

「めげましたよ。めげましたけど、それを出すのが悔しかったから、ヘラヘラ笑ってた。まあ、今にして思えば、私を思って一生懸命言ってくださっていたんだということはわかりますけどね。やはり、蜷川さんとの出会いは大きかったです」

母の猛反対を押し切り、映画で飛躍した28歳

大物演出家や劇作家と組んで、大作に出演することが増え、寺島さんは着実に俳優としてのキャリアを積んでいった。そして、次は映像の分野でも、大きなターニングポイントを迎えることになる。

「28歳のときに、『赤目四十八瀧心中未遂』(荒戸源次郎監督)と『ヴァイブレータ』(廣木隆一監督)という映画2本に立て続けに出演できたことは、これもまた大きなターニングポイントだったと思います」

『赤目四十八瀧心中未遂』は直木賞作家・車谷長吉原作の作品で、尼崎を舞台に、この世に居場所を見いだせない青年と、不思議な魅力を持つ謎めいた女性の死出の旅路を綴った人間ドラマだ。アルコール依存症の女性と長距離トラックの運転手が織りなす行きずりの愛の物語を描いた『ヴァイブレータ』とともに、濡れ場を含んだハードなシーンが多いことでも、それまでの寺島さんのイメージから大きく脱皮をはかった作品となり、世の中に与えた衝撃も大きかった。

「母が映画の人だったし、そこに憧れみたいなものは大いにありましたから、お話があったときはすごく嬉しかったですね。『この役は私がやらなければ無理』と思ったぐらい、やる気しかなかったんですけど、内容に関して母が大反対し、そこで、できるかできないかのひと悶着がありました。結局、自分でやり通して結果を得られたので、母はもうそれからは何ひとつ言わなくなりました」

大きな飛躍を遂げた寺島さんは、この2作品で、日本アカデミー賞最優秀主演女優賞、ブルーリボン賞主演女優賞、東京国際映画祭女優賞、キネマ旬報ベスト・テン主演女優賞、新人女優賞など、名だたる映画賞を受賞するに至ったのだ。舞台でも映像でも、誰の力も借りず、親の七光りでもなく、地道に積み上げた実力で寺島さんはみごと確固たる地位を築き上げた。あれほど反対した母も、「おめでとう」と受賞を心から喜んで祝福してくれたという。

「でも、賞をいっぱい取ったからって、何かが急に大きく変わることはなくて、次々と役が来るタイプでもないし、私の生き方ってこういうことなんだなと思いました」

しかし、それは見方をかえれば、じっくりと自分の目、感覚で、納得のいく作品を選んでいけるということでもある。その丁寧な仕事への向き合い方が、寺島さんのキャリアを作っていったのだろう。

私にしかやれないと思った役を演じたい

そうして仕事で大きな飛躍を遂げた頃、私生活でも大きな変化を迎えた。07年、映画祭の仕事でフランスから来ていた、フランス人のアートディレクター、ローラン・グナシアさんと出会い、結婚したのだ。そして、子どももほしいなと思い始めていたときに、またしても大きな仕事の話が舞い込む。若松孝二監督の『キャタピラー』への出演オファーだ。

「このときは絶賛妊活中で、マネージャーさんにも『これぞっていうものでない限り、脚本を持ってこないで』とお願いしていた時期だったんです。ところが、まさに『これぞ』が来てしまった(笑)。なので一旦、妊活を中断して撮影に臨みました」

『キャタピラー』で寺島さんが演じたのは、日中戦争で負傷し、四肢を失って帰ってきた夫を迎え、世話をしながらともに生きていく妻だ。夫は話すこともできず、耳もほとんど聞こえず、村の人々からは「不死身の兵士」、「軍神さま」として崇められていく。元々、欲深く暴力的だった夫は、なおも妻に自身の要求を満たすよう強要していく。憎悪、怒り、欲望など激しい感情のぶつかり合いに、息の詰まるような場面が続く。

「若松監督は、テストなしで全部本番を回してしまうので、ずっとアドレナリンが出た状態でした。しかも、現場には一人で来いとおっしゃるんです。マネージャーさんもドライバーさんも来てはいけないということなので、毎日一人で行って、髪型のセットも自分でやって、衣装も衣装さんから受け取ってきたものを自分で管理して着替えるので、よく見ると、場面でつながっていないところもあるんですよ(笑)。ただ疲弊している役だったので、ちょうどその感じは出てよかったんですけどね」

しかし、その甲斐あって、この作品で寺島さんは、ベルリン国際映画祭最優秀女優賞(銀熊賞)を受賞した。

「若松監督は、『これは女優に賞を取らせないと意味がないんです』とおっしゃっていたので、それが達成できたことはすごく嬉しかったですね。今は子どものことでも忙しくなってきましたし、体力的にも、何でもかんでもやりたいという働き方はできなくなってきている。だから、あの頃より一層、私が本当に必要とされているんじゃないかとか、この役は私しか考えられないんじゃないかという役をやりたいという思いが強くなってきています。だから演じた後に、『寺島さんでよかったね』という褒め言葉をいただくことがすごく嬉しい」

2月5日より新橋演舞場で上演される舞台『お光とお紺〜伊勢音頭 恋の絵双紙〜』は、一転、喜劇だ。共演の藤山直美さん演じる幼なじみとの友情がどんな雰囲気で描かれるのか、寺島さんならではのお光をぜひ見てみたい。

「二人の関係をどう見ていただけるか、そこを構築させる作業を大切にしていきたいですね。劇場を出るときに、お客さまに『楽しかったね』と言っていただけることが一番かなと思います」

プロフィール
寺島しのぶさん 俳優

てらじま・しのぶ⚫1972年京都府生まれ、東京都出身。
父は七代目尾上菊五郎さん、母は俳優の富司純子さん。
92年に文学座に入団。早くから頭角を現し、96年に退団後も舞台、映画、テレビドラマで演技派として活躍。
2003年に映画『赤目四中八瀧(あかめしじゅうやたき)心中未遂』『ヴァイブレータ』で日本アカデミー賞最優秀主演女優賞、ブルーリボン主演女優賞をはじめ、日本国内外で10以上の賞を受賞。
10年に映画『キャタピラー』でベルリン国際映画祭最優秀女優賞(銀熊賞)受賞。
22年『文七元結物語』、25年『芝浜革財布』で歌舞伎座の舞台に立ち話題を呼ぶ。
私生活では07年にフランス人アートディレクターのローラン・グナシアさんと結婚、12年に長男・尾上眞秀(まほろ)くんを出産。

【Information】『お光とお紺〜伊勢音頭 恋の絵双紙〜』

紀州熊野の寺谷村は年貢のため、娘たちが遊女に売られていく貧しい村である。とびきりの美人である16歳のウメ(寺島しのぶ)を人買いが古市へ連れて行こうとすると、ウメとは姉妹のように育った庄屋の娘・トシ(藤山直美)が「ウメが行くなら私も行くで」と言って聞かない。根負けした人買いは、二人を連れて行くことに。伊勢の古市の油屋へ売られたウメは遊女・お光となり、売れっ妓となる。下働きとして働き始めたトシだが、お光の旦那になるはずだったお大尽がトシを目に留め、遊女・お紺となる。しかし、ともに遊女となった二人の間には溝ができ始めてしまう。やがて二人の前に討幕運動に身を投じる青年・福岡貢(葛山信吾)が現れ、お光は貢のためお紺にある頼みごとをする。それぞれの思惑を乗せた伊勢音頭が流れる中、大立ち廻りが始まるが……。

作/小幡欣治 脚色・演出/浅香哲哉
出演/藤山直美、葛山信吾、大津嶺子、澤村宗之助、瀬川菊之丞、いま寛大、田山涼成、寺島しのぶ

【日程】2026年2月5日(木)~24日(火)新橋演舞場
【料金】1等席 13,500円/2等席 8,500円/3階A席 5,000円/3階B席 3,500円
桟敷席/14,500円

チケットホン松竹☎︎0570-000-489、もしくは03-6745-0888(10:00〜17:00)
チケットWeb松竹(24時間受付)https:www1.ticket-web-shochiku.com/t/

撮影/佐山裕子(主婦の友社)

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