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相次ぐクマの出没・・・いったい何が起きている?原因と対策を専門家に聞きました

  • 2025.9.16

クマの出没が全国各地で相次いでいます。環境省のまとめでは、これまで一番人身被害が多かった2023年と同じようなペースでクマに襲われるなどの被害が発生しています。なぜクマが出没するのか、どう対策をしたら良いのか。日本クマネットワーク代表で、東京農工大教授の小池伸介さんにお話を伺いました。

――なぜこんなにクマが出没しているのでしょうか?
長期的な視点で見ると、ここ40年ぐらいでクマをはじめ、いろいろな野生動物の分布範囲がものすごい勢いで拡大しています。ツキノワグマの分布域はこの40年間で約2倍に広がりました。一番の原因は日本の社会の変化です。少子高齢化、都市への人口集中が進み、奥山や中山間地域から人が撤退しています。人がいなくなった集落は耕作地も放棄されて、森に戻っていきます。人の撤退に合わせて日本中で野生動物の分布域が広がっているのです。今年はクマの出没が大きなニュースになっていますが、実は2000年代に入ってから秋に多くのクマが出没するということが起き始めていました。

季節によって理由が違う

秋にクマが人里に出没するのは、森のどんぐりが凶作になるからだと言われます。確かにそれは一つの要因ですが、それだけでクマは人里に現れません。食糧を求めて、たまたま集落の近くに行った時に、収穫されない柿や栗が放置されていたり、家の軒先に漬物とか味噌が置いてあったりすると、そういったものが誘引となってクマが森から出てくるというのが実情です。
秋以外の季節、春や夏になぜクマが出没しているのかは、わからないこともあります。クマは、基本的に植物を食べて生活していて、季節ごとに食べ物がはっきりしていますが、例年と違う気象条件になると、山の花が咲く時期とか、実のなる時期がちょっと変わったりするんです。例えば今年は春先暖かい時期が短かったので、一時的に食べ物がなくなって人の集落に出没したのではないかと思います。クマと人間との距離が近づいていますので、クマの行動がちょっと変わると、すぐ人目につくようになるというのが、目撃が増えている原因かなと考えています。

九州のクマはくまモンだけ?

――クマの多い地域はありますか。
日本にはヒグマとツキノワグマの2種類が生息しています。北海道がヒグマで、本州と四国がツキノワグマです。もはや本州でクマがいないのは千葉県だけです。千葉は森が他の県と繋がってないからです。九州には1950年代までツキノワグマがいました。それ以降は確認されてないので、九州のツキノワグマは絶滅した状況にあると考えられます。四国ももう絶滅寸前で、残り数十頭くらいしかいません。日本中にクマがあふれ出ているわけではなくて、地域によってかなり状況は違います。

捕殺は最後の手段

――クマの人身被害を減らすためにどういう対策が有効なのでしょうか。
クマを捕殺するのは、最後の手段です。出てきたクマを捕殺すれば、その事案は解決するけれども、結局次のクマが出てくる。なぜクマが出てきたかを検証しなければ根本的な解決にはなりません。
いきなり市街地に出てくるのではなく、まず、農村に出没するようになります。森から農村に出る突破口はどこなのか。彼らは基本的に姿を隠しながら移動をするのを好むので、森沿いの耕作放棄地や管理されてない林地とか、そういうところを通ってくる。進入経路を突き止め、遮断しなければいけません。
次に農村から市街地にどうやって移動したかを検証する。河川敷沿いの藪とか、細くつながった森などが移動経路になりやすいです。そこを遮断するとか、刈り払うとかしてクマが移動しにくいようにする。最近だと河川敷が森林化しているところもあるので、そういう場所も注意が必要です

――これからのシーズンに気を付けることはありますか?
誘引物、つまりクマにとって魅力的なものを身近に置かないことが大切です。例えば田舎に行くと、家に柿の木や栗の木がよくありますよね。昔は全部食べていたんですけど、高齢世帯になって取らなくなったり、取っても大部分は残っていたりします。食べなくても早めに全部収穫してしまうことも大切です。もう食べない木だったら切ってしまうのも選択肢です。
秋の出没に関してはどんぐりがトリガーになるので、どんぐりの凶作・豊作は重要な情報です。森が広がり、どんぐりがならないから必ず人里に出てくるわけではありませんが、凶作であればクマは行動範囲を変えてきます。外に物を置いておくのをやめようとか、散歩のルート変えようとか、山に行くときはちょっと気をつけようとか、意識を変えることが大切です。

――もしクマに遭遇したらどうしたら良いのでしょうか?
クマに遭った時にできることは、ほぼないっていう意識を持った方がいいです。交通事故と一緒で、交通事故にあった時にどうしたらいいですかとは言わないですよね。まず、クマに遭わない努力をしましょう。彼らも基本的に人間に会いたくない。よく鈴をつけると言いますが、こちらの存在をアピールして、クマに対して人間が来たことを教えて向こうが避けることを期待したものです。
それでも遭ってしまうことはあります。クマと人間との距離とか、クマがこちらに気づいているかどうかとか、いろいろな状況があるので、100%大丈夫ですというものはありません。

二つの「絶対やってはいけないこと」

逆にやってはいけないことはいくつかあります。まず、クマをパニックにさせないことです。クマと遭遇した時に大声を出すとクマもパニックになってしまう。クマをパニックにさせてはいけないし、自分もパニックになってはいけません。
あとはクマに背を向けて走って逃げてはいけない。走るものを追いかける習性があると言われていますし、クマに背を向けることによって、クマの状況がわからなくなってしまう。クマが逃げようとしているのか、こっちに向かっているのかわからなくなる。この二つは絶対やってはいけないです。
ゆっくりゆっくり後ずさりしながら、クマと人間との距離を開けていく。間に木や石を挟みながら、直接見えないような感じで、少しずつ距離を離していく。基本的にクマは人とは会いたくないし、その場を避けたいので、クマが逃げてくれればそれでいいわけです。

個性が強いクマ

――クマが人間のことを恐れなくなったと聞くことがあります。
それはおそらく個体の問題だと思います。クマは一頭一頭性格が違うのです。私たちのグループは20年近くクマを捕獲してGPS受信機をつけて、自然の中での行動を調査していますが、檻に捕まった時にすごく怒っているクマもいるし、しょぼんとするクマもいたりして、非常に個性が強いです。なかには人間への警戒心が低くなったクマもいるかもしれないけれども、まだ日本の大部分のクマは警戒心が強いですね。
――シカを襲うというニュースも見ました。食性が変わっているのでしょうか。
ヒグマもツキノワグマも基本的には植物を食べています。動物も食べるんですけど、基本的には昆虫をちょっと食べるぐらいで、食生活の大部分は植物で成り立っています。
ただし、先ほど個性の話をしましたが、クマは一頭一頭食べ物も違います。彼らは基本的に植物を食べていますが、もともと肉食動物から進化してきました。肉食動物から雑食性に進化したのがクマの仲間で、最も草食に傾いたのがパンダなわけです。
もちろん彼らだって肉を食べたいんですよ。その方がはるかに効率がいい。だけど、日本の森の中に動物ってそういません。ツキノワグマは生きている成獣のシカを捕まえることはできません。シカの方が逃げ足が速くて。死んでいれば当然食べる。人間がワナをかけていることを学習して、ワナにかかったシカを食べることもあると思います。

食べる目的で人を襲うことはない

こういう話をすると、人を食べようとして襲うことはないのか聞かれますが、それはありません。人を襲う理由は、母グマが子グマを守ろうとして向かってくるとか、鉢合わせしてしまってパニックになって目の前の人をはたき倒してしまうとかです。個体差はあるにしても、基本的にクマが人を襲いかかるのは防御を目的にした攻撃です。

――鳥獣保護法が改正され、市町村の判断で特例的に市街地での猟銃の使用が認められる「緊急銃猟」制度が2025年9月から始まりました。
従来は住宅地ですと警察官の指示の下でしか発砲ができませんでした。県警と県庁の鳥獣担当が話し合って、情報交換をする県も増えてきてはいるのですが、警察官には野生動物の知識はないので、撃たせてくださいって市町村の人が地域の警察官にお願いしても判断できない。県警に聞いて判断して、返事が来るまでに時間がかかっている間にクマがどこかに行ったり、次の事故が起きたりすることがあったので、この時間が短縮するっていう意味では一歩前進だと思います。

ただ、これからは市町村の職員が判断をすることになるのですが、野生動物の専門知識をもっている人はほとんどいないのが現状です。野生動物管理の知識がないと、どのタイミングで撃つか、撃つことで次の被害が起きないかどうかというような判断はできない。さらに、そのクマを駆除しても次のクマが来るだけですから、都道府県レベルで野生動物管理に詳しい人材をきちんと雇用して各市町村と連携しながら総合的な対策を立てることが必要になってくると思います。

有効な解決策は

例えば島根県は、野生動物の専門職が正規職員として採用され、県内各地に出向いて、日頃からいろいろな対策を住民に伝えています。住民との距離が近いので適切かつ迅速に対応できます。秋田県にもツキノワグマ担当の県庁の職員が3人います。市町村が困っても、あの人に聞けばすぐ適切な対応を教えてくれるという関係が出来上がっているわけです。こういう対策が都道府県レベルでは大事です。
東京農工大では、2年前から試行的に社会人を対象にしたリカレント教育を始めました。野生動物の生態や被害対策を学ぶだけでなく、集落診断と言って集落の人と一緒に対策を考案したり、山に入って動物の痕跡を見つけたりする実習も組み合わせたカリキュラムになっています。
本当は自治体に専門職がいれば良いのですが、市町村レベルだとなかなか難しい。なので、担当になった市町村の職員の方に最低限の知識を身につけてもらうことを目指しています。

クマの正しい姿を知ろう

――クマが市街地に出没することで怖いと思う人もいますし、逆に駆除をすると抗議の電話が殺到するという事態にもなっています。一般の人にメッセージがありましたら教えて下さい。
出没が多発すると、クマなんていなくなってほしいって思うでしょうし、クマが身近じゃない都市の人はクマがかわいそうって思う人もいると思います。地域ギャップと意識ギャップが非常に大きい。ただ多くの人に共通するのは、ほとんどが正しいクマの姿を知らないってことなんですね。
これまでお話してきたように、クマが森から出てくるにはそれなりの理由があり、適切な対策をとることで被害が減る可能性が高まります。過度に恐れる必要はないけれども、かわいいだけの動物でもない。そのことを皆さんに知っていただきたいですね。

<防災ニッポン編集部> 館林牧子

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