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もしも鳥取砂丘にピラミッドを造ったら……? エジプト考古学者が総工費・工期をリアルに計算! 前代未聞のピラミッド建造小説《大城道則教授インタビュー》

  • 2026.10.17

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古代エジプト文明の象徴ピラミッド。今なお造り方がわからないこの巨大建造物を、もしも現代日本の鳥取砂丘に建てるとしたら……? 『現代にピラミッドを建設しようとしたら、超大変だった話』(大城道則/ポプラ社)は、そんな一大プロジェクトに本気で挑む人々の奮闘を綴った小説。果たして本当に、鳥取砂丘にピラミッドを建設できるのか。造れるとしたらその費用や工期は? 駒澤大学で古代エジプト史を教えるエジプト考古学者・大城道則さんに、初小説に挑んだ経緯、ピラミッドへの熱い思いをうかがった。

エビデンスがなくても、小説形式なら推論を書ける

──『現代にピラミッドを建設しようとしたら、超大変だった話』では、古代エジプト学者である大城先生が、学術書ではなく小説形式でピラミッドの謎に挑んでいます。それだけでも驚きですが、工夫を凝らせば本当に現代日本にピラミッドを造れそうなことにも衝撃を受けました。今回、「クフ王の大ピラミッドを鳥取砂丘に建てる」というテーマで、初の小説を執筆したのはなぜでしょうか。

『現代にピラミッドを建設しようとしたら、超大変だった話』 (大城道則/ポプラ社)
『現代にピラミッドを建設しようとしたら、超大変だった話』 (大城道則/ポプラ社)

大城道則さん(以下、大城):出発点は、「ピラミッドの造り方について書いてほしい」という編集者からの依頼でした。ですが、それなら他の学者も書いていますし、そもそもピラミッドは造り方が今もわかっていません。本を書くにしても「この研究者はこう論じている」と、諸説を並べるしかなくて。かといって、僕のような研究者はエビデンスがない限り、安易に推論を語れません。自分の中に「こうではないか」という仮説があっても、研究者である限り何も書けないというジレンマがあったんです。

ですが、小説という形を取れば、登場人物に僕の思いを自由に語らせることができます。言いたいことをそのまま言えるので、ストレス発散にもなる(笑)。そこで、史実とフィクションを織り交ぜた僕ならではの小説を書いてみようと思いました。

──ピラミッドの建設にあたり、鳥取砂丘を選んだのはなぜでしょう。

大城:多くの方は、「ピラミッドは砂漠にある」と思っています。実際には街なかにあるのですが、ピラミッド=砂漠というイメージが根強い。そこで、日本でもっともピラミッドが似合いそうな鳥取砂丘を選びました。お台場や二子玉川も検討しましたが、首都圏ではない鳥取に建てたら面白いのではないかと。

調べてみると、鳥取県には「鳥取砂丘コナン空港」「米子鬼太郎空港」というユニークな名前の空港がありますし、県庁にもちょっと変わった部署があります。2025年に鳥取県立美術館が設立された時には、アンディ・ウォーホルの段ボールのような作品を約3億円で購入していて、予算の使い方も独特です。こういう自治体なら、町おこしのためにピラミッドを建ててもおかしくないのではないかと思いました。

──作中では、鳥取県庁の新人職員・佐藤舞香が、地域創生のためにピラミッド建築プロジェクトに取り組むことになります。上司の富沢、型破りな県知事、舞香が協力を仰ぐ土方教授など彼女を取り巻く人物も個性的ですが、彼らはどのようにして生まれたのでしょうか。

大城:主人公は、当初まったく違うキャラクターでした。エジプトの血を引くクォーターの女の子を想定していましたが、なかなかうまく行かなくて。そんな中、担当編集者から「実在の俳優さんをイメージすると書きやすいのでは?」とアドバイスをいただいたんです。

例えば主人公の舞香は、芳根京子さん。

富沢さんは、鳥取県庁の埋蔵文化財センターに在籍する大学の先輩をモデルに、西島秀俊さんをイメージして書きました。知事は、大地真央さんや米倉涼子さん。土方教授のモデルは僕です。古代エジプト史を研究する大学教授という設定なので、僕だとわかるようにしています。そうやってイメージして、彼らが勝手に動いてくれたらいいなと思いながら書き進めていきました。

現代人でも難しいことを、4500年前に実現した古代エジプト人のすごさ

──ピラミッドの建造プロジェクトを進める過程では、具体的な工法をシミュレーションし、工期や予算を算出していきます。荒唐無稽なプロジェクトかと思いきや、不可能とは言い切れないことに驚きました。

大城:編集者との打ち合わせは、小説執筆に向けた話し合いというより、本当に鳥取砂丘にピラミッドを建てるプロジェクトについて会議をしている感覚でした(笑)。編集者のアドバイスで古代エジプト人視点のエピソードを現代パートの合間に挟み、現代と古代をリンクさせる試みも取り入れています。

──確かに、各章には紀元前エジプトを生きる人々の挿話が入っていますね。大城先生が、古代エジプト人に憑依して書いたかのようです。

大城:まさに、そういう感覚で書いています。編集者からは「アート小説の旗手・原田マハさんを降ろして書いてほしい」という無理難題を言われました(笑)。

──先ほど、「小説であればエビデンスが不確かな推論も入れられる」というお話がありました。作中に取り入れた、大城先生のアイデアはありますか?

大城:ピラミッドを造る際、水の力を使ったということでしょうか。古代世界において動力源として使用できたのは、間違いなく水だと思います。水の浮力を活用することで、重い石を効率的に運搬し、さらにピラミッド底部の竪穴にナイル河から水を引き、浮力で石材を上に持ち上げたのではないか。ピラミッドは隙間なく石材が積み上げられているので、内部に水を入れても漏れない可能性は大きいと考えました。

研究仲間に協力してもらい、ピラミッド内に水を入れたらエレベーターのような木の装置はどこまで浮くか計算してもらったこともあります。実際には、勢いをつけなければ難しいのではないかという結論になりましたが、アイデアは悪くないと思うんです。そこで、この小説でも仮説のひとつとして入れました。

──ピラミッドを造るためのブロックの数を算出する場面では、緻密な計算式が記載されています。大変申し訳ないことに、この数式の意味はさっぱりわからず、スルーしてしまいました……。

大城:それでいいんです。難しいですからね。この計算は、研究者仲間である関西大学総合情報学部の林武文先生にお願いしました。

──終盤では、AIにピラミッド建造のコストやプロセスを相談しながら、具体的なプランに落とし込んでいきます。実際に大城先生もAIを使い、このパートを執筆したのでしょうか。

大城:そうです。もちろん僕なりに回答をアレンジしましたが、AIに相談しながら書きました。

──最終的に、意外にも現実的な数字に落ち着きました。経済波及効果を考えれば、不可能なプロジェクトではないと思います。この結果を受けて、大城先生はどのように感じましたか?

大城:僕は、ピラミッドの造り方にはまったく興味がなかったんです。宇宙人や巨人が造ったわけがないので、古代エジプト人が造ったのは間違いない。彼らに造れたのなら、それでいいと思うんです。僕は、それよりも「彼らはなぜピラミッドを造ったのか」に興味がありました。

ですが、今回この小説を書いたことで、僕らにも造れる可能性が見えてきた。そうなると、また違う感覚になりましたね。現実性を帯びると造ってみたくなるものだなと思いました。

それと同時に、古代エジプト人のすごさを改めて痛感しました。現代人が頑張ってもなかなかできないことを、彼らは4500年前にやり遂げていた。そう再発見できたことは、僕にとっても大きなことでした。

ピラミッドは「人々の幸福への願いが造り上げたもの」

──今、大城先生は、ピラミッドの造り方よりも「彼らはなぜピラミッドを造ったのか」に興味があるとお話しされました。その思いについて、もう少し詳しく聞かせてください。

大城:僕の研究テーマのひとつが、「なぜ人間は巨大な墓を造るのか」です。ピラミッドに限らず、仁徳天皇陵も始皇帝陵もそう。ヨーロッパにも巨大な墓はあります。権力者はなぜこうした墓を造るのか、そのマインドを知りたいんですね。

しかも、エジプト王朝は3000年続きますが、こうした巨大な墓を造るのは紀元前2500年頃だけなんです。なぜ、その時期に造り始めたのか。なぜ、こんなアフリカ大陸の端で造ったのか。そこには、どんなモチベーションがあったのか。こうしたことに興味があるんです。

──限られた時期だけ、ピラミッドが造られたというのは確かに不思議です。

大城:数百年後にも日干しレンガで100メートル級のピラミッドが造られた時期はありましたが、その後は造られていません。よく「ツタンカーメンのピラミッドはどこにあるのですか?」と聞かれますが、その時代(紀元前1300年頃)にはもうないんです。クフ王の時代よりもエジプトが力を持った時期はあるのに、その頃に造られなかったのはなぜなのか。ピラミッドは本当に謎ばかりなんです。

──だから惹かれるのでしょうか。

大城:それはあるでしょうね。僕はミステリーが好きなので、そういった嗜好がこの小説にも反映されているかもしれません。この本も、ミステリーに分類されるのではないでしょうか。

──作中では、ピラミッドは「人々の幸福への願いが造り上げたものでもあった」とも語られています。幸せな来世を願う気持ちが、人々を過酷なピラミッド建設に向かわせたのではないかという記述が印象的でした。

大城:この一文には、僕自身の見解が反映されています。巨大なピラミッドはどこからでも見える建造物です。毎日目に入りますし、大仏に向かって手を合わせるようにして「幸せになれますように」と願ったのではないでしょうか。富士山信仰にも近いのかもしれません。エジプトには山がないので、山を造ったのかもしれませんね。

実際、エジプトに学生を連れていくと、初めて見たピラミッドの巨大さにみんな感動します。巨大であることは、やっぱりすごいことなんですよね。僕には、もうそういう初々しい気持ちはなくなってしまいましたが(笑)。

──先生は、これまでエジプトに何回くらい行かれたのでしょうか。

大城:この前数えたら、50回を超えていました。コロナ禍には渡航できませんでしたが、それでも年に2回、25年通ったとしたら50回。意外と行っているので、自分でも驚きました。

ピラミッドとは、エジプト人の思想を刻んだ「立体暗号」か

──世界にはさまざまな謎がありますが、中でもピラミッドに惹きつけられるのはなぜでしょう。

大城:特別な理由はないですよ(笑)。古代エジプト文明が、一番わかりやすかったからではないでしょうか。ミステリーやSFの題材にもなりやすいし、露出も多いので親近感がありました。そんな中、エジプト学者の加藤一朗教授の存在を知り、先生がいらっしゃる関西大学に進学しました。

在学中、この小説の富沢さんのモデルになった先輩に出会ったのですが、彼は古代マヤ文明の専門家。学部生がエジプトで発掘するチャンスなどめったにない中、彼は学生時代から中南米まで発掘に行っていました。僕もマヤ・インカ文明の研究者になってもよかったのですが、なぜかエジプトに惹かれたんですよね。いまだに不思議です。どちらもミイラがあるのにね(笑)。

──エジプトでは、長年にわたって発掘作業が行われています。ピラミッドについても、ある程度のことはわかってきたのでしょうか。それとも、まだ謎が多いですか?

大城:エリアが大きいので、まだわからないことのほうが多いです。エジプトにはいろいろな遺跡がありますが、まだ8割掘っていないと言われています。ギザの大ピラミッドや王家の谷など有名なところは調査が進んでいますが、名もなき遺跡はまだたくさんあります。

エジプトの田舎町を車で走ったり歩いたりしていると、岩場にいろんな墓があるんです。現地の人に聞くと、「墓のようだけど名前は知らない」と言われる。で、上がってみるとミイラがあるんですね。そういう世界なんです。

──作中では、素粒子を利用してピラミッド内部を透視する「ミュオグラフィ」という調査方法が紹介されていました。こうした最新技術を用いても、調査が進展することはないのでしょうか。

大城:「ミュオグラフィ」は、対象の内部を掘らずに、破壊せずに観測・観察できる技術です。X線(レントゲン)と異なり放射線を用いないため人体への影響もありません。

ただ、透視できると言っても、現段階では内部に空間があることがわかるくらい。中に何があるのかまではまったくわかりません。今後精度が上がれば、もしかしたら内部が見えるかもしれませんが、研究者によるとまだ時間がかかるそうです。

近年、クフ王の大ピラミッドの内部に未発見の空間があることがわかりましたが、内部を見るにはピラミッドを壊すしかありません。もちろん文化財は破壊できませんから、それはできない。おそらく僕は、一生見られないでしょう。次の世代にバトンを渡すしかありません。

──そうやって世代を超えて研究を進めていくわけですね。作中に登場する土方教授は、〈ピラミッドとは巨大なある種の「立体暗号」であり、王の思想・宇宙観・政治理念を刻んだ「記憶装置」だったのだ。〉という見解を述べています。この一文に込めた、大城先生の思いを聞かせてください。

大城:カッコいいことを言ってますね(笑)。でも、これは僕の意見を反映した一文です。

ピラミッドは、謎が多い建造物です。というのも、あんなに大きな建築でありながら、設計図がないんです。古代エジプト人は、一番大事な知恵は公にせずに隠すのが伝統です。そのため、ミイラの作り方も文書として残されていません。もしかしたらピラミッドの構造そのものが、彼らの思想や理念を刻んだ記録媒体なのかもしれない。そんな思いを込めて書きました。

鳥取県知事に読んでほしい

──大城先生は、これまで学術書やエッセイを執筆されてきました。今回初めて小説に挑戦しましたが、いかがでしたか?

大城:僕は読書が大好きで、小学校の頃から本ばかり読んできました。地元の商店街にある書店に足しげく通い詰め、書棚のどこに何があるのかすっかり覚えてしまいました。やがて自分でも小説を書いてみたいと思うようになり、小学生、中学生、高校生、大学生とその時々でトライしたことも。でも書けないままでした。

それでも背表紙に自分の名前が書かれた本を出すことを夢見て、研究者になりました(笑)。専門書やエッセイでその夢は叶いましたが、小説を書くという目標にはいつになってもたどりつけなくて。今回、機会をいただいたので何とか頑張りました。

──どんなジャンルの本がお好きですか? お好きな作家さんはいますか?

大城:どんな本でも読みますが、特に好きなのはミステリーとSFです。作家では、亡くなった北森鴻さんが好きでした。実は、僕が教授を務める駒澤大学の歴史学科出身で、上京して最初にできた友人です。僕が書いた本を褒めてくれて、よく一緒に飲み歩いていました。ミステリーでは、有栖川有栖さんの作品も好きです。

──あとがきには、構想から完成まで3年ほどかかったと書かれていました。どんなところに苦労したのでしょう。

大城:一人称で書くか、三人称で書くか。また、最後のオチにも悩みました。ピラミッドを完成させるというオチでもいいのですが、何かいい言葉、いい落としどころを見つけたい。編集者からアドバイスをいただきながら、書き上げました。

他にもいろいろな方に助けていただきましたが、読み返して僕なりに感動しましたね。もし機会があれば、また小説を書いてみたいです。

──最後に、読者に向けてメッセージをお願いします。

大城:大学の雰囲気もリアルに描いたので、大学受験生に読んでほしいです。あとは、鳥取県知事にも読んでほしいですね。この本が、鳥取県で盛り上がってくれたらうれしいです。

取材・文=野本由起 写真=島本絵梨佳

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