1. トップ
  2. エピソード
  3. 「昔の写真、持ってきたんでしょう?」父の葬儀で孫の話をする伯母。思わず話題を変えたワケ

「昔の写真、持ってきたんでしょう?」父の葬儀で孫の話をする伯母。思わず話題を変えたワケ

  • 2026.9.16

控えの間で、子どもを抱いていた

父の葬儀が始まる前、親族控室には十人ほどが集まっていた。喪主は兄で、私は夫の隣に座り、下の子を抱いていた。

畳に下ろすとすぐ湯呑みに手を伸ばそうとするので、そのたびに抱き直す。久しぶりに会う親戚たちは、代わる代わる子どもの顔をのぞき込んだ。

「まあ、大きくなったねえ」

「ほんと早いね。ついこの間、生まれたって聞いた気がするのに」

父を偲びながらも、ときどき笑い声が混じる。私は、それでいいと思っていた。

父自身、しんみりした空気を好む人ではなかった。

お茶が配られてしばらくしたころ、父の兄の妻である伯母が、私の腕の中の子を見て笑った。

「小さい子がいると、やっぱりいいわねえ」

それから夫のほうを見て尋ねた。

「旦那さんのご実家は近いの?」

「ええ、わりと近いです。たまに子どもを連れて行きますよ」

「そう。ご両親も喜ぶでしょう」

夫が「まあ、そうですね」と笑うと、伯母は少しうらやましそうに息をついた。

「うちは息子のところに子どもがいなくてね。娘のところにはいるんだけど…内孫がいたらねえって、たまに思うのよ」

同じ言葉が、また戻ってきた

私は「そうなんですね」とだけ返した。

伯母にも、孫を近くで可愛がりたい気持ちがあるのだろう。それ自体を責めるつもりはなかった。

けれど別の話になったあとも、伯母はまた子どもを見ながら言った。

「内孫がいたらねえ。私も抱いてみたかったんだけどね」

伯母の息子夫婦にも、それぞれ事情があるかもしれない。まして今日は、父を送るために集まった日だ。

私は腕の中の子を抱き直してから、伯母に声をかけた。

「伯母さん。今日は父のことを話しませんか」

強く言ったつもりはなかった。それでも伯母は一瞬こちらを見て、「ああ……そうね」と小さく答えた。

少しだけ静かになったところで、廊下側に座っていた親戚が口を開いた。

「そうだね。その話はまた今度にしよう」

そして兄のそばに置かれていた封筒を指さした。

「昔の写真、持ってきたんでしょう?見せてよ」

兄が写真を畳の上に並べると、すぐに「あ、若い」「これいつごろ?」と声が上がった。伯母も写真をのぞき込み、「このころはまだ髪が黒かったねえ」と笑った。

やがて式場へ移る案内があり、私たちも立ち上がった。

白い花に囲まれた父の遺影の前で、私は子どもを少し抱き上げた。

「ほら、じいじだよ」

子どもは遺影より花のほうが気になるらしく、小さな手を伸ばして笑った。

その声を聞きながら、今日くらいは父の思い出を話していたい。私はあらためてそう思った。


※本記事は、GLAMが独自に実施したアンケートで寄せられた30代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています

※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

元記事で読む
の記事をもっとみる

注目コンテンツ