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「もしかして、髪も当たってました?」通勤電車で身支度をしていた女性。我慢していた私が見た光景とは

  • 2026.9.16

毛先が、2回頬に触れた

平日の朝、ホームで待つ列は三重になっていた。押し込まれるようにして乗り、私はドアの脇のいちばん端に体を寄せる。鞄を胸の前で抱え、降りるまでの十数分をやり過ごすつもりだった。

いくつめかの停車で扉が開き、私の左に女性が入ってきた。髪はまだ濡れていて、動くたびに毛先が小さく揺れている。

車体が傾いた拍子に、その毛先が私の頬に触れた。

冷たい。

反射的に顔をそらしたものの、しばらくしてもう一度、同じあたりに毛先が当たった。

「あの…」

そこまで出かかった言葉を、私は飲み込んだ。この混み方ではわざとでもないだろうし、朝から言い合いになるのも嫌だった。少しでも離れようと、顔だけを窓のほうへ向けた。

やがて女性は片手で鞄を開け、小さな容器を取り出した。

蓋を回し、中身を指に取って頬から額へ伸ばしていく。日焼け止めのようだった。

女性の反対側には、年上の男性が立っていた。

女性が腕を動かすたび、肘がその男性の腕に触れている。

男性は一度だけ体を引いた。

それでも場所に余裕はなく、次に女性が腕を上げたとき、またぶつかった。

後ろの人も少し体をよけ、近くの学生もつり革を持ち替えた。誰も何も言わない。私も同じだった。

「すみません、腕が当たっています」

その直後、年上の男性が女性のほうを向いた。

「すみません。腕が何度か当たっています」

責めるような言い方ではなかった。ただ、女性はそこで初めて手を止めた。

「えっ…あ、すみません」

慌てた様子で腕を下ろし、周囲を見回す。

そのとき私とも目が合った。

私はどう反応していいか分からず、小さく会釈した。すると女性は自分の濡れた髪を見てから、私の顔を見た。

「もしかして、髪も当たってました?」

「あ…はい。ちょっとだけ」

私が答えると、女性の表情が変わった。

「ごめんなさい。全然気づいてなくて……」

「大丈夫です」

女性は容器を鞄にしまい、濡れた髪を片手でまとめて後ろで一つに束ねた。

男性にも「すみませんでした」ともう一度頭を下げると、それからは腕を上げることもなかった。

次の停車まで、私の頬に髪が触れることもなかった。

声を荒らげなくても伝わった

会社に着いてから、給湯室で同期にその話をした。

「朝の電車でさ、隣の人の濡れた髪が2回も顔に当たってきたの」

同期が思わず顔をしかめた。

「うわ、何も言えなかったの?」

「言おうとはしたんだけど、あんなに混んでるとね。なんか言いづらくて」

「分かる。朝から変な空気になるのも嫌だしね」

「そう。そしたら反対側にいた人が、普通に『腕が当たってます』って言ったの」

同期は少し考えてから言った。

「怒った感じじゃなかったんだ?」

「全然。だから相手も普通に謝れたのかも」

「それならいいね。言わないと気づかないこともあるし」

私も、そう思った。

女性が周りを困らせようとしていたわけではない。ただ、急いでいたのか、自分の身支度に気を取られて周囲が見えていなかったのだと思う。

それでも、混んだ車内では少しの動きが誰かにぶつかることがある。

あの朝に覚えて帰ったのは、強い言葉ではなく、「当たっています」と静かに事実だけを伝えた声だった。


※本記事は、GLAMが独自に実施したアンケートで寄せられた20代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています

※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

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