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「いや、触ってませんよ」4時から続く下の階の生活音と、なぜか消えるごみ袋

  • 2026.9.16

夜明け前の4時から、下の部屋が動き出す

五十代になってから移った部屋は、二階の角にある。

下の部屋には年配の男性が一人で暮らしていて、越してきた日に廊下ですれ違ったとき、こちらの会釈に小さくうなずいてくれた。

音のことに気づいたのは、その週のうちだった。

早い日は夜明け前の4時、遅い日でも7時ごろには、下でドタバタと動き出す気配がする。

しばらくすると、窓を開けたまま、かなり大きな音でテレビが流れ始める。

春と秋は窓が開いているぶん、建物の前の通りにまで音が届いた。

私の部屋には床から直に響いてくる。夜だけは静かで、その静けさだけが救いだった。

ある朝、私は燃えないごみの袋を持って階段を下りた。

集積所は建物の前にあって、収集の車が来るまでにはまだ間があった。

部屋に戻って洗濯機を回し、窓から何気なく下を見ると、その人が集積所の前に立ち、網の中をのぞき込んでいた。

ちょうど私が出した袋のあたりを見ているように見えた。

分別の仕方に何か問題でもあったのかと気になり、少し迷った末、私はサンダルを履いてもう一度階段を下りた。

「おはようございます。あの、袋、何かまずかったですか?」

男性は顔を上げ、少し驚いたようにこちらを見た。

「いや、触ってませんよ」

思っていた答えと違い、私は一瞬言葉に詰まった。

「あ、いえ。さっき私が出した袋なので、何か分別を間違えたのかなと思って」

「触ってませんよ。見てただけです」

今度は少しだけ強い口調だった。

「そうですか。すみません」

私がそう返すと、男性はそれ以上何も言わず、建物の入口のほうへ戻っていった。

何かをしたと決めつけたつもりはなかった。

ただ、こちらが聞きたかったこととは少し違う返事だったことが、妙に頭に残った。

なくなる朝と、なくならない朝がある

そのころから、私が出した袋が、収集の車が来る前になくなっていることに気づくようになった。

毎回ではない。何もない朝のほうが多いくらいだった。

だからこそ、なくなっている朝があると、「今日はまただ」と気になってしまう。

回覧板を届けに来た近所の人に、一度だけ遠回しに聞いてみたことがある。

「すみません。朝、集積所のあたりで下の部屋の方を見かけることってありますか?」

相手は少し考えてから答えた。

「ああ、ありますよ。朝は早いみたいですね」

「そうなんですね。実は、出したはずの袋が、回収前になくなっている日があって…」

「え、そうなんですか」

「毎回じゃないんですけど、何度かあって」

「それは気になりますね。でも、ごめんなさい。私も何があったのかまでは分からないです」

「ですよね。変なこと聞いてすみません」

「いえいえ。何度か続いたら気になりますよ」

結局、その人も理由は知らないようだった。

私は袋に名前を書いたりはしていない。窓の下を見張ることもやめた。

下の部屋のテレビは、今も4時に始まる日があるし、7時まで静かな日もある。

半年たっても、袋がなくなる朝となくならない朝の違いは分からないままだ。

先週の朝、私が二階から階段を下りたところで、ちょうどその人が一階の部屋から出てきた。

「おはようございます」

私が声をかけると、男性は一瞬こちらを見て、小さくうなずいた。

「…どうも」

それだけ言って、そのまま建物の外へ出ていった。

なくなった袋がどうなったのかは、今も分からない。

ただ、早朝のテレビの音が聞こえると、あの朝、集積所の前で交わした短いやり取りを思い出すことがある。


※本記事は、GLAMが独自に実施したアンケートで寄せられた50代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています

※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

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