1. トップ
  2. エピソード
  3. 「近所付き合いはめんどくさい」近所付き合いを避けていた私。だが、庭を掃除している時に助けられた結果

「近所付き合いはめんどくさい」近所付き合いを避けていた私。だが、庭を掃除している時に助けられた結果

  • 2026.9.3

軍手だけで一時間、ほとんど進まなかった

引っ越してきたのは、六月のことだった。庭のついた古い借家で、家賃が安いのが決め手だった。

入居したときから庭には草が目立っていたが、二週間もするとさらに勢いよく伸び、場所によっては腰近くまである。

さすがに放っておけないと思い、最初の週末に草取りを始めた。

道具らしいものを持っていなかった私は、軍手をはめて一本ずつ抜いていった。

ところが根が深く、力を入れても途中で切れてしまう。土の中に根が残っているのが見えても、指ではうまく取れなかった。

一時間ほど続けたころには、手のほうが痛くなっていた。それでも片づいたのは、ほんの一部分だけだった。

隣の家には、年配の女性が一人で住んでおられた。引っ越しの挨拶はしたものの、それ以来ほとんど話したことはない。

(近所付き合いはめんどくさい)

必要以上に関わると、お互い面倒になることもある。そんな気持ちもあった。

草の前にしゃがみ込んでいると、その方が塀の向こうからこちらを見た。

「それ、手で全部やってるの?」

私が苦笑いしながらうなずくと、少ししてこう言われた。

「鎌を使うと楽だよ。うちのを1本貸してあげる」

手伝おうかとは言われなかったし、庭に入ってくることもなかった。しばらくすると、使い込まれた鎌が一本、塀越しに差し出された。

差し出されたのは、手ではなく道具だった

私は根から全部抜こうとするのをいったんやめ、まず伸びた草を鎌で刈ることにした。

使ってみると、たしかに早い。さっきまで一本ずつ苦労していたのが嘘のようで、その日のうちに庭の半分ほどを片づけることができた。

三日後、鎌をきれいにして返しに行った。借りたままでは気になるので、お礼に果物を少し持っていった。

「本当に助かりました。ありがとうございました」

女性は少し驚いたような顔をしてから、「そんなのいいのに」と笑って受け取ってくれた。

それから数日後の朝、玄関を開けると、小さな容器が一つ置かれていた。添えられた紙には、短くこう書かれていた。

「この前のお返し。うちで漬けたものを少し」

今度は私が容器を返しに行った。

それをきっかけに、季節ごとにちょっとしたものが行き来するようになった。夏には野菜をいただき、こちらも出かけた先で買ったものを少し渡す。とはいえ、長く立ち話をするような関係ではない。

出かけるときに顔を合わせれば、

「行ってらっしゃい」

帰ってきたときには、

「今日は暑かったね」

そんな一言を交わす程度だった。

でも、それくらいが私にはちょうどよかった。

以前は、近所づきあいそのものを面倒だと思っていた。けれど、あの方は最初からこちらの庭へ入ってきたわけでも、世話を焼こうとしたわけでもない。

困っている私を見て、必要な道具だけを貸してくれた。

もしあのとき「手伝ってあげる」と庭に入ってこられていたら、私は遠慮して断っていたかもしれない。

今では、自分用の鎌を一本買って物置に置いている。それを使うたび、塀の向こうから差し出された、あの使い込まれた一本を思い出す。


※本記事は、GLAMが独自に実施したアンケートで寄せられた30代男性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています

※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

元記事で読む
の記事をもっとみる

注目コンテンツ