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「うちの子、いま教室にいますか」毎日かかってきていた電話。お子さんが高校生になって気づいたのは

  • 2026.8.4
「うちの子、いま教室にいますか」毎日かかってきていた電話。お子さんが高校生になって気づいたのは

五時を過ぎると鳴る一本

学習塾の受付で、保護者の方の対応をしていたころの話です。

夕方の五時を過ぎると電話が立て込みます。受話器を置いた手で、そのまま次を取る時間帯でした。

その中に、毎日かかってくる一本がありました。中学生のお子さんの、お母様です。

「うちの子、いま教室にいますか」

到着の確認だけなら一分で終わります。ただ、たいていはそこから続くのです。

「席は前のほうにしてもらえます?あの子、後ろだと集中しないから」

声はいつも明るくて、早口でした。

話が途切れると、ご自身の学生時代に移ります。

「私も昔は、模試でずっと上のほうにいたのよ」

「そうだったんですね」

相槌を打ちながら、他の回線の点滅を目で追います。

鳴らなくなった記録簿

お子さんが高校生になり、受験の学年に上がりました。

模試の結果が、望まれていた形にならない時期が続きます。

正直に言えば、私は身構えていました。

これまでの調子なら、真っ先に受付の電話が鳴る。そう思っていました。

ところが、鳴りませんでした。

一週間、二週間。三週目の金曜日に、私は電話の記録簿を最初のページから見返しました。

あの名前が、どこにもありません。

「最近、静かですね」

「そうでしたっけ」

社員の先生は、それだけ言って教室へ戻ります。電話が減れば、仕事は回るのです。誰も困っていませんでした。

駐車場の窓の内側

迎えの時間になると、受付のカウンターまで来られる方でした。

いつも急いでいるような歩き方だったのを覚えています。

その日は、駐車場に停めた車から降りてきませんでした。

ガラス越しに会釈をしようとすると、顔が下を向きました。

次の週も、その次の週も同じでした。私が手を上げるより先に、車のライトが動きます。

お子さんがドアを閉めると、そのまま駐車場を出ていかれました。

髪をまとめる位置も、歩く速さも、以前とは変わっていました。何があったのかは分かりません。伺える立場でもありませんでした。

三月の終わりに、退塾の書類が郵送で届きました。

窓口にも、電話にも、最後まで声はありません。

「あのお母さん、結局なにも言ってこなかったですね」

「…そうですね」

記録簿を閉じて、私は受話器の位置を直しました。10年経った今も、夕方の五時を過ぎて電話が鳴ると、いちど手が止まります。

※GLAMが独自に実施したアンケートで集めた、30代・女性読者様の体験談をもとに記事化しています

※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

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