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「優先席が空いてたから座っただけ」妊婦のために譲った席。だが、割り込みした男に待っていたのは

  • 2026.8.1
「優先席が空いてたから座っただけ」妊婦のために譲った席。だが、割り込みした男に待っていたのは

譲ってもらった席が消えた朝

第一子を妊娠していたころ、毎日電車で通勤していました。

行きも帰りも満員で、座れることはまずありません。

つり革を握って、揺れに合わせて足を踏みかえるのが日課でした。

その朝も、ドアの脇に立っていました。

「妊婦さんですよね。あの席、座ってください」

斜め前にいた年配の女性が、優先席のほうを指さしています。

ちょうど一人ぶんの空きができたところでした。

「ありがとうございます」

お礼を言って、鞄を持ち直しました。人の間を抜けて、二歩ほど進んだときです。

横から伸びてきた腕が、私を追い越しました。

スーツ姿の年配の男性が、そのまま座席に腰を下ろしたのです。鞄を膝に置き、目を閉じました。

年配の女性が、すぐに声を上げます。

「その席は、あの妊婦さんに譲ったんですけど」

男性は目を開けもしません。

「優先席が空いてたから座っただけ」

それだけ言って、顔を窓のほうへ向けました。女性の頬が赤くなっていきます。

私は小さく首を振りました。こういう人もいるのだと、飲み込むつもりでした。

車内から次々に上がった声

そのときです。通路の向こうから、はっきりした声がしました。

「私も見ていました」

つり革につかまった学生風の男性でした。

責める調子ではありません。ただ事実を短く言っただけの声です。

続けて、座席の端に座っていた女性が顔を上げました。

「譲られた席ですよ」

「どうぞ、譲ってあげてください」

今度は、少し離れて立っていた作業着の男性でした。

大きな声を出した人は、一人もいません。それでも短い言葉が、順番に車内を渡っていきました。

男性の目が開きました。前を見て、それから左右をゆっくり見回します。

何か言いかけて、口を閉じました。

結局、一言も言わないまま立ち上がりました。

鞄を胸に抱えて、隣の車両のほうへ歩いていきます。人の間を抜けていく背中が、ドアの向こうに消えました。

年配の女性が、私の腕を支えてくれました。

「ほら、座って」

腰を下ろすと、張っていた足が急に楽になりました。

降りる駅まで、私は何度も頭を下げました。

「無理しないでね」

女性はそう言って笑い、ドアの向こうで小さく手を振りました。

子どもが生まれて、また同じ路線に乗るようになりました。

半年ほどたった朝、つり革の下に大きなお腹の人が立っていました。目の前の席が空いた瞬間、私は自分でも驚くくらい、はっきり声を出していました。

「そこ、どうぞ譲ってあげてください」

※GLAMが独自に実施したアンケートで集めた、30代・女性読者様の体験談をもとに記事化しています

※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

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