1. トップ
  2. 「さしすせそ」より先に酢を入れる!?減塩しながら旨みを引き出す新常識

「さしすせそ」より先に酢を入れる!?減塩しながら旨みを引き出す新常識

  • 2026.5.30

「さしすせそ」より先に酢を入れる!?減塩しながら旨みを引き出す新常識

「酢は体にいい」と聞くけれど、実際どう取り入れたらいいのでしょう? 全国33の酢蔵を巡る発酵料理研究家・岩間明子さんは、「さしすせそ」より先に酢を入れる味つけ法をおすすめします。東京農業大学の教授で調味料研究の第一人者・前橋健二さんとともに、「酢の本当の力」について語り合ってもらいました。3回に分けてお届けする第2回です。

酢は醤油に勝てなかった。けれども…

岩間 調味料の中では、塩と酢がいちばん古いわけですよね。

前橋 そうですね。ただ日本では醤油が登場したことがとても大きかった。醤油が一般的になったことで調味料の世界がガラリと変わりました。酢は醤油に勝てなかったんです。醤油は塩味に旨みがあるだけでなく、香りも豊かです。日本の食文化の中では、革命と言えるほどのインパクトがありました。

江戸時代の文献を調べたことがありますが、江戸前期の料理書では味つけは塩か酢が中心でした。それが後期になると、ほとんど醤油になるんです。

岩間 けれど酢には醤油にはない機能があるから、廃(すた)れなかったんですよね。

前橋 そうです。酢に醤油や味噌を合わせるなど、さまざまな工夫が生まれました。いろいろな調味料と酢が一体化して使われるようになったんです。

海外でも、ウスターソースやケチャップ、マヨネーズといったポピュラーなソースには、ビネガー、つまり酢が必ず使われています。酢には味をはっきりさせる力があります。食材が本来持っている旨みを際立たせる力があるため、塩味を付け足す必要はあまりありません。

下準備の段階から酢を使ってみると

岩間 その効果を、新刊『お酢推すレシピ』では「VSS」として書きました。
Vは酢、Vinegar。
Sは糖、Sugar。
もうひとつのSは塩、Salt。

つまり、V=酢、S=糖、S=塩という調味順を推奨しているんです。

日本では、従来の味つけ順として「さ(砂糖)→し(塩)→す(酢)→せ(醤油)→そ(味噌)」が知られていますよね。でも、酢を料理に頻繁に使うようになって、「なぜ日本の調味順では酢が真ん中なのだろう」と思うようになりました。

それで下準備の段階から酢を使ってみたんです。

前橋 VSSか、なるほど。酢はその性質上、肉や魚に使うと一瞬キュッと身が締まります。ただ、しばらくするとほぐれてやわらかくなっていきますね。

岩間 そうなんです。肉や魚、野菜といった食材にはもともと味があります。その味をはっきりさせること、嫌な臭いをマスキングすること、ぬめりを取り除くこと。そうした酢の機能を活かすのがVSSだ、というのが私の結論です。

「あさりの酢蒸し」は最高でした

前橋 酢が「さしすせそ」の真ん中にあるのは、酸味を生かすためですね。最初に入れてしまうと酸味が和らぐ。後から入れると酸味が際立つ。だから、あの順番になっている。

でも酢には旨みを内側に取り込んで逃さない、いわばガードする力があります。食材に作用して働く酵素があるので、旨みを逃がさないんです。

岩間 プロの料理人さんに伺うと、砂糖は分子が大きいので、調理の最初に使わないと食材に入り込みにくいといいます。醤油や味噌は最初から入れると香りが飛んでしまうから後のほうがいい。そうした考え方からでき上がったのが「さしすせそ」だと聞きました。

でもそうすると、塩が最初のほうに入るのでどうしても塩分過多になりがちです。酢を最初に使って、食材の味をしっかり引き出しておけば塩分はそんなに必要ありません。自然に減塩につながります。「あさりの酢蒸し」は最高でした!

前橋 酢は貝の殻のカルシウムを引き出しますからね。しじみのみそ汁に酢を使うと、通常の4.4倍のカルシウムが摂れるというデータもあります。カルシウムを多く摂りたい更年期世代や高齢者にはいいですね。

「一瞬で臭いが消えました!」

岩間 臭いのマスキング効果もすごいですよね。ぶり1切れにつき小さじ1ほどの酢を振りかけるだけで、一瞬で臭いが消えます。

前橋 アルカリ性の臭いを、酸性の酢が中和するからですね。

それから、ぬめりの成分のひとつであるタンパク質を凝固させるので、洗い流しやすくもなります。ほんの少しで効果があるのが酢の力です。

醤油という調味料は確かに香り豊かでおいしい。ただ、塩分が鬼門です。使いすぎには気をつけなければなりません。その点、酢はいくら使っても大丈夫なのがいいですね。

岩間 本では、素材に対して使う酢の量は、だいたい小さじ1〜2なんです。

酢の使い方には可能性がある

前橋 5ml程度ということですよね。15ml(大さじ1)を1日に摂ると体に効果があるという研究結果は出ていますが、この量を一度に摂ろうとすると酸味がきつい。

岩間 「酸っぱいのが苦手」と言われてしまいます。

前橋 だから、そこが塩梅なのですよね。醤油にはないものを酢で与えて甘さを足せばいい。たとえば甘酒に酢を入れるとおいしいですよ。

岩間 酢の活用の幅、広いですね! 酢の使い方にはまだまだ可能性があるということですね。

新刊『お酢推すレシピ』では、ハンバーグやカレー、肉じゃがといった家庭でよく作られるレシピをたくさん掲載しました。これらを参考に、VSSの順を意識してぜひいろいろ使ってみていただきたいです。

お話を伺ったのは

東京農業大学 応用生物科学部 醸造科学科 教授
前橋健二さん

専門は農芸化学。博士。日本の調味料研究の第一人者。発酵における微生物と成分変化、発酵調味料、味の解析や味覚の仕組みなど、「発酵」と「味」について多方面から科学的にアプローチしている。著書に『「にごり酢」だけの免疫生活』(青春出版社)など多数。

ビネガー・発酵料理研究家/酢醸造所サポーター
岩間明子さん

お酢の魅力に目覚め、歯科衛生士として働きながら、お酢レシピの発信や、全国のお酢蔵を訪ね歩く「お酢旅」を続ける。お酢にハマるあまり、東京農業大学応用生物科学部醸造科学科の研究生となり、前橋教授に師事。『お酢推すレシピ』(主婦の友社)は初著書。

取材協力:東京農業大学
撮影:佐山裕子(主婦の友社)

元記事で読む
の記事をもっとみる