1. トップ
  2. エピソード
  3. 『ベランダから見える』で彼女を諦めさせた俺。前日にこっそり買った焼きそばに込めた本音

『ベランダから見える』で彼女を諦めさせた俺。前日にこっそり買った焼きそばに込めた本音

  • 2026.5.23
ハウコレ

俺はインドア派で、人混みも騒がしい場所も得意ではありません。彼女は俺と正反対で、季節のイベントを心から楽しむタイプです。今年もまた花火大会の話が来たのですが、俺は俺なりに彼女のことを考えていたつもりでした。

送信ボタンを押した4回

日曜の昼、スマホに彼女からの通知が届きました。文面を見て、頭の中ではすぐに当日の人混みが浮かびました。電車も会場も身動きが取れないほど混雑して、屋台は行列で、帰りはタクシーも捕まらない。考えれば考えるほど、行く気にはなれませんでした。

「花火大会行かない?」 というメッセージに対し「混むから嫌」と打ち、送信ボタンを押したあとで、もう少し言い方があったかなと思いましたが、もう遅いことです。

少しして「花火見たいんだけど」というメッセージが届きました。自分の家のベランダから去年見えた花火を思い出して、「ベランダから見える」と送信しました。それで話は終わったつもりでした。けれど、メッセージを閉じたあとも、彼女が浴衣を着て屋台で歩く姿が頭から離れなくなっていました。

仕事帰りに寄ったスーパー

花火大会の前日、仕事帰りに駅前のスーパーに寄りました。普段はあまり立ち寄らない店です。レジ前のかご売りの焼きそばと、塩茹での枝豆、それから瓶のラムネを6本。レジで店員に「お祭りですか?」と聞かれて、俺は曖昧にうなずきました。

家に帰って、ラムネを冷蔵庫の一番冷える段に並べました。屋台の代わりにはならないことくらい分かっています。それでも、何もない部屋に彼女を呼ぶのは違う気がして、自分にできる範囲のことをしておきたかったのです。 「混むから嫌」のあとに「ベランダから見える」とだけ返した自分の文面を、その夜もう一度見返しました。彼女がどんな顔をしてあれを読んだのか、考えると申し訳ない気持ちが膨らみました。

玄関を開けた瞬間

当日の夕方、チャイムが鳴って玄関を開けると、浴衣姿の彼女が立っていました。家のベランダで花火を見るだけなのに、彼女はちゃんと『夏』の格好をしてきてくれたのです。 何か気の利いたことを言いたかったのに、出てきたのは「うん、似合ってる」のひとことだけでした。

リビングに通して、彼女がテーブルの焼きそばと枝豆に気づいたのが分かりました。冷蔵庫を開けて「焼きそばあるよ。あと、ラムネ冷やしておいた」と言ったとき、彼女が一瞬黙ったのが見えました。 「混むから嫌」と返したあの日のメッセージと、目の前の景色がうまくつながらないのは自分でも分かっています。それでも、彼女が「ありがとう」と笑ってくれたとき、前日にスーパーへ寄った遠回りは無駄じゃなかったと思えました。

そして...

ベランダに二人並んで、花火を見上げました。遠くて小さくて、川沿いで見る迫力には敵いません。それでも、ラムネの瓶を握った彼女の横顔は、確かに夏の顔をしていました。 本当は最初から「家で見ようよ、用意しておくから」と返せばよかったのです。けれど俺はそういう言い回しが下手で、いつも肝心なところで省略してしまいます。彼女に申し訳ないと思いながら、来年は花火大会の前にもう少し丁寧な返事をしようと、心の中で決めました。 「ベランダから見える」のあとに続けたかった言葉は、まだうまく言葉にできていません。

(20代男性・会社員)

本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。

(ハウコレ編集部)

元記事で読む
の記事をもっとみる